第四話『後悔』
更新が遅くなりました、四話です。
今回で過去編終了ー。
暗闇が広がる世界で私は意識が覚醒した。
…う、気分悪いわぁ、二日酔いした気分。
瞼も重いし目も開けるのも面倒臭いわ。
(…そういえば私、死んだんだっけ、リースの撲殺で。)
ふ、情けないわね、一界の姫が入学早々死ぬなんて。…正直笑えないわ。
やりたいこと、まだたくさんあったんだけどな。後悔したまま逝ったか。
今になって昔の記憶がフラッシュバックしてくるのはなぜかしら。死んだ人の使用かしら。
はぁ、怨念玉的なので復活とかできたりしないの?、そこまで理不尽なあの世は私嫌よ。
…ていいますか、ここどこよ。音も光も熱も感じないしふわふわ浮いてる気がするし、本当に死後の世界なの?。すごく怪しくなってきたんですけど。
これって私に魔術を撃って試せってことかしら、えぇきっとそうよ。勝手に解釈して悪いけれどこうでもしないとやってけられないの。
重く閉ざされている城門の瞼は仕方ないか、適当に撃ってみるとしますか。
感覚だけはあった右手を前に伸ばして出す。
視界に映らないことでここまで不安な気持ちになったことがあっただろうか。いや、ないわね。
とにかく、適当に魔術を撃ってみよう。
軽く深呼吸をして、術式を組み、詠唱をする。
「だっ!?。」
「Icicle Blz……ん?。」
詠唱途中で右手になにか当たって誰かが苦い声を出してたのに気づき詠唱を中断して首を傾ける。
今の声、如月?。どうしてまたあいつの声が、…もしかしたらあいつもついてきたっていうのかしら。
これはないわね。
とかなんとか思っていると、突然気分が優れて重く閉ざされていた瞼も重りが外れたように軽くなり
そして私は目を開けた。
―――――
「…つつ。あ!、おはよう、アクア。」
「……………。」
…誰よ、この可愛らしい顔の子は。知り合いにこんな子いないわよ。
「…えっと、どちら様?。」
ということで視界に映る子に首を傾げなから質問。
「…それ、本気で言ってる?。」
焦ってる少女に対して私は素直に頷く。
少女は頭に手を置いて呆れ顔で左右に振る。
「だめだ、頭がやられてたか。僕のことを完全に忘れてる。」
「なんだ、如月だったのね。」
「今の医学って記憶の回復も出来たっけ。いや、医学じゃなくて治癒魔術とかでの回復…ってあれ?。」
頭を抱えていた如月が鳩が豆鉄砲を食らったように驚き私を見る。
「どうしたのよ、驚くことあったかしら。」
えっと、と額に人差し指を当て考え始めた如月。
「えっと…、アクアは記憶を失ってないの?。」
「失ってたらこんな対応しないわよ。」
「じゃあどうして知らないなんて言ったの?。」
「あー。」
今度は私が顎に手を当てて視線を逸らす。
これは言いにくいわぁ。
「?、アクア?。」
「いや、ね。悪いと思ってるわよ。如月の顔直視したの今日が初めてだってこと。」
沈黙。そして驚愕。
やば、泣かせちゃった。
―――――
「へぇ、如月が肉壁になったのね。」
あの後、如月から昨日の出来事を聞いた。
礫が当たって気を失った私にリースが最後の一撃を打ち込んだ。
ここまで私は覚えてる。問題はここから。
なんとあの時間帯で如月が割り込んできて庇ったのだ。
如月は腹部を打ち込まれてノックアウト、リースは体力と魔力が尽きて気を失ったらしい。
そして今に至り、学園の病室で寝ている。
「へぇ、肉壁が。」
「どうして二回言った!?。」
いじり甲斐があるからよ、と言うのは止めておこう。
少し重かったけど右腕を動かし右手を如月の頭の上に置いた。
「まぁ、ありがとう、如月。」
「うん。アクアは僕の大切な友達だからね。」
照れ臭そうに笑う彼女…彼。
可愛いわね、男にするのが勿体無いほど。
手をどかしマシュマロ感触の如月の頬に触れる。
「にしても、あの一撃を食らったのにも関わらずピンピンしてるわよね、あなた。」
次に頬を軽くつねり引っ張る。
うわ、犯罪的な柔らかさ、小さい少年少女の肌みたいだ。
「実は割り込む前にルルー先生に上級防御魔術を重ねがけしてもらってね。ダメージを最小限にまで減らしたんだ。」
「なるほど、気のきいた人ね。」
「信頼しているからね。」
信頼?。そうか、如月は留年生だっけ。
感触を堪能した私が手を離した数秒後、〝コン コン〟と病室の扉からノックする音が聞こえた。
「はーい、どうぞー。」
「失礼する。」
「ってどっから入ってんですか!?。」
何事もないように窓から入ってきたのは風音さん。
非常識な人間だと知っているとツッコミを入れることすらできなくなるのは不思議なことね。如月もわかっているのにご苦労なことね。
「可愛い生徒たちが大怪我をしたっていうからな、急いで飛んできたのだ。」
失礼する、と言い近くのイスに座る。
あなたの場合、空間転移んできたんでしょ。
「調子はどうだい?、二人とも。まだ傷は痛むか?。」
その言葉に如月が苦笑いをして風音さんを見る。
「えぇ、風音さんのせいで大怪我しましたよ。慰謝料払ってくれるんですか?。」
「どういうことかしら?。」
「元からこの人はこの展開を予想していてリースとアクアの模擬戦をやらせたんだ。リースの暴走も、アクアが押し負けることもね。」
「はぁ?、なによそれ。」
模擬戦の結果がわかっててわざと試合をさせたっていうの、この人は。
如月が頷き話を進める。
「そもそも、今回の模擬戦はリースの身体強化の暴走を止めることと調節のためだったんだ。」
身体強化のため……。!。
「そういうことね、まんまと騙されたってわけ。」
風音さんはリースが戦えば暴走をすることを元々知っていて早い内から手をつけるために私たちを利用した。
まぁ、結果は調節できたけど。…できれば事前に言ってもらいたかった。死に物狂いで戦った私が馬鹿みたいじゃない。
「君たちを利用したことは本当にすまないと思っている。学園長としてあるまじき行為だった。彼女、リースちゃんには事情を話し納得してもらったが、やはり君たちを傷つけてしまったことを自分自身に向けて根に持っているみたいだ。どうか、君たちの言葉で許してやってくれ。頼む!」
深く頭を下げる風音さん。
それに見合う私と如月は考えが一致していた。
私はいいとアイコンタクトを送ると如月は頷き風音さんの肩の上に手を置いた。
「大丈夫ですよ、リースはなにも悪くありません。悪いのは…、予想をしていたのにも関わらずやることは生徒の携帯にメールを送っただけでの人任せな風音さんですから。」
「………。」
頭を下げながら微塵も動かなくなった風音さん。表情はすごい苦笑いで汗がダラダラと流れてる。
それも仕方ない。桐佳は笑ってないのだ、いや、笑っているが笑っていない。拳を固めて今にも殴りそうな雰囲気を放っている。
…あれは恐いわ。男らしくなく女っぽいからさらに恐く見えてしまう。私の額にも汗が垂れてる。
「し、失礼したっ!!。」
窓まで逃げるように走り窓から下に飛び降りた。あ、逃げた。
「ふぅ。」
一息ついた如月はイスに座る。
「あなた、結構内に隠すタイプなのね。」
「風音さんだけだよ、こんな雰囲気を出すのは。」
「なるほど。」
体の感覚に慣れた私は上半身を起こし背凭れをかける。
「まだ無理しないほうがいいと思うよ。アクアは特に上半身にダメージを受けたと思うから。」
「多少無理したほうが体のためにもなるのよ、私の場合は。」
「そう、無理しないでね。」
心配しすぎよ、あんたは私の保護者じゃないんだから。
でもまだ左半身は軋むわね。
首を曲げているときに〝コン コン〟と扉からノック音が聴こえた。
如月を見ると案の定考えてることが一緒だった。
「はーい、どうぞー。」
そう如月が言うと扉がゆっくり開き一人の少女が目を真っ赤にしながら入ってきた。
「来たね、リース。」
「……ぐすっ。」
「ってまだ泣いてたの。泣きすぎよあなた。」
まぁ、この娘の性格上、泣いていないほうがおかしいと捉えられるわね。
顔もぐしゃぐしゃ。多分、ずっと泣いてたのだろう。
ここまでくると私たちが悪者みたいに思われるじゃない。
「リース。」
如月がイスから立ち上がりリースの目の前に立つ。
「リース、顔を上げて。」
優しく問いかける如月の言葉など耳にせずリースは両目を両手の平で隠して俯いている。
「ごめん…なさい。…ごめんなさい。」
まるで親に怒られて謝り続ける子どものよう。今のリースには如月の声など一切聞こえていないだろう。
しかし如月も引かずリースに問う。
「泣いていてもなにも変わらないよ。ほら、顔を上げて。」
「…うぅ。ごめんなさい…。桐佳さん…、アクアさん。」
さらに嗚咽。これは重症だわ。
「如月、どうする」
小声で如月に言おうとベットから立ち上がった瞬間。
「喝っ!!。」
両手の平でリースの顔をプレスした。って潰した!?。
如月に叩かれてようやくリースは顔を上げて如月の目を見た。
「きり…かさん?。」
如月は今まで見せなかった憤慨した表情で強くリースを見る。
「君はあれかね、友達を殴ったらちゃんと謝りもせずに泣きじゃくるガキかい?。泣いて全てを解決させようとしているの?。甘えてんじゃないよ。」
如月、あんたはさっきこの性格は風音さんにしか出さないとか言ってなかったっけ。早速矛盾してるわよ。
リースが目を見開いたまま驚いた表情で如月を見上げる。
さっきまで流れていた涙はもう一滴も流れていなかった。
「リースはまだ一回失敗しただけ。失敗したとしても取り返しがつかないわけじゃない。殺したわけじゃないんだよ。」
私は一度死にかけたんだけど。
「それに今回はリースの暴走を調節するための模擬戦だったじゃないか。」
「でも…、お二人を。」
「ううん、考えてもみなよ。もし模擬戦をしないで大勢の人がいる中で戦って暴走なんかしたら何人の人が犠牲になっていたか。言わなくてもリースにはわかるよね。」
「それは…。」
「僕とアクアを傷つけたことを深く反省してるようだけど、一人で抱えないでよ。責任は僕たちにもあるんだから。」
「……。」
「だから」
「だから後悔をしたなら罪を背負って生きてけ、でしょ。」
「あぁ!?、僕の台詞とらないでよー!!。」
わかりやすいのよ、仲間を思うあんたの考えなんて。
「アクアさん。」
「勘違いしないこと。私は事を荒げたくなかっただけのことよ。」
我ながら素直じゃないなと溜め息を一つ。
「一界のお姫様が入学早々後悔まみれの泣き虫になるなんて友達として放っておけないから?。」
「素直じゃなくて悪かったわね。」
友達病のあいつにはすべてお見通しってことですか。
もう一度ベットに入り背凭れをかける
「あ、あの…。桐佳さん。」
「ん?。」
「許して、くれるんですか?。」
不安げに上目遣いで見上げてくるリースに私たちは思わずクスリと笑う。
「許すもなにも…ねぇ?。」
「?。」
眉間に手を当て苦笑する私と如月。
「そもそも僕たち、怒ってもないんだけどなぁ。」
「へ?。」
目を点にして固まってしまったリースに私たちはただ頷くだけ。
いくら頷いてもリースは静止、一ミリも動いていない。理解に苦しんでるのかしらね。
それにしても喉が渇いてきた。
机に置いてある水が入っているガラスコップに手を伸ばし掴み、口に運び少しずつ飲む。
あ、結構美味しいのねこの水。天然水かしら。
「えぇっ!?。そうだったんですか!?。」
「随分と遅い理解だったわね。えぇ、そうよ。」
「そもそも僕たちが怒ってるって思ってたの?。」
「あ、当たり前じゃないですか!。あんなに傷つけられたら誰だって怒るに決まってますよ!。…いくら桐佳さんだって。」
「その言い分だと私は怒るってことになるわよね。どういうことかしら、リース。」
心外よ。私そんなすぐ怒るタイプじゃないのに。
「ち、違います!?。言うのを忘れていただけです!。すみません!。」
何度も頭を下げるリース。
堪えろ私、持ち堪えろ私。忘れられたことを根にもつんじゃない。
私の肩に手を置いて慰めてくれる如月が唯一の癒しか…。
「まぁ、結論としては私たちはまったく怒ってもないってことよ。怒られたり縁が切られることをずっと考えていたのはあなたの勝手な思い込みってことね。」
「そう…だったんですか。」
本当に安心したように胸を撫で下ろしながら安堵の息を吐くリース。
これで落着なのかしらね。
「でももっと僕たちを信用してもよかったんだよ?。アクアは確かに恐いオーラを出してるし冷たい言葉も言う」
コップを持っていない反対の手で如月の頬を潰す。
「ちょっと黙りなさい。」
「ふぁい…。」
潰す手を離し私はふと一つのことを思い出した。
「そういえば。」
ガラスコップを机に置き左手に持っていたものをリースに投げる。
リースはそれを両手で抱えるように受け取る。
そして驚く。
「これは…私のペンダント?。どうしてアクアさんが?。」
「模擬戦中に私が武器で弾いたのよ。気づかなかったの?、ほら確認。」
リースが胸元に手を当てて初めてペンダントがないことに気づく。
あのねー…。はぁ、もうこの娘らしいっていうかなんというか。
「あー、あとそれ、少し術式を組ませてもらったわよ。」
「術式をですか?。」
首を傾げペンダントを不思議そうに見るリースと如月。
「えぇ。あなたの暴走を完全に起こさせないための制御装置、みたいなものかしらね。模擬戦中にデータをとらせてもらったのよ。正直骨折ったわ。」
「へぇ、すごいねアクア。」
「データさえ揃えば誰でもできるわよ。」
訂正、誰でもは言いすぎね。ある程度知識がある人だ。
ペンダントを首に提げたリースは嬉しそうな表情になり、やがて笑顔になる。
それに如月が釣られるように笑う。
「うん。やっぱりリースは笑顔のときが一番可愛くて輝いているよ。悲しそうに泣いてるなんて似合わない、ね?。」
リースに負けないくらいの如月の笑顔。
ふふ、なんだか私も自然と笑ってきたわ、口元が緩いし。
「そうね。これから毎日リースの笑顔が見れるとなると、なかなか楽しめそうしね。」
そう私たちが言うとリースはまた涙を流し始めた。
「桐佳さん、アクアさん、ありがとうございます!。」
今度は太陽のような笑顔を浮かべながら。
◆◆◆◆◆
「――如月くん。授業中に居眠りとは、いい度胸ですね。」
「…ごめんなさい。」
途中で起きちゃいましたけど、はい。これが僕たち三人が出会ってから親友になるまでの昔話でした。
次からは現代の話しになりますよ。
「って叩かないでください!?、痛っ!?。」
「問答無用!!。」
ひぃぃー!?、先生恐すぎですよー!?。
桐「やれやれ、酷い目にあったよ。」
ア「眠いわねぇ…。」
咲「弛みすぎよあなたたち。もっとシャンとしなさいよね。」
ア「あら、久しぶりですね先輩。過去編では一切出てなかったので忘れてました。」
咲「二話に出たんだけど!?。」
桐「大丈夫だよ、これから出るって。次話には多分出番はあると思うよ。」
咲「なにその確信が持てなさそうな言い方は…。」
ア「知らぬが仏って言うでしょ。」
咲「え、すごい気になるんだけどー!!。」
桐「それは次話『変わりゆく日常』を見ればわかると思うよ。」
ア「そろそろその言い回しやめたほうがいいと思うわよ。」