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第五話『変わりゆく日常』


やっと現代にもどってきました、が至って平凡な話です。


そして新たな新キャラ。


「はぁ~、やっと終わった…。」


イスに背凭れをかけ欠伸を一つ。


静かな教室では小さな僕の声もよく響く。まるで僕だけの空間みたい。


窓から差す太陽の光が耐えられなくて目を逸らす。


太陽って僕に喧嘩売ってるのかな。眠い人の最大の敵だよ。悪魔だよ。



伸ばしていた筋肉を一気に縮ませる。


「はぁぅ~。」


うぅ~。この脱力感が好きなんだよねぇ、堪らん。


固くなってる筋肉が解れて気持ちいい。



「ぁぁ~。」


「?。」


視線を下に落とし前の席で欠伸をしている女の子を見る。


うん、アクアだね。


彼女も結構眠くなるタイプでたまに授業中寝たりするっけ。


「アクアー、君も眠いのー?。」


アクアがいつも以上にだるそうな目をしながら僕の方に振り向く。


「正直だるいわ…。」


しつこいようだけど本当にアクアは一界のお姫様なんだろうか。魔界人の人たちはわざと気をきかせて起こさないのかな。


僕は苦笑いをして鞄に教材を詰める。


「学問って単純すぎるのよね。特に人界の問題は簡単すぎるわ。」


「僕からしては魔界の問題は簡単だと思うんだけどな。」


「どっちもどっちね。」


最後の教科書を詰めた後アクアの隣の席に座る。


「アクアもこの一ヶ月で人界の文化に詳しくなったよね。」


「そうね。簡単だからかしら。」


「簡単を強調しなくていいから。アクアは頭がいいからそういうこと言えるけど真面目に頑張っても理解できない子はいっぱいいるんだよ?。」


「それは気持ちの問題よ。もしくは元々のスペック。」


うーん、スペック言われちゃうとなにも言えないなぁ。


でも僕は努力してここまでできたしな、やれば簡単と思う僕はどうなんだろう。


「ほら、あれがスペックが低い子の例よ。」


スペックが低い子?。


僕はアクアが指差している方に目を移しその子を見る。


その子は教科書やノートが置かれている机に死にそうに突っ伏している。


表情はげんなりして魂が抜けているみたいだ。



竜人のお姫様、リース・マロウだ。


「あ、あはは。リース生きてるー?」


「……死んじゃいます…。」


潰れたような虫の声で口を動かす。



そう、リースは言ってしまえば頭が悪い。絶望的、破滅的に。


「破滅的は言い過ぎですよ~。平均を少し下回る学力じゃないですか…。」


「その学力が如月にとっては破滅的なのよ、学園トップのこいつのね。」


「桐佳さんもアクアさんも酷いですよ…。そんな頭がよくて、綺麗で。」


綺麗は余計だと思うよ。


リースはゆらゆらと起き上がり教科書やノートを鞄に詰めて席から立ち上がり僕の隣に座ってくる。


「勉強なんてやらなきゃいつになっても身につかないわよ。」


「やっても身につかないんですよ!。」


それは勉強の仕方が少し悪いんじゃないかな。


リースの勉強を見ている限りでは恐らくノートを読み返すだけのことしかやってないんだと思う。教科書や参考書は一切使ってないで書いたことだけをね。


「えっと、リースが苦手だったのって他の世界の文化だったよね。」


「はい。獣界の学問なら問題ないんですけど他の世界の学問はまったくのノータッチでして。」


あぁ、そっか。僕もそうだったしその気持ちわかる気がするな。


「まぁ、まだテストには程遠いし、これから頑張っていけばいいのよ。私も力を貸すから。」


僕もアクアの言葉に頷く。


リースの知らない人界のことや魔界のことは僕たちがいっぱい知っているから助けにはなるよね。


アクアの言葉や協力した僕に感動したのか、リースは僕たちの手を強く握り深々と頭を下げてきた。


「お願いします!。非常に助かります!。」



…うん、別に僕としては問題ないんだけどね。


その…痛いから。





―――――





「あれから一ヶ月、結構短かったよね。」


僕たち三人は学校を後にして商店街の喫茶店『オルフェ』でお茶をしている。


僕はティーカップに入っている紅茶を手に取り口に運び喉を潤す。んぅ~美味しい!。


アクアはコーヒーを飲み、リースはメロンソーダを飲む。


二人とも美味しそう。


「そうですねぇ、早かったですね。」


「特別大きなこともなかったしね。」


「模擬戦が印象深すぎたから正直覚えてないわ。」


それにリースが頬を膨らませアクアを恨めしそうな目で見る。


「アクアさん、その話しはやめてくださいって言いましたよね。人の黒歴史を掘り返すのはいけないことってご両親に教わらなかったんですか?。」


そんなこと吹き込む親は珍しいよ、リース。


「残念ながら私の親はいじる相手はとことんいじり倒せってよく私に言い聞かせてたわ。」


「とんだ親ですねっ!?。」


恐らく嘘だと思うんだけど言うのはやめておこう。



「でも、僕はあの模擬戦のおかげでクラスからの印象が良くなったよ。」


「『女神の守護神』とか変な二つ名つけられたわよね。」


「うぅ…、やめてよその異名。泣きたくなるから。」


恥ずかしすぎて死んじゃいそう。


一ヶ月前の僕は確か膝をついて二十分ほど落ち込んでたっけ。慣れないものは本当に耐性がないから慣れるまでが辛いんだよね。



紅茶を飲んで気を落ち着かせるが


「私は桐佳さんらしくてかっこいいと思いますよ!!。」


こんな純粋な笑顔を浮かべられたら無理に決まってる…。


「わわっ!?。だ、大丈夫ですか桐佳さん!。私なにか気に障ること言っちゃいましたか!?。」


慌ててハンカチで僕の涙を拭き取ってくれるリース。


「うぅん。この紅茶が美味しかっただけだよ…。」


ただ、優しすぎるのもたまに人を傷つけるものなんだよ。


「あんたも苦労するわねー。」


「他人事みたいに言わないでよー。」


「だって他人事じゃない。」


困ったもんだと溜め息を一つ。



はぁ、友達が増えることは嬉しいんだけどなんだか複雑な気持ち。



「おかわり如何でしょうか?。」


後ろから声がかかる。ウェイトレスの人かな。


「あ、お願いします。」


振り返りウェイトレスの女性を確認すると、その人は僕がよく知る人だった。


「って咲耶じゃないか。」


「いらっしゃい、仲良し三人組。」


咲耶は白黒のロングスカートの可愛いメイド服を着用して木のトレイを片手で持っていた。


「咲耶先輩とっても素敵ですよ!!。」


「こんにちは。ここで働いてたんですね、様になってますよ。」


少し照れ臭そうに頬を染める咲耶はここオルフェのウェイトレスさん。


バイトをしているのは単なる趣味なんだって。


「あはは、二人ともありがと。はい桐佳、紅茶。」


「ん、ありがと。」


お互いのティーカップを交換し紅茶を一口飲む。


「うん美味しい。これ咲耶が淹れた紅茶でしょ?。」


「やっぱ桐佳には気づかれちゃうか。」


「よく飲んでるからねぇ。」


ティーカップをテーブルに置いたときにリースが首を傾げていた。


「?、こちらのお店にはよく来られているんですか?。」


うんと頷く。


「僕もここでバイトするときがあってね。去年の六月くらいからかな、今じゃ常連さんだよ。」


お金がないときにタダで紅茶を飲ませてもらっていることは秘密だよ。多分アクアには気づかれてるけど。


そうだったんですかと軽く頷いたリースはなにかを考えるかのように顎に手を当て上を見る。



「おーいリースー。」


リースに手を振るが手を完全に上の空状態、変な妄想でもしてるのかな。


「どうしたのリースちゃん?。」


肩を叩きはっと我に返るリースの頬は赤く染まっていた。


「…い、いえ。桐佳さんも咲耶先輩と同じ格好で働いているのかなぁって。」


うぐっ、鋭い、鋭いよこの娘。


「そうだね。桐佳も私と同じこの格好で働いてるよ。」


…ねぇ、なぜリースはそんなに嬉しそうに笑顔になるの?。僕男だよ?。


みんなには言わないけど僕がメイド服を着る理由は時給アップの為であって断じて趣味なんかじゃないからね。慣れたけど。



「実を言うと桐佳目的で来るお客さんもたくさんいるんだよね。」


「はぁっ!?、なにそれ!?。」


半年以上ここに通ってきたけど今の話しは初耳だよ!?。


僕は席を立ち咲耶を見上げる。


口を滑らしたと口元を押さえた咲耶は目を逸らす。


「あっちゃ~、知らなかったんだね。」


「まったくこれっぽっちも知らないんだけど!。」


「まぁ…、察せなかった桐佳が悪い。」


「正論だけど納得いかない!。」


「まぁまぁ落ち着きなさい如月。どうどう。」



落ち着けるわけがない!、と振り返り言い返そうと口を開けようとしたが。



「………………。」



視界に映るお客さんたちの視線が僕の開く口を閉ざした。


そして急いでお客さんたちに頭を下げる。


「ごめんなさい!!。」


頭を上げイスにすぐさま座り顔を真っ赤にしながら紅茶を一気飲み。



…うわぁぁ、恥ずかしすぎる。公開処刑も甚だしいよ。


お客さんに迷惑かけて絶対嫌がられた。印象が悪くなった。


…これって、もしかしてバイト、クビになる恐れあり?。


びくびくしながら視線をお客さんに向けると。



「うはぁぁぁ!!、最高すぎるよ桐佳ちゃぁぁん!!。」


「もっとこっち向いてぇぇ!!。」


「はぁ…はぁ。たまらん、たまらんよっ!!。」


…恐れなんてなかった。



「ていうかなにこの狂喜乱舞!?。みんな目、血走ってるよ!?。」


まるで体内にウイルスを打ち込まれたゾンビのよう。普通に恐いって。


「熱狂的なファンですね~。」


「あそこまでいけば簡単に百鬼夜行とか作れるんじゃないかしら。」


「なんで二人とも平然としてるわけっ!?。」


アクアはともかくリースが平然としてるなんて。



なんだかもうこの空気に耐えられなくなってきた。つか頭痛い…。混乱してきた。


「よかったね。お客さんから好かれてて。」


「嬉しくないわっ!!。」


ポケットから紅茶代を取り咲耶に渡して僕は一目散に逃げるように店から飛び出た。





◆◆◆◆◆





「私、たまに桐佳さんが男の人って忘れてしまうときがあるんですよね。」


桐佳が出ていったオルフェではまだリースとアクアと休憩中の咲耶がテーブルを囲むようにイスに座っていた。


「それ、本人の前で言ってみなさい。面白いことになるかもしれないわ。」


「その結果が逃走だと思うわよ、きっと。」


みな桐佳がなぜ男なのかを腕を組み真剣に考え込む。



「まぁ、でも余程のことがないとあいつは掘られないわ、安心なさい。」


「それは安心できるのかなぁ。」


「掘られる?。どこを掘られるんですか?。」


「その点に関しては気にしちゃだめだよリースちゃん。君は純粋でいい娘のままでいいから。」


両肩を掴み圧力をかけとにかくリースを頷かせることに成功した咲耶。


それを面白そうに見るアクア。彼女は先の展開がわかってて言ってるから質が悪い。




(ここに来てから不思議なことばかり。楽しいことや死ぬ思いをしたことがあったわね。)


(今連中と喫茶店でお茶をしていられるのも如月のおかげ。感謝はしてるわ。)


(昔の私からは想像もつかないわね。ふふ。)


(しかしこのままじゃ弛む可能性がある。あいつもある程度戦闘ができるようにしなきゃ今度こそ退学、虚界から捨てられる。)


(あいつには借りがあったし、基礎戦闘くらいなら教えてあげようかしら。友達として。)


(でも肝心の対戦相手がいないわね。…誰か手伝ってくれればいいんだけど。)


「?。」



ふと近くのテーブルのイスに座っている長身の男を見る。



「はぁ、はぁ。…桐佳は俺のもんだ。奮い立て俺っ!!。」


「…………………。」




問題、なさそうね。


桐「…はぁ、はぁ。疲れた。」


桐「まったく、みんなには困ったものだよ…。」


桐「ってここどこっ!?。」




次回『美少女?と野獣』

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