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第二話『姫君の力 前編』


今回は前編と後編といった二話構成になっています。


前編は模擬戦前のお話、戦闘には入りません。


では、第二話をどうぞ。


(修正版)

 私は強くなりたかった。大切なものを守る力が欲しかった。


 打ちつけた血塗れの拳を対象物から引き垂れ落とす。



 悲しむのも悲しませるのも、傷つくのも傷つけるのももうしたくないから私は翠碧学園に入った。


 後悔をしてしまう民を救うのが姫の役割なのに。




 私は大切なものを傷つけてしまった。



 自我を取り戻した私は膝から崩れ放心状態に陥りただ泣くことしかできなかった。


 『強さ』を渇望する者が辿り着く末路は『後悔』しかなかった。



 壊し、殺すことによって手に入れた力は、まるで鬼と契約した感覚に似ていた。


 涙で霞んで前は見えていない、いや、見えないのは私のせい。


 この状況を見たくないというわがまま。



 気がついたときには私は拳を自分の腹部に打ち込んでいた。



 お父様、お母様、アクアさん、桐佳さん。


 私は、…悪い子です。





◆◆◆◆◆





 あの入学式から次の日。僕はいつも通り咲耶と肩を並べて登校していました。


「魔界と獣界のお姫様が、なるほどねぇ、風音さんも初日からやってくれるよ」


「まったくだよ、リースの友達としても他人事じゃないし」


 咲耶からもらったおむすびを一かじり、その後溜め息一つ。


 そんな僕の頭を撫でてくれる咲耶。


「でも、よくもまぁ一界のお姫様に声をかけられたものだねぇ、友人として賞賛に値するよ、桐佳。」


 止めてぇ!? 実際は正体を知らずに話しかけただけなのよー!?


 最後の一口を口に運び飲み込む。美味しいけど複雑な気持ちが味を美味しくなくさせるよ…。うぅぅ…。


「まぁ、風音さんが予想してたってことはリースちゃんと桐佳が出逢ったのって偶然じゃなかったんじゃない? こういう言い方はしたくないけど、風音さんが運命を操作したとか、あはは」


 あはは、まさか、いくら風音さんとはいえ運命を操作できるほど化物じゃないよ。できたとして仕組んだ程度だ。


「はっはっは、ならば咲耶ちゃんに出逢えたのも運命っ!! 必然的ということか!!」


「ひぃっ!? 風音さん!?」


 両手をわきわきいやらしく動かしているのは学園長のこと風音さん。いつの間に僕たちの背後に立っていたんだ。


 咲耶は恐いものを見て怯えるように僕の後ろに回り込み隠れる。


「おはようございます風音さん。流石世界の学園長、今日は徒歩で登校ですか、健康ですね。なのでその気持ち悪い手を収めてください、警察に通報しますよ」


「ふふ、それも面白いな」


「もしもし、警察の方ですか?」


「おっと冗談だ、まだ牢には入りたくない」


 やれやれと手の動きを止め腰に手を当てる。


 恐怖が去った咲耶は安堵の息を吐き僕の後ろから離れる。けどまた動き出すか警戒する僕がいた。


「まだセクハラには慣れないな…。」

 セクハラに慣れたほうが恐ろしいと思うよ、咲耶。それに


「否、断じて否っ! 私がセクハラなどという不埒な行為をするわけがなかろう。私の行為は神聖であり道理に適っている、故に私は今日もおなごたちを襲うのだ」



「……………」


 …襲うって言ってる時点で犯罪なのでは?


 僕たちは見合って苦笑い、どうやら同じことを考えてる、この人にはなにを言っても通じない、と。


 一年という人生の中でも短い時間なのに、この化物を理解するにはたった一年で十分理解できてしまう。嫌でも解るとは正しくこのことだろう。





「…だがしかし、今日は雲行きが悪いな」


 え?


 僕たちに聞こえないように小声で何かを囁いた風音さんだが、僕にははっきりと聞こえた。


 雲行きが…悪い? 今日は快晴なのに?


 ふざけてる様子はないのがさらに僕に疑問を生じさせる。悪いことが起こらなければいいんだけれど。


 腕を組み首を傾げ深く考えている僕とは違く風音さんの言葉を聞いていなかった咲耶はある物に目が行っていた。


「風音さん、携帯変えたんですか?」


 それは風音さんの左手に握られている白の携帯、確か風音さんって黒の携帯じゃなかったっけ?


「これか? これは私のじゃないよ。」


「では誰の?」


「桐佳ちゃん、ちょいちょい。」


 風音さんに手招かれて考えるのを一旦止めて歩み寄る。


「はい、プレゼント」


 すると風音さんは僕の手をとり左手に持っていた携帯を手の上に置いた。


 …えっっと、…はい?


 プレゼントって人からの贈り物のあのプレゼント…?


「あ、あのー風音さん、状況がまったく理解できないんですけど」


 そうだな、と風音さんは右手の人差し指をピンと立て話し出す。


「簡単に説明すれば君はこれから二界の姫君と同じクラスで共に勉学や戦闘学を学んでいく重要な役割の人間だ、言ってしまえばボディーガードのような存在だ」


 ボディーガードって、僕より優れてる人材なんて


「山ほどいるとか思うなよ? 少年」


「心を読まれた!?」


 ふふふと笑う風音さんは容易なことだと上から目線、ば、化物。


「勘違いするなよ桐佳ちゃん、君は己のスペックが低いと自分に言い聞かせてきたつもりだが、その考えは違う、むしろ真逆、凡夫ではないのだよ」


「逆…?」


「あぁ、ならば逆に訊こう、君は姫君の存在を知っても尚、遠慮もせずに親しくできるかね?」



 その言葉にピクリと反応、瞬時に風音さんを睨む。


「…風音さん、今の言葉、二度と口にしないでくださいね?」


 なにを言ってるんだこの人は、僕とリースは友達なんだよ?


「ふふ、な?君はなんの迷いもなく彼女を友達と言い放った、私はリースちゃんとは言ってないのにな、ふふ」


「あ、確かに」


「姫君の身になにかあればすぐに首を落とされるレベルだが、大したものだよ君は。だから私は君を高く評価し今も一番のお気に入りにしているのだ。強く、まっすぐで、仲間思いな君にね」



 …………。


 よく考えれば僕、一界のお姫様の頭を撫でたんだよね、躊躇いもなくに。



「桐佳が小刻みに震え始めたっ!? 大丈夫!?」


 …死ななかったから別にいっか。リースは僕の大切な友達だし。


「がしかし、姫君を護るガードマンが連絡方法がないとは論外、ということでこれをプレゼントしたのだ。わかってもらえたか?」


「は、はぁ」


 話しは詳しくはわからなかったけど、とにかく僕はリースやアクアの保護者になったってことか。


 携帯を両手で握る。…携帯って、案外重いんだね。


 お父さん、やったよ、僕携帯もらったよー!


「ちなみにすでに私、リースちゃん、アクアちゃん、咲耶ちゃんのメールアドレスと電話番号は登録済みだ、遠慮せず使ってくれ、ではな!」


 手を挙げて通学路を走って学校まで向かっていった。


「ってなんで私のメールアドレス知ってんの!?」


「あ、あはは」




―――――





 翠碧学園に入り咲耶と分かれ廊下を歩く。


 そういえば今日はいつもより数十分早く起きて登校してきたんだよね、どうりで生徒があまりいないわけだ。


 各教室を見ても一人か二人いるかどうか。


 ほら、1-Bも生徒が





 居た、アクアだ。


 アクアは外側の前から三番目の席で一人で教室の窓から外をずっと眺めているだけで、まったく動きもしない。まるで時が止まったかのように。


「おはよう、アクア。今日は気持ちのいい朝だね」


 なので自分の席にカバンを置いてアクアの前の席に座り顔を覗く。


 アクアは僕の存在に気づいたらしく僕へ振り向く。


「おはよう、如月」


 変わらず気だるそうな目をしてるなこの娘は、本当に一界のお姫様なんだろうかと疑いたくなるよ。


「なにを見てたの?」


「如月の登校姿。」


「さっきじゃなくて今だよ。ここからだと桜の木?」


「細かく言えば降り散る桜の一枚一枚、かしら」


 桜自体をか、うん、綺麗だね。



「ねぇ、如月。桜はなぜあそこまで小さくて儚いのかしら」


 驚く。唐突な質問にじゃなくてアクアの少し悲しそうな表情に。


 僕は顎に手を当て少し考える。



「そうだね、確かに桜は小さくて儚い、散って落ちたらそこまでの命。でも僕は桜は散るものじゃなくて飛び立つものだと思ってるよ」


「飛び立つ?」


 僕は頷き窓越しに見える桜の木を指差しアクアを外に向かせる。


「そう、飛び立つの、悲しみなんかじゃなくてこれから頑張るんだって元気に飛翔していくようにね。ほら、見てあの桜の木の桜、みんな力強く宙に舞ってる」


 みんなただ落ちるんじゃなくて強く思いながらどこまでも飛んでいく感じだね。


「桜はね、僕にとっても大切な思い出の一つなんだ。アクアはどう?」


 にっこり笑ってアクアを見る、アクアは頬杖をついて外を見ながらこう言った。


「そうね、いいかもしれないわ」




 それは本音だったのだろうか、それともなにも思わず言ったのだろうか、僕にとってはどうでもいいことだった。僕はアクアとの距離を縮めることができたことに喜びを感じていた、ただそれだけだった。


 どうにかしてもっと上手に距離を縮められないかな、うーん、難しい。




―――――





 桜を見ているアクアをそっとしておいて、僕は教室を出て廊下を歩き、初めてリースと出会った廊下を過ぎた小さな広間に出て綺麗な花が植えられている円形の花壇の近くのベンチに腰をかけた。


 教室には生徒はいなくても景色がいいここには生徒がいるんだね。まぁ、ここは空気も美味しいし陽当たりがよくて寝心地も最高だし、よく寝る僕には適した場所なのだ。


 …ってダメだダメだ。寝ることを考えてたら本当にねちゃいそうだ。首を振り眠気を覚ます。


 ここに来たのは理由があってだろう。


 ポケットをまさぐりあるものを取り出し開く。これは今朝風音さんからもらった携帯電話。



 触ったことがない機械には早く慣れたほうが吉、早速操作に慣れるためにいじくりましてみますか。



~数分後~



「よし慣れた」


 いやぁ、機械に強いと慣れるのも早いものだね。


 パソコンとは違った感じだけど機械は機械。大方構成が一緒なんだ。


「?。電話?」


 携帯を閉じたときに急に携帯からBGMが流れ出し小刻みのバイブレーションで揺れ始めた。


 再び携帯を開き画面を確認するとそこに表示されていた名前は。


『不知火 風音』


 風音さんからか。



「はい、桐佳ですけど」


 通話ボタンを押して耳に携帯を寄せて前に咲耶がしてたように発声する。えっと、これでいいのかな。





『はぁい、携帯には慣れたかね桐佳ちゃん』


 うわ、風音さんの声が電話越しに聴こえる、…なんだか気味悪い。


『おい、気味悪いとか言うんじゃないぞ。これは電話なんだからな』


「いえいえ、滅相もない。透き通ってますよ、もう気持ち悪いほどに」


『はっはっは。赤点にされたいか、小僧』


「あはは。そんなことしたら首を落としますよ」


「君が首を落としに来るのなら私は君の手足を千切りにいこうじゃないか。泣いて許しを請うまで麻酔無しでな」


「別に僕を殺したってあとで後悔するのは風音さんですよ。どう死んでいくか楽しみですね」


 ははは、と互いに笑う。周囲にいる生徒が僕を見てくるけどこの人との会話が楽しすぎて気にしてられない。



『ふふ、居合わせてなくて声だけで会話するというのもなかなか面白いものだな』


「ふふ、そうですね」


 これならいくら中指を立てても気づかれないってことになるんだもんね。携帯って便利な機械だね。


『それで、操作には慣れたのかい?』


「えぇ。この程度の小型機械なら初見でも数分で物にできますよ。小さい頃から機械を触っていた僕にとっては造作もないことです」


『ははは。相も変わらず父親譲りだな、その技術は』


「そうですかねぇ?」


『そうだ』



 父親譲り。僕のお父さんは機械が大好きで小さい僕に機械をいろいろ教えてくれたんだ。


 そのおかげか、僕は機械に強くなっちゃったってわけ。


 あ、それじゃあ僕、父親譲りがあったんだ! まったく容姿に関係ないけど。


「まぁ、僕にとっては機械は一番縁が深いものだと思ってますよ。実際今になっても機械をいじくってますしね」


 壊れたパソコンを直したりプログラムを作ったりをね。



『そうだな。君が持っているその携帯も大切にしてやってくれ。そうしてくれたほうが携帯も……』


 途中、風音さんは言葉を切った。


「…? どうかしましたか?」


『…桐佳ちゃん、今日朝会だった』



「…………は?」





 その後、風音さんと一緒に先生に叱られました。



 今日の三限目、リースとアクアの試合。


 どっちが勝つんだろう、できれば怪我なくて終わってほしいな。


  アクアも応援したいけどリースも応援したい。いったいどうしたもんか…。



 そんなことを考えながら僕は先生に謝るのであった。




リ「あれ、私の出番がなかったですね。」


ア「案外出たがりなのね。」


リ「い、いえ!。決して出番がないのに寂しい気持ちを抱いているわけではないんですよ!。本当ですよ!。」


ア「素直じゃないわね。出たいのなら作者に言えばいいじゃない。」


リ「さりげなくメタ発言しないでください…。それに今、作者さんは私たちの声を誰にしようか必死に考えてるじゃないですか。」


ア「あぁ、確かにそうだったわね。…別にいらないとおもうんだけれど。」


リ「それを言ってはダメですよぉ!。」


桐「そんなことより次回予告しないの?。」


ア「……如月、お願い。」

桐「結局サボるのね。はぁ、仕方ない、僕がやるよ。」

桐「次回は二人のお姫様の模擬戦のお話だよ。アクアは戦闘には慣れてそうだけど、リースは大丈夫かな…。果てしなく心配になってきたよ。」


リ「だ、大丈夫です!。頑張ります!。」


ア「試合の行方はいかに。じゃ、また会いましょ。」



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