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盟友

第1話 出会い


 義経らは、噂で聞いた崑崙山を探して周っていた。しかし、その場所は見つからない。いつの間にかモンゴルとの国境を越えていた。モンゴルでは、各地で戦闘が行われていた。その1つの闘いに巻き込まれた義経らは、闘いに勝利した後、その部族の長に「我れらのカーンに会ってくれ」と頼まれているところだった。義経は、闘いに巻き込まれたこと自体が不本意であった。意味の無い争いをしてしまったものだと思っていた義経は、カーンとやらに会ったとしても意味の無いことだと思っていた。義経は直ぐに上京会寧府に戻る腹づもりだった。いや、今は首都・会寧と名を改めている。

しかし、長の懇願に絆された形になった義経はカーンの元へと向かって見ることにした。長の案内で、翌朝早くにカーンの元に向う義経は何故か、好意を受けているようだった。この長は、ウリヤンカイ氏のジェルメと呼ばれていた。カーンの側近であり、譜代の将であるジェルメは、先の戦にいささか手こずっていた。その戦を勝利に導いたことにより、ジェルメの恩人となっていた義経だが、彼はそのことを知らない。ジェルメと同行する義経の歩んでいく道に障害となるものはなかった。彼は、ほどなくカーンと出会うことになる。

 義経とテムジンの出会いは衝撃的であった。お互いを一目で理解し合あうことが出来た。それは、1196年を過ぎようとする頃だった。その晩、見たものがいるという。青白き炎を纏う狼と紫の炎を巻き上げる猿の会合を。この時、2匹が何を話していたのかは、誰も知らない。だが、この時から、2人はお互いをヨシツネ、テムジンと呼び合うようになっていた。この二人の、いや2匹の出会いが、この時代を変え、歴史を分化させていくことになる。分化された歴史の辿る先は、誰にも予測が付かない。過去の歴史は急激な分岐点を迎えていた。

翌朝、義経らは北遼に戻った。そして、耶律履に2万の兵を貸して欲しいと頼んだ。耶律履に否やはない。この国は、義経のものでもあるのだ。義経は、北遼とは独立した軍隊を組織した。練兵場を作り、士官学校を作り、補給部隊も作った。3年を費やして、屈強の騎馬軍を編成した。その頃、海尊は為す術もなく、本部からは待機を言い渡されていた。そうしている内にリーガルが到着した。リーガルは、義経を一目見て納得していた。海尊には荷が重いと思われた。リーガルが見てきたエーレスの中でも義経は特別な者だった。少なくともリーガルには、そう見えた。リーガルは、本部に連絡した。

「今なら、彼らを抹殺することは可能だと思われます。しかしそれは、得策ではありません。何故ならば、この時代に飛散した宝器が彼らに共鳴を起こし始めているからです。増援隊を増やし、宝器の回収に全力を上げるべきでしょう。そして、彼らは既に宝器のいくつかを所持しています。これから、さらに宝器を所持することがあれば、彼らの力の増大は計りしれません。そうなれば、彼らからの宝器の奪取は、我らの甚大な被害を意味するでしょう。彼らよりも、出来るだけ早く、宝器を探し出し、この世界は放棄するのがよいかと思われます」


第2話 円陣


 1200年になろうとする頃、義経は耶律履に出立の挨拶に赴いた。それが、礼儀だと思っていたが、それは運命だった。耶律履の座る椅子の後ろ側から眩い光が漏れている。あれは、何かと尋ねると耶律履は、不思議そうな顔をした。義経は耶律履に断り、彼の背後の眩く光る物体を手にした。その表紙には「円の書」とあった。耶律履は、その書は誰にも読めないから無用の長物だと言った。義経は、その書を譲り受けた。

 その頃、テムジンの幕営に持ち込まれていたものもある。テムジンが幼い頃、失った父の形見の馬鞍と馬蹄だった。それらも眩く光を放っていた。

 1200年初頭に合流した義経とテムジンは、再会を喜び、今春の出兵を話し合っていた。今年こそは、モンゴル高原を統一したいと願うテムジンは、義経の合流を頼もしく思っていた。テムジンの軍勢だけでは、統一に後何年必要とするか予想がつかなかった。さらに戦に勝利したとしても、同一民族への情から捕えた敵の将を、解き放ってしまう。これでは、消したはずの火を、またぞろ野に燻らせるようなものだ。義経の率いる2万の兵は、軍事力の増強とテムジンの甘さを打ち消すものになった。

義経の得意とする戦法は、奇襲だったため、今年もその作戦を取る予定にしていた。しかし義経は、円の書を読み進むにつれ、考え方が変わって行き、ついに、新しい戦法を考え出した。早速、テムジンにその戦法を相談して見た。

「面白い。今年はそれでやって見るか」

春になり、出陣の時がやって来た。テムジンの宿敵タイチウト氏とジャジラト氏のジャムカが最初の相手となった。彼らも連合軍となり、テムジンに対抗して来た。義経・テムジン連合軍は新しく考案した戦法の布石として、円形の陣を敷いた。その円形の陣は、回転を始めていた。空から見ると、同心円上にいく列もの騎馬が疾駆しているように見える。円の中心に近いほど疾駆する騎馬の動きは緩く、外側に向かうほど激しい動きとなっている。

突然、前方の騎馬兵が僅かに膨れ上がり、そして敵に攻撃をかけた。攻撃をかけた騎馬兵は、5,6合撃ち合った後、離脱して行く。外側の騎馬兵に同調するように膨れ上がった円陣の内側の兵がそれに続く、これもまた攻撃をすると離脱して行く。敵の前線は常に疲れを知らない新しい兵と闘わなければならない。空から見ると、今まで円陣だったものが渦巻き状に見えていた。まるで、地に生えた竜巻のようであった。鷹に変じた吉次は、逐一義経に戦況を伝えている。

敵の前線は、その竜巻に根こそぎ持って行かれた。そこに離脱したはずの兵が新しい円陣を組み側面から同じ様な攻撃を仕掛けていた。数刻もしない内に敵は、本陣を残すだけとなった。味方の損傷はほとんど無い。疲れてさえいないように見える。20個くらいになった小円陣は、敵の本陣に襲いかかった。勝負は、見る間もなく終わっていた。

義経は、新しく考案した戦法に安堵感を持っていた。円の書には、直接力と力がぶつかることは、お互いの相殺を産み出すだけであり、力に対しては円を用いよとあった。それが、自然の摂理なのか義経には分からなかったが、今目の前にある光景は、それを証明しているのかもしれないと思っていた。

第3話 モンゴル高原の統一


 捕えられた敵将の全ての首が落とされた。義経とテムジンは、お互いに敵に対しては、非情になろうと誓いあっていた。しかし、敵であっても隷属するものに対しては、寛大な処置を行った。彼らの目的は、敵を滅ぼすことでは無く、纏め上げて行く事であった。しかし、義経にもテムジンにも、どのような国家が理想とされるのか、分かっていなかった。ましてや、2人は生まれ育った環境も違う。義経にとって、このモンゴルが国であるというには、あまりにも違和感があった。堅牢な家屋など、1つもない。城も城壁もない。何を持ってして、建国を確かめればいいのか分からなかった。一方、テムジンにとっては、移動する住居が当然であり、城にも、国境にも興味を持っていなかった。ただ、自分の周りに敵対する者が存在しない事が、自分の持つ国の証であった。そのためには、強くさえあればいいと思っていた。彼は、他国を侵略する意思を当初持っていなかった。侵略してくる者達を撃退した結果が、かつてのモンゴル帝国の礎となったに過ぎないのかもしれない。

タタール族の一部がモンゴル高原での最期の敵対行動を示していた。2人は、この部族をフルンブイルで打ち破り、モンゴル高原の覇者は、テムジンとなった。このことによって、テムジンは名実ともに、カーンの称号を得た事になる。モンゴル高原に居住する全ての部族は、遊牧民であり、法を定めたとしても、境を定めたとしても意味を為さなかった。義経の提案により、今まで戦の戦利品を糧としてきたテムジンは、戦利品としての略奪を止め、各部族に自治を認める代りに一定の税を納めることと、徴兵を行うことを約束させた。ここにモンゴル帝国の礎が築かれることになった。

現代に残る史実とされる史料には、ムカリとボオルチュを万戸長として、その配属を88の千戸長や百戸長、十戸長としたとある。そして、それぞれの長にはノヤンと呼ばれる貴族が任命されたとある。しかしながら、この史料はモンゴル帝国内部からの記録ではなく、外部の国から見えた姿であろうことが予測される。筆者の知る限りでは、原初のモンゴル帝国に厳密な法の存在はない。そのような状態で一人の長が10人の配下を纏め上げて行くことは、不可能であろうと思われる。実際には、モンゴル帝国の内政は、酷く脆いものであったのではないかと想像する。興味のある事柄ではあるが、この物語の本筋とは、直接的に関係しないため、いつの日にか、調べて見たいと思う。

 モンゴル帝国の礎が築かれたのは、1201年になるが、史実とされるものと、大きく違うのは、ジャムカが既に存在しないことである。このジャムカが、統一の大きな障害となったとされている。義経が塗り替えた歴史は、これからさらに、加速度的に時代を分岐させ、加速度を超えた速さで時代が移り変わって行くことになる。


第4話 人材


 義経とテムジンの悩みは、人材となっていた。戦闘では、もはや誰にも負ける気はしない。問題は、戦闘に勝った後の統治となっていた。国としての形を作りあげなければ、民を纏め上げたことにはならない。そして、今統治すべき国の民の全ては、遊牧民である。基本的に遊牧民は支配されることを嫌う。支配したように見えても、彼らの根源にあるものは、自由であるため、束縛は出来ない。何を持ってして、彼らを纏め上げるべきなのか、2人にとっては戦闘以上の悩みとなっていた。

 遊牧民にとって、生活出来る場所ならば、この地球上の何処であっても問題はない。今日、そこにあった集落が、明日別な場所に移動していたとしても、不思議ではない。それを束縛しようとすれば、反乱が起こるのは、火を見るより明らかである。2人にとって必要な人材は、この移動する民たちを把握し、中央とする2人の周辺と連携を築ける者となっていた。その集落が必要とすれば、物資を供給し、代りに兵を調達する仕組みが作られていったが、2人には、全兵力の数も質も把握できていない。ましてや、民の総数など分かろうはずなどない。

 これら遊牧民は、集落を大きくすることを目的としていない。自然からの恵みと釣り合う集団の構成を理想としていた。余剰に産まれた子供達は、男なら独立させ、女なら嫁にやりたかった。じょじょにだが、この余剰の子供達が、2人の軍隊の中核となって行く。また、物資の平滑化を行ったため、貧富の格差が無くなりこのモンゴル高原では、争いごとが少なくなっていった。さらに、あの狼と猿との会合が、 真しやかに噂となり、2人の求心力となりつつあったが、このことを2人は知らない。これがカリスマ性を育み、帝国の後押しとなって行くのだが、未だその段階は確立されていない。

 後に、統治形態は地域ごとに異なることになるのだが、その基本的な考え方はこの時に産み出されたといっても、過言ではないかもしれない。小さな集団の自治を認め、必要以上に大きくなる集団を抑制し、束縛をせず、平等な物資の供給と交易が行われることになって行く。史実とされる史料によっても、この時代が交易の全盛時代と突き進んでいくことが、窺える。

しかし、それを現実のシステムと化したのは、耶律楚材であった。2人と彼は、10年もしない内に出会うことになるのだが、今のこの時は、知るよしもない。今の2人は、統治形態に悩み、広く人材を求めていた。

巡回と称して2人は、広く集落を観察することに努めていた。同じモンゴル高原の民であっても、生活様式を始めとした、考え方の異なることを知った2人の悩みは、増すことがあっても、減ることはなかった。ある集落に差し掛かった頃、一筋の光を見た気がした。しかし、それは一瞬で、確信の持てるものではなかった。この夜は、ここの集落に宿営することにした。集落を上げての歓待が行われたが、歓迎していないことは、分かっていた。ただ、恐ろしいだけなのだ。その時、一筋の光が幕舎の中に入って来た。若い娘だった。首から何か木簡の一部のようなものを下げている。義経は怯える娘に笑いかけながら、その木簡を手に取った。義経には、一文字「感」と読めた。

第5話 霊樹


 義経は、その木簡を持つ娘に「この木簡は何処で手に入れたものだ」と、訊ねた。娘の受け答えは鈍かった。決して、木簡の出所を明かすまいとしているように見えた。さらに、義経は「この娘は人の心が読めるのか」と察していた。いや、ただ何となくそう感じていただけなのかもしれない。それというのも、娘の返答は、常に義経の言葉を先回りして発せられていたためである。自ずと義経は、娘を問い質すことが出来なくなっていったため、直接訊ねて見ることにした。

「お前は、人の心が読めるのか」

 はっとした娘は、これまでかと思ったのかもしれない。

「いえ、私は人の感情が分かるだけです。貴方様は、本当はとてもお優しい方なのですね」

「ここでそれは、誉め言葉に成らぬ。それより、その木簡は何処で手に入れた」

「そ、それは…分かりました。それでは、明朝貴方様だけを御連れ致します」

 明朝、義経は娘と山道を歩いていた。山道とは名ばかりで、知らないものには辿れないような路だった。義経が娘に何を話しかけても、娘は「自分には答えられません」というだけだ。やがて、祠のようなものが見えた。祠のように見えたのは、義経が日の本に産まれ育ったせいだろう。祠というにはあまりにも簡素で、数個の石積みの上に板切れが2枚被せてあるだけだった。しかし、義経には、その板切れが輝いて見えた。

 その祠の前に立っていた義経には、娘以外の人の気配を感じることが出来なかった。しかし、娘の辿る先を見ると一人の初老の男がいて、石片を片手に何かを削っていた。義経は、その男の傍らに行き、何をしているのかと尋ねたが、男は何も答えなかった。その時、娘が代りに謝るように言った。

「いつものことなのです。仕事をしている時は、何も伝わりません。仕事が終わるまで、そこの洞で、お休みくださいませんか。私で分かることであれば、お答えします」

 義経は、娘に導かれるままに洞に入った。

「この木簡の一部は、私の父が作ったものです」

「何故、話す気になったのだ。山道では、一言も話さなかったのに」

「それは、貴方様がこの場所にお着きになれたからです。誰でもがここに辿り着けるのではありません。霊樹様に選ばれた者しか、ここに辿り着くことが出来ません」

「霊樹とは、あれのことか」

「やはり、お分かりになれるのですね。このことに父が気付いたのは、15年ほど前のことだそうです。私には兄が2人いたそうです。父は、幼い兄達を抱えてここにきたのだそうです。そして、私の持つこの木簡と同じものを兄達に触れさせたそうです。すると、兄達は全ての生気を吸い取られて、干からびてしまったそうです。その時の木簡があの祠の屋根です。父には、今でも後悔の念が強いのでしょう。私は2年ほど前、自分の意思でこの山に入りました。そして、自分の意思でこの木簡に触れました。この文字が木簡に浮かび上がってきたのは、その時です。父がこちらに向かっているようです」

第6話 人材発掘


 「よくぞ、いらっしゃいました。全ては霊樹様の意のままに従います。何を御望みでしょうか。霊樹様には、このクランの次に山に上るものの望みを叶えよと言われています」

 義経には、予期せぬ出来事だったが、毅然と言い放った。

「我らは、人物が欲しい。人物を選んで欲しい。方法は任せる」

 この日から、数多の人材の発掘が行われた。霊樹の山には、護衛兵が付いた。総兵数を2千人とした隊長は弁慶、副将は忠信とした。この山を目指して、人材となる候補者が続々と集まっていた。その中からクランによって、悪意を持つ者達が駆除されていった。有益な人材であっても、この帝国に害を為すことが予測されるのであれば、登用するわけには行かなかったためである。このクランによる選抜が、結果をどのように導いたのかは、判断出来ない。

 もしかすると、クランの選抜は不要であったのかもしれない。というのも、無事に霊樹の元に辿り着ける者は、千人に一人か二人だったためである。ほとんどの者が、山の中を彷徨い、その者にとっての有益な何かを得て戻ることはなかった。木簡を得て戻ったものの中に、クランのように文字を得たものは極少数だった。多くの者達は、木簡の中に数字のみを得ていたのだが、義経らには、この数字の意味がまるで分からない。クランの父に訊ねても、

「私にも意味は、分かりませぬ。ただ、霊樹様から授かったことだけは、確かです。いつの日にかその意味も分かる日がくるやもしれません。その者達を重くお用いなされては如何でしょうか」

 義経らは、この者達にモンゴル高原の民の把握を任務として与えた。そもそもの人材探しが、この把握のためであったのだから、あながち、無駄な行事だったとは言えないだろう。そして、ケムの者7人と静も文字を授かっている。その文字が力を持つのか、ただの象徴なのかは知るよしもないが、ケムの者と静が霊樹によって、受け入れられたということは、深い意味を持つことのように思われる。また、ケムの者達以外にも10数人文字を得た者達がいたが、それは、物語が進むに連れて明らかとなっていくだろう。

1201年の行事はこのことで終りそうだったが、与えられた数字に万の位を持つ者が一人だけ存在し、その男の働きが顕著に現れ出していた。その男の名はボオルチュと言い、今まではテムジンの片腕として軍を率い、戦闘を指揮する存在だったが、この日を境に前線からは身を引き軍全体の運営を任されることになって行く。ボオルチュは、文字ではなく数字を得たことに些か不満を持っていたが、任された仕事は自分に適任のような気もしていた。実際、これからの戦闘は、ボオルチュの働きのおかげで、補給が切れる事も無く、兵の補充も適時行われることになる。

ジェルメは「纏」の文字を授かっていた。彼は、全ての人材を統率し、行政長官の役を担う事になる。

ムカリは「先」の文字を授かっていた。彼は、戦闘時に前線の万戸長となり、精鋭騎馬軍を率いる事になる。

第7話 軍の編成


ボオルチュの最初の仕事は、軍の再編成であった。今までの戦からの経験で、うまく軍を指揮出来ないことが度々あったことを思い出していた彼は、その原因の理由を肌身で感じていた。原因は「率いる軍の中に兵の質の差が歴然としてあることだ」と考えていた。弱く、機動力も持たない一部の兵達のために時として、屈強な部隊の攻防が妨げられることもあった。彼は、軍を再編成し、それに一から十までの階級を与えた。この数字が、自分が授かった数字と関係があるのかもしれないと思ったが、それは未だ、テムジンの耳には入れていない。実際、確信のないことでもあったため、自分の配下となっている数字を授かった者達だけを軍組織の要に、適切だと思うように配している。

 義経の元には、精鋭騎馬軍団2万人がいるが、ボオルチュはこの軍の再編成を行っていない。ボオルチュからこの軍は、何か異質に見えるのであった。同数の兵の軍を率いて、この軍と闘った時に必ず勝てるという自信を持てなかった。と、いうよりも、どのように闘ったならばよいのか見当がつかない。義経の軍はあたかも1つの生き物が変幻自在に動いているように思われた。今までの戦の経験からも、今までここにいたはずの義経の軍は、いつの間にか彼方へと移動し終わっていることがあり「神出鬼没」とは、このようなことかと、度々思ったことがある。

テムジンの元にはおよそ10万人の騎馬団がいるとされている。その他に、他の部族から集めた者達から構成される軍団が、およそ20万人いる。

 霊樹の山の森に辿り着けたのは、764人だけだった。それぞれのものが、木簡に文字か数字を貰った。「将」の文字を与えられたものもいる。彼らは万戸長となった。かつて、部隊長として働いていたものの何人かは、別に「官」を与えられた。その者達は軍から外され「行政」へと配属された。ほとんどの千人長は「千」の位の数字を授かっている。特別な文字「特」を与えられたものもいる。この者達は、部族間の垣根を越えて、新しい部隊を作った。隊長を伊勢義盛として、87人の者が集った。この部隊は、特殊任務を担う事になる。

 これらの軍団編成は、次年度に持ち越した。1202年は、民間人から応募することにした。今義経らの望むものは、統治官だった。テムジンは、このことを義経に任せていた。自分は、各所に密偵を放ち、世界情勢を集めていた。テムジンにとっては、闘いが全てだった。これもあの夜、お互いに納得していることだ。テムジンが進み、義経が治めて行く。総力戦が必要な時だけ義経の軍勢は、助力する。吉次は、テムジンの陣営に努めていた。彼の情報収集能力は、卓越している。また、クランはテムジンの第2王妃となり、軍営に努めている。彼女は、人の感情が読める。敵か味方かの判断は彼女の役割になった。

 静がこの地にやって来た。彼女には、山行の必要は無かった。霊樹が彼女を呼び寄せた。「匠」の称号を持つ男は、彼女のために特別性の冠を作った。彼女の頭に冠をすげた時、冠は変化を起こした。象牙色の眩い光を放ち、彼女に3つ目の宝器を与えた。この宝器の真価は、未だ誰にも分からない。

第8話 宝器の反乱


 リーガルには、戸惑いと困惑があった。彼の持つ宝器回収機がうまく働かないのだ。全ての宝器が、回収した途端に直ぐに飛散する。守護獣を持つ宝器には、守護獣の無効化装置も働かない。リーガルといえども、生身の人間だ。知恵と判断能力、装置の扱いが上級者レベルであるだけで、宝器に真っ向から立ち向かう力は持っていない。

リーガルは、本部と連絡を取った。

「大鵬をお貸し願いないでしょうか。このままでは、宝器の回収もままなりません。まるで、宝器が我らを拒絶し、ケムの味方をしているようにさえ感じられます。今回の騒動は、何かが狂っています。異常事態だと申しあげます」

「大鵬か。お主なら使いこなせるだろう。貸出に異論はない。しかし、もう少し今回の騒動の原因を探って貰えぬかのう。大鵬は、宝器では無い。我々が開発したものだ。宝器の飛散を食い止めるために大鵬を製造した。しかし、今回の飛散は大鵬を擦りぬけて起こった。今回の騒動を静めるためには、大鵬だけでは不十分ではないか。玄武も発動させる必要もあるのかもしれない。いずれにしても、もう少し調査を進めてくれないか」

「ご存じの通り、我々に13名の負傷者が出ています。既に本部に送還済みですが、問題なのは、エーレスの進化です。彼らは、またいくつかの宝器を手に入れています。その中には、あの霊樹も含まれています。霊樹は、レベル3のはずです。これから霊樹の産み出す力が彼らを更に、進化させます。今、決断をしなければ、この時代に飛散した宝器を諦めるか。エーレスと戦闘状態に入らなければなりません」

「うむ。エーレスを葬ることの出来る猶予期間が、どのくらいあるのか知りたい。エーレスをこちらの被害無しで葬り去る期間じゃ」

「確信は、持てませんが、早ければ2週間、遅くとも3ヶ月で手に負えなくなると思われます。この時代にいる我々は、敏感にエーレスの進化を感じています。音巫は3つ目の宝器を手に入れました。いつ5つ目を備え完全体になるのか予測つきません」

「なんじゃと、3つ目を。分かった。大鵬と玄武、青竜も送ろう。但し、エーレスを直接刺激することは許されない。あくまでも、宝器の回収に努めよ。いや、大鵬は止めよう。代りに朱雀を送る。ついでじゃ、白虎も送ろう。指揮はお主が行え。4門艦を発動させて、失敗は許されないぞ」

「ありがとうございます。必ずや、任務を全う致します」


第9話 時間


 何故、遥かな未来に存在する指導者達と、12世紀に存在するリーガルとが会話出来るのであろうか。時間の流れだけを考えれば、不可能なはずである。

筆者は、時間を3種類に区別したい。1つは、20、21世紀で考えられている相対時間である。これは、物質が動く事から発生されていると考えられている。しかし、未来に向かっている時間をこの相対時間だけで、うまく説明出来るのだろうか。仮に説明出来たとしても、科学が飛躍的に進めば、未来予測が出来る事になる。つまり、物質の動きを完全に予測出来れば、いいだけの事である。

ここで、もう1つの時間を想定したい。絶対時間である。この時間がどのように刻まれて行くのかは、未だ思い付かないが、均一の目盛を持って刻む事は、無いように思われる。そして、この時間が刻まれた時、物質は過去のものを残し、未来にはそのコピーが増加されると考える。この事により、膨大な物質が増えるが指数的、階乗的に考えれば、高々の数になる。また、そう考える事によって、過去が変わっても現在に影響を与えない、というこの物語の設定が成立する。

 3つ目の時間は、冒頭の疑問の答えとなる。それは、固有時間である。その時に存在するものは、固有時間を持ち、相対時間や絶対時間に影響を受けない。つまり、固有時間は、存在している時が今である。この固有時間の今が過去と未来を繋げ、会話を成立させる。

 







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