第二十一話『狂戦士VS狂人』
一ヶ月も空けてしまいましたごめんなさいっ。違う話を書いているとどうも遅くなって。
会場内に悲鳴が響き渡る。リースやサラもその一人。
衝撃で後退り膝をつく。
顔や腹、腕や足に刺さっている飛針を抜く欅は口元を吊り上げていた。
「随分と落ち着いてるね。悪いとは思わないでよ、あたしだって串刺しにされたんだから」
多量の吐血をする桐佳は歯を食い縛りながら立ち上がる。
「――、―――」
既に言葉は発することも出来ず意識を保たせるので精一杯だった。
目には命はあるが力はなかった。
(…危なかった、切断時に左腕の血液を凍らせておいて正解だったよ)
桐佳が恐れていたこと、それは左腕が落とされることではなかった。それ以前に桐佳は左腕を落とされることを知っていたのだ。
本当の恐れは欅の長刀に血を与えること。あの武器は他人の血に過激で一定量与えると手に負えなくなる兵器になる。桐佳は性質を知っていた為何よりも血を恐れたのだ。
だからこその腐る程左腕を凍らせて血液の流れを止めたのだ。
常人には判断出来ない、左腕を失う痛みを覚悟して凍らせる行為、切り落とした欅ですら驚愕の色を見せていた。
(リースは……泣いちゃってるか、無理ないかもね。隣にいるのはお爺ちゃん、楽しそうに笑ってるよ)
人の苦労も知らずにと痛みに耐え地を蹴りだし欅との距離を詰める桐佳。
『き、如月選手!? 左腕を無くしても尚戦おうとしているなんて…!』
『はは、血は争えんなぁ』
『呑気に笑ってる暇ないですよ!?』
「驚いた、あたし以上に狂人なんじゃない?」
否定はしない、桐佳は苦笑し肩に掛けてある柴剣を引き抜く。
接近に持ち込めば大振りの長刀は部が悪い。いくら欅程の身の熟し方でも右腕だけで突進してくる桐佳には無意識に恐れを抱いていた。切り返してくる桐佳の可能性に。
長刀を納め双剣を引き抜き接近する桐佳の出を窺う。
(どうくるの…?)
欅の予想では剣を見せての遠距離攻撃と見ていた、試合前に聞いた単矢烏(タンヤオ 改名)かウェポンスキルか。
しかし予想は外れ桐佳は空間から出したパーツを柴剣に差し込み横に薙ぐ。
ハウリング、会場内に不可思議な音が響き渡る。
(そう、きたかっ!?)
桐佳以外の対象者、欅は双剣を落とし耳を塞ぐ。
拾いたいが体が言うことを利かない。
好機、攻め入れるに最高の展開。
柴剣を強く握り急接近し柴剣を振り翳し
欅を斬ら――ずに目の前で突き刺し大きく縦回転に跳んだ。
その理由とは、欅が落ちた双剣の柄を蹴り飛ばしてきたのだ。
柴剣に弾かれ双剣は地上に落ちる。
「らぁっ!!」
袖に収納していた短刀を右手で持ち欅の右腕を肘から両断した。
桐佳とは異なり血液を凍らすといった対策をとっていない為、赤い鮮血が血飛沫となり吹き出る。
欅の腕は宙を舞い力無く地に落ち静止する。
しかし欅は腕など知らずにもう片方の左手に魔力を流し込み桐佳の腹部に打ち込み後方へ殴り飛ばした。
短刀を地に刺して静止。腹部を押さえる桐佳は体勢を立て直そうとした矢先桐佳の視界には大量の赤塗りのペンキが映し出された。
加えて身体中に流れていた何かが抜けるように感じ両膝をつき四つん這いになる。
自分の体は一番自分が把握しきれている、故に現状を理解し起き上がり笑う。
「そだよ、強化装置を内部から破壊させてもらったんだ。これで詰んだんじゃない?」
空間から長刀、陰を引き抜き自分の血、桐佳が吐いた血を触れる。触れた瞬間に血が長刀に吸収され刃の色が血の色に変色した。
「この子もかなりの成長をした。お兄ちゃんなら分かるよね、この子の刃。マジで死ぬよ」
陰は自らの血に加え桐佳の血を充分に含み人を殺す形に近づいていた。最早人が持つモノじゃない。
「………そ…かも……ね」
「そうかもねって、死ぬんだよ。あたしは下りろって言ってんの、分かんないの!?」
血を吐きながらも立ち上がる桐佳は痛みを感じさせないような笑みを浮かべる。
「…なに…言ってるの…? 言ってた……じゃない…か、…叩き潰すって」
「あ、あれは咄嗟に言ったわけで、馬鹿だったときのあたしだし」
「…人一人……殺すに…躊躇う…の?」
「!?」
今まで優勢だったはずの欅が桐佳の発言に恐怖し後退る。
予想外だったのだ。欅が今日まで思い続けていた桐佳と相見える桐佳とでは根本から別モノだったのだ。
普段の如月桐佳は人を傷つかせる、殺めることを一切好かず、況してや人に人を殺させることを一番嫌っていた。
だがアレはなんだ。己の腕を切断されても尚立ち上がり他人の腕を躊躇いなしに切り落とし死さえも恐れない発言を平然と言って退けた。
(既にあれはお兄ちゃんとは違う存在、昔のあたしと同類。今なら言葉に出来る)
「……狂人…かな?」
「ぃぅ!?」
思っていたことを口にされ更に混乱し震える欅。
震えながらも剣を構える彼女はやはり闘う者なのだろう。
怯え逃げたいが戦わなければならないという戦士の心得。
そんな欅を首を後ろに捻って見下ろす桐佳は血塗れの右手で髪を掻き上げ。
「――――――」
声にならぬ高笑いを上げた。それ故に、会場内の観客、待機席で見守る仲間たち、欅の精神を侵した。
笑い終えた桐佳は右手だけを垂らし顔は天を仰いだまま硬直する。
「……これが、昔の欅だよ」
喉が潰されかけ本当に小さな声量だった。だが静寂しきった会場では嫌と言う程響いた。
「ようやく…捕まえた…っ!」
首を戻し無鉄砲に突撃する桐佳。
恐怖する欅は長刀を袈裟懸けで振るう。
恐怖をすれば魔力供給に支障を来す、当然陰の魔力は外れず鎌鼬は行えない。
しかし十分な血を喰らった陰は魔力を強制的に外せるという常人離れした力があるのだ。
つまり常時鎌鼬。
陰の仕様を知っていた桐佳では回避することも出来る。欅の長刀を見れば座標地を読み取ることなど容易いことだった。
が、なんと当の桐佳は避けようとせず真っ向から斬撃を受け、髪と右肘から下を切断された。
鮮血は…飛び散らない。また凍らせたのだ。
皆その意図が分からない、分かる者は一握りの生徒と曾祖父とアクアと風音のみ。
欅に至っては想定外の出来事に自らの剣を、腕を恐怖する。
平然と行えた惨たらしい攻撃が、今になって初めて平然から脅威に変わった。
(なに、なんなのよ!? こんなのお兄ちゃんじゃない!? お兄ちゃんじゃないよ!!)
(恐い…、あたしに向かってくるアレが悍ましく恐ろしい程恐い)
(あたしが殺す側から殺させる側になったんだ)
(アレが……あたし)
◆◆◆◆◆
「おや、来たな」
「は?」
◆◆◆◆◆
「…目覚めた」
「桐佳ちゃんも鬼になったねぇ」
「鬼にさせた人が言う台詞かしら?」
「はは、血は争えないね」
「「だからなんの話をしてるんですか!?」」
「リースちゃん、サラちゃん、アレを見て」
「アレって……え?」
「……桐佳、さん?」
◆◆◆◆◆
「…………」
両手を失いその場に俯き立ち尽くすお兄ちゃんの様子が更に変わり、いや、元に近くなった。
もう、次から次へとなんなの…。自分を見てるみたいで頭が痛くなったら元に戻るし。震えが止まんない。
一旦陰を空間に戻して魔力を循環させ気分を落ち着かせた。
痛覚は勿論戻さない、今戻したらいつ壊れるかわからないもん。
「お兄ちゃんは、何者なの?」
不意にも口から本心が出てしまった。
既にお兄ちゃんはあたし以上の『化物』。
避けれる攻撃を避けないで元に戻せるからいいものを避けずに両腕まで失って。
まるでわざと自分を傷つけている、あたしはそうとしか見えない。
お兄ちゃんはあたしをどうしたいの、あたしにどうされたいの、何を目的として戦ってるの。
殺しに来るが勝ちを目的としてはいない。だったらなんだ。
「……化物混じりの人間だよ」
「なっ!?」
驚愕する。それは発した台詞ではなく発したことに。綺麗で透き通った、痛みなど元からなかったような。
「ようやく覚醒して、制御出来た」
覚醒? 制御?
「お爺ちゃんがあのとき僕を殺しさえすればこんな目に合わずに済んだのに、まったく」
と溜め息を吐く。……って。
「おじい!? お兄ちゃんおじいと会ったの!?」
「ん? 会ったよ。中国拳法教えてくれたのもお爺ちゃんだし」
…道理で打ち方に見たことがあると思ったんだ。
何度も手合わせしただけあって型は完全に覚えてる。
「欅、よく見てて。お爺ちゃんから教わったもう一つの」
「もう一つの……うわっ!?」
お兄ちゃんが上半身を前に垂らしじっとしていると溢れんばかりの莫大な魔力が目に見えて映り、砂埃が舞い始め、大気を揺らがせ、大地を揺らし始める。
咄嗟のことであたしは四つん這いになり混乱する観客を見渡した後、一人だけ同じ体勢で魔力を放出するお兄ちゃんを呆然と見ていた。
何が始まるのよ…。違う、何かが生まれるの…?
「力……っ!!」
お兄ちゃんが発声した、その瞬間。
世界が止まった。
「……止まった、あたしとお兄ちゃん以外の世界が止まった…?」
観客も、トーマもアクア様もリース様も、空間ごと静止してしまった。
これは魔術じゃなく禁術でもない、魔術ならば魔力素が空間に濃く舞う筈だ。舞っていないなら魔術ではない。
これは……物理的だ。
お兄ちゃん自身の力により空間を歪ませ空間から時間を切り離したんだ。
「続いて…………っと!」
両手を広げるように大の字になる、すると切断した筈の両腕、髪が粒子になりお兄ちゃんの両腕、頭に収集し――再構成した。
「うぅ、気分悪っ」などと呑気に体を縮こませる。
「い、いやぁぁぁ!? 復活したぁぁぁ!?」
限界も限界でとうとう叫び出すあたし。ホラー映画を一人で見るあの感覚みたい。
「いやー、欅には感謝だね。おかげで起動しやすかったよ。両腕を落として血液を凍らして死に近づいた甲斐があったってわけだ」
「…お兄ちゃん、これって夢なの? 夢だよね?」
「夢じゃないんだな、これが」
「ひっ!?」
肩を掴まれ耳元で囁かれるのに心臓が破裂しそうになって飛び退く。
急いで振り返って見てみるとそこには青年の姿をした老人が笑顔で立っていた。
「っておじい!? なんで動いてるの!?」
「やっほ欅ちゃん、随分人らしくなったね」
「元から人よ! そうだおじい、おじいならこの現状を説明出来るんでしょ? 教えて」
「…まぁ、そもそも僕の所為でもあるんだけどね」
「どういうこと?」
―――
お兄ちゃんの狂気化がおじいの所為? なら元々おじいとお兄ちゃんはぐるってこと?
「欅ちゃんの痛覚をなくす力、あるよね?」
「う、うん。それがどうしたの」
「あれが僕の力の一部っていうのも知ってるよね」
「勿論」
あたしの痛覚遮断スキルはおじいから引き継いだ呪いのアビリティ。あたしは意識的に切り替えが出来るけどおじいは切り替えが出来ない、まさに呪いそのもの。
しかもおじいは呪いをあと数個持ってる。こうは言いたくはないけどお兄ちゃんを遥かに超える化物。
恐がらせたくないとか言って詳しく教えてくれないけどもう十分恐いよ。
「化物かぁ、確かに思われてもおかしくないかもね」
「読まれたっ!?」
「欅、言ってなかったんだけどね、僕たちの家系は高確率でお爺ちゃんの呪いを受け継いでしまうんだ。お母さんが死んだのもその所為」
……そう、なんだ。
いや、薄々勘づいてはいた。おじいが坊主にして土下座していたのはそれが理由。
まぁ、今思えば運命、仕方ないの一言で済んだ話しなんだな。
「ごめんね欅ちゃん」
あたしは首を横に振る。
「いいよ、過ぎたことだし。…それよりおじい、お兄ちゃんの話をまとめると」
おじいの血筋の人間は高確率で呪い持ち→お母さんやあたしもその一人→あたしは痛覚遮断の呪いだけを遺伝した→つまり残りのほとんどの呪いを→お兄ちゃんが→遺伝した?
「……てことになるかもなんだよね? てかなったんだよね!」
まとめている途中から疑問から確信へと変わり胸糞悪くなってきた。
明らかに視線を逸らすおじいが頷く。
そう、つまりは。
「あたしはお兄ちゃんの血の覚醒を手伝うだけの駒だったってことね」
「駒なんて思ってないよ。むしろ覚醒させたことに感謝してるんだから。あのまま桐佳ちゃんが暴走するのだって欅ちゃんとしては嫌でしょ?」
「まぁ、そうだけど」
おじいがあたしの腕を回収し切断部分に押し込み切れ目を触れる。すると切れ目が塞がり腕が繋がった。
ありがとと言い動かす。うん、動く。
「僕は欅にトラウマを与える目的があったよ。欅、恐かった?」
「うん、体験してやっと解った。どうかしてたみたい、あたし」
悟って言うあたしにお兄ちゃんは安心した笑顔を浮かべる。
本当に恐かった。でもそのおかげで本当の自分とちゃんと向き合えるようになった。お兄ちゃんがあたしを変えてくれたんだ。
思えばお兄ちゃんにはお世話になりっぱなしだな。
「さ、じゃあ本題に移ろっか」
と、突然おじいが発言する。当然あたしは首を傾げる。
「欅ちゃん。実はね、桐佳ちゃんを覚醒させたのはあることに備えてなんだ」
「備える? なにに?」
「『虚界を滅ぼしに来る者』に、だよ」
その台詞に体温が下がったのが感じとれた。
「昔おじいや風音が冗談混じりに言ったこと。…あれホントなの?」
頷く。
お兄ちゃんは知らないけど十年程前におじいと風音が話していたキーワードをおじいは十年以上経って掘り返した。
『新世界を滅ぼす者』。あのときはあたしも小さかったからおとぎ話で流していたけど、今掘り返されると嘘ではなくなる。
「いつかはわからないけど、今年必ず、敵が来る。桐佳ちゃんたちよりもっと狂暴な狂人が軍勢を連れてね。躊躇いもなく殲滅してくるよ」
「そんな…」
唐突過ぎる、死の宣告をされたようなものだもん。
お兄ちゃんを見る。お兄ちゃんも腑に落ちない表情をしているが覚悟は決めているようだ。
「風音さんの未来視スキルだとね、桐佳ちゃんが『鍵』なんだ」
「だから禁じられた呪いを無理矢理覚醒させた、だよね?」
「桐佳ちゃんには悪いけどね、運命なんだ」
運命。あたしは顔を俯かせる。
運命なんて好きじゃない。自分の人生もお母さんの死も世界の破滅も、元から設定されているなんて嫌だ。あたしの築いてきた人生はあたしの物なんだから。
おじいもお兄ちゃんもわかっている、わかっているから抗おうとしているんだ。
「アクア様もリース様も、ハインやトーマも巻き込むんだよね」
「うん、アクアは既に知ってるけどね。リースたちには戦ってもらわなきゃいけないんだ」
「そっか。……決めた、あたし守りたい。殺しの力を友達の為に役立てたいんだ」
答えは決まってた、言い出せなかっただけ。
陰を抜き血を全て吐き出し空間に納める。
「ありがとう欅。急な話しで悪かったね」
「いいよ。悪いと思うならその力がどんなのか教えてよ。おじいの血をほとんど遺伝してるんだからあたしより強い筈でしょ」
え? と言いたげな表情のお兄ちゃんはあたしの言葉によって自らの体に触れあることに気づく。
気づくと同時に青ざめ口を押さえ目を回し、力無くその場に俯せで倒れた。
「……って、へ?」
倒れて動かなくなり纏っていた魔力が放出し。
空間を砕き時間の概念を戻した。
『さぁ、如月選手はなにをしか――け? は?』
観客も両腕髪が回復して目を回して倒れているお兄ちゃんを見て口を開いていた。
捉え方によっては戦闘自体が幻術で纏められるが。
『桐佳ちゃん、ダウン。よって今年は欅ちゃんのチームが優勝だっ!!』
とにもかくにも長い一日があたしの勝利で幕を降ろした。
「はぁっ!?」
大会終ったー、といいますか見返すと無理やり終わらせた感が凄いありますね。でも桐佳と欅問題が解決したから良かったです。
次からはシリアス展開でいきたいですね~




