第十六話『決闘』
さて、デュ↑エル↓ですよ!。
『フィールド展開ィィィィィィ!!!!。』
高らかに叫ぶ風音さんに観客も呼応し叫ぶ、と、フィールドが光に包まれ思わず目を塞ぐ。
光が治まるのを感じ皆一斉に目を開く。
で、まず第一声。
「荒野…?。」
荒野。客席が荒野を囲う形で人工的なCGのように形成されている。
その荒野には誰も立っておらず私とサラが端の特別な台に立っていた。
…なんだろう。こんなの最近テレビで見た気がするわ。…気のせいよね。
服装は元の制服に戻っている。サラの症状を止める為か。そういえば吐いた血も綺麗に消えてる。
『ウオォォォ!!。』
熱狂的な観客はスタンディングオベーションで大興奮、リースはどこか目を輝かせていた。
ナレーター二人は特別な浮いている球体に座っている。
風音さんが立ち上がりマイクを握り締め興奮気味で話し出す。
『こんなこともあろうかとバトルフィールドを作っておいて正解だったな!。見よ諸君!、彼女らは武器を交えはしないが剣を交えお互いぶつかり合う!。私はそのような試合が見たい。二人とも最高の舞台を期待しているぞ!!。』
『ウオォォォォ!!!!!!!!!!。』
…あぁ、五月蝿い…。盛り上がりすぎよまったく。
「で、一体どんなゲームをするんですか。」
『ククク、目の前のボードを見れば一目瞭然だろ?。』
少し目線を落とし何かを置ける透明のボードを見る。
成る程と溜め息を吐く私に対してサラは首を傾げながらボードを触れていた。
「縦に長い長方形の…なんでしょうか?。」
「カードよ。バトルカードゲーム。」
『素晴らしい回答だアクアちゃん!。君たちには私が直々に創り上げたカードゲームでデュエルをしてもらう。戦闘が出来ぬサラちゃんでもこれならば可能だろう。』
まぁったく…、またアニメの影響かなにかを受けたの?。でもここまでする…?。
風音さんが指をパチンと鳴らすと先程に一つも物が置かれていなかったボードに五つのデッキが姿を現した。
赤、緑、黄、黒、銀。
『ふふ、君たちの剣だ。』
「要はこの中から一つデッキを選べってことね。」
『因みに色説明は今はしないぞ。そちらの方が面白いからな。』
…ふ、風音さんらしい。
なら私は、『黒』。
(黒…か。アクアちゃんらしい。)とか思ってるんでしょうね。
黒のデッキを掴むと他の色のデッキが消滅する。
サラは悩んでるみたいだし、シャッフルを済ませておきますか。
素早くデッキをきり右下の枠、即ちデッキ置き場に置く。意外と落ちないのね、固定しているのかしら。
しっかし、カードの質も良いし裏面の絵柄も手が込んでいるわね。…仕事しなさいよと思ったが野望だろう。
「決まりました!。黄色です!。」
ようやく決まったかサラは黄色のデッキを掴んでいた。凄い嬉しそうに。
「絵柄が可愛いですね!、アクア様!。」
「そ、そーねー。」
純粋に笑うサラには悪いけどさっき見たら黒は悪魔や化物がうじゃうじゃいたわ。キャラデザ描いたの誰よ、恐すぎよ。
『お互い決まったようだな。ならばサラちゃんはデッキをシャッフルし右下の枠にデッキを置いてくれ。その後お互い『決闘』の掛け声をしてくれ。』
言われた通り細かく遅くシャッフルしデッキを置いた後、私たちはお互い見合って起動台詞を言う。
「「決闘!!。」」
―――――
『さてアクアちゃん。実戦でルールを説明するのだが、先攻と先攻、どちらをとる?。』
「後攻。」
『ジャッジーー!!!!。』
「こっちがジャッジだわ!。はぁ、いいわよ先攻で。」
『…良いのか先攻で?。』
「初期手札は五枚、変なゲージが二つ、ライフが六点。ゲージは召喚やマジックを使うときに使うのね。恐らく毎ターン増える仕様。先攻で増やすのは卑怯と見た。ならば先攻、ドロー。」
デッキの一番上のカードを引き手札に加える。
『さ、ささすがはアクアちゃん?、ルールをよく知ってるじゃないか。…し、しかし抜けているものもある。実はドローステップは『ブースト(コア)、手札共に一つ増やす』か『ブーストを増やさず手札を二枚増やす』の二択なのだ。ブーストを使うことがないのであれば後者を選ぶのが得策だな。』
へぇ、変わった仕様ね。
「ステップについては?。」
『スタート、ブースト、ドロー、回復、メイン、バトル・魔術、魔術2、エンドの順番だ。因みに回復はリフレッシュステップのことだぞ。』
「魔術2とはなんなんですか?。」
『バトル・魔術はアタック中の特別な使用のことで魔術はメインステップと魔術2で使用できるぞ。』
殺しきれぬモンスターを後で倒す為のステップみたいなものね。
手札のモンスターカードを見る。
枠の中にデザイン、上に名前、右上にコスト、その下に…点があるのとないの。エナジーを全身から発射するやつと同じ…よね多分。下の枠には効果、パワー、黒いマーク。これで全部ね。
『下に描かれているマークがあるモンスターがいれば同色の軽減となるぞ。隣の白いマークがライフを削る数でもあるぞ。』
軽減、とはいっても皆0か1。4とか多くのはないみたい。
『アクアちゃん、適当に強そうなのを召喚してみてくれ。凄いぞ。』
凄い?。まぁいいか。
「じゃあ私は『デスインプ』を召喚するわ。」
カードを前の枠に置く。すると光が右下の枠に移動する。ブーストを使ったってことね。
「?。」
ボードに目を映しているとサラの驚愕の声が聞こえ顔を上げ荒野を見る。
あーらら。魔方陣が空中に展開されて中から可愛くないインプが飛び出してきたわ。つかリアルすぎ、マジでキモいわよ。サラなんて半泣きじゃない。
・デスインプ 2(軽減0) PP2000 M1 S1
〔起動〕相手の手札をランダムに一枚破棄する。 デザイン 如月 桐佳
「って如月が描いてたんかいっ!?。」
「きゃ!?、手札がぁ!。」
『第一ターンから手札破棄とはやるな、アクアちゃん。だがブーストもなし、先攻はアタックが出来ない、ならばターンエンドだ。……と言いたいところだが先にダメージの恐ろしさを知ってもらおうじゃないか。アクアちゃん、試しにデスインプでアタックしてみてくれないか?。』
「えぇ!?。だ、大丈夫なんですか!?。」
「デスインプ、全力で行きなさい。」
「アクア様容赦ないですね!?。」
知ったことじゃないわよ、あっちがやれって言ってきたんだから答えるまで。
デスインプは頷き走り出し強く跳び風音さんが立つ球体に向かう。
風音さんは斉賀さんまで被害を与えない為に球体からデスインプまで跳ぶ。
『モンスターは回復状態だとブロックが可能。しかし回復状態のモンスターがいない場合やブロックしたくない場合は『ライフ』と宣言しろ!。』
すると風音さんの前に銀の障壁が展開される。あれで攻撃を防ぐのね。
だが勢いをつけ跳んだ風音さんはデスインプの回し蹴りによって元の球体に飛ばされ壁に衝突。
『グワァァァアァァ!!!!!!!!!!。』
口から多量の吐血。
………………。
「ターンエンド。さぁ、サラのターンよ。」
「は、はい。スタート、ブースト、ドローステップ!。」
・サラ D34 H(手札)5 B3 L6
サラのボードのブースト置き場に一つ光が増える。ブースト3。
「えっと。わたしは『シールドラビット』を召喚します!。」
・シールドラビット 2(0) PP2000 M0 S1
ブロック時にPPを+1000するがアタック時にPPを-1000する
黄金の魔方陣から盾を構えた白いウサギが飛び出してくる。着地したところでサラに愛らしく手を振る。
「可愛い~!。お持ち帰りしたいですー!。」
…うわぁ、私はあんなグロいインプなんか持ち帰りたくないわ。
我に返ったサラは手札を見て一枚のカードを引き場に出す。
「続いて『ライトキャット』を召喚します!。」
・ライトキャット 1(0) PP1000 M0 S1
今度は魔方陣から黄色の小さな猫が飛び出し前足で顔を撫でる。
まずいわねぇ。シールドラビットのようなモンスターがいるということは確実に防御型のデッキ。なんとかして破壊しないと。
私の場には疲労状態のデスインプが一体。対してサラの場には二体のモンスター。
「アクア様、申し訳ありません!!。ライトキャットでアタックします!。」
…来る!。
「ライフよ!。……ぐっ…!。」
間合いを詰められ爪での一撃を障壁で防ぐ。
その際衝撃が伝わり一歩後ずさる。
「きゃあぁ!?、大丈夫ですかアクア様!?。」
「…一撃打ち込んできた相手が言う台詞かしら…それ。でも効いたわぁ、結構来るわよこれ。」
吐血をする馬鹿とは仕様が違うのかしら。
『さてルール説明だ!。』
生きてたんか。頭からはリアルに血を流しているけれど特に問題なさそうだから放置しておきましょう。
『ダメージステップで受けたダメージはブーストに加算する、と考えた者たち、不正解だ!。正解は1ダメージにつきデッキから一枚手札に加えるのだ。』
成る程。なら一枚引かせてもらうわ。
「ターンエンドです。」
攻撃はせず守りを固めたか。
・アクア D33 H6 B3 L5
「私のターン。スタート、ブースト、ドロー、リフレッシュステップ。」
光が左の未使用エリアに移動、更に一つ加算する。
…さてと、どうブロッカーを破壊したものか。
………いいのがあるじゃない。
「私はマジック、『怨恨罰符』を軽減コストにより使用。」
・怨恨罰符 4(1)
自分のモンスターを指定、そのモンスターと同コストの相手モンスターを一体破壊する。
「私はデスインプを指定。コストは『2』、即ちシールドラビットを破壊。」
カードを前に差し出しボードに置くとカードが薄黒く光る。
シールドラビットの足下から黒い霧が発生し紫の魂魄がシールドラビットを囲み潰した。エグ。
「あぁ!、シールドラビット!。」
魔術カードを墓地に送り手札の一枚を場に出す。
「続いて『リトルデビル』を召喚。」
・リトルデビル 1(1) PP1000 M0 S1
魔方陣から羽を生やした丸っこいマスコットがふよふよと浮遊し指定地につく。やっと可愛らしいのが出てきたわ。
にしてもノーコストモンスターって優秀よね。
「アタックステップ。リトルデビル、アタック…!。」
「カシコマリッ!。」
「「喋った!?。」」
私に敬礼しサラにまでふわふわ飛び
「ラ、ライフです!。…っ!?。」
頭上まで上昇し落下、銀の障壁を破壊しライフを一つ削る。
「…てて、痛くはないですけど結構利きますね。」
立ち上がり一枚引く。
「まだよ。デスインプも続け…!。」
「!?、ライフです!。きゃっ!?。」
デスインプの追撃が第二の障壁を破壊しサラを後方に倒す。
流石に二点連続は利いたか。
『アクア様の連続アタックでサラ選手のライフを二点削ったぞー!!。しかし相手には二枚手札が増えてしまった。サラ選手、逆転なるかっ!?。』
再び立ち上がりデッキから一枚引き手札に加える。
「ターンエンド。…サラ、貴女楽しんでるわね。」
見て分かるようにサラの表情は満面の笑みを浮かべている。嬉しそうで、幸せそうな。
手札を持つ反対の手を自身の胸に置き目を閉じる。
「はい。狂気の力を気にせず戦えることが嬉しいんです。例えカードゲームとしても血を流せずに全力で戦える。況してや憧れのアクア様とご一緒に目を合わせ、話をし、笑い合える、そんな今が一番の幸福なんですよ。」
「……。」
恥ずかしそうに微笑むサラ。
本当に曇りが一切掛かっていない、純粋な女の子の笑顔に私は顔を俯かせ唇を強く噛む。
病気や悲しみを強く抱かなかったこの娘の笑顔はここまで綺麗なのか。背負うモノを忘れた人の生き様とはここまで美しいものか。
生き方を間違えていなければ私はこの笑顔を形なしで見られていた、嫌な思いをせずに見られていたんだ。
…悔しい。彼女から『普通』を奪った不逞の輩の王女として悔しい。止められるはずもなかった。でも悔しいという感情、負を背負ってしまう。
光を奪ったのは魔界人、即ち私ともなるんだ。
「アクア様、気になさらないで下さい。わたしは悲しくないですよ。」
「……サラ。」
顔を上げる。
「なんてったってわたしはアクア様の側近になるメイドですからっ!!。」
「………。」
右手のVサイン。
私は思い詰めていた考えを一瞬で呆れ混じりの溜め息に変え、無意識に口元を吊り上げる。
「ふふ、理由になってないわよ。」
「なら理由にします!。わたしのターン!!。」
◆◆◆◆◆
サラ D31 B4 H7 L4
「スタート、ブースト、ドロー、メイ『ンステップは待ったぁぁぁぁ!!。』はいぃ!?。」
突然の風音さんの咆哮に思わず手札を落とす。
『あ、済まないな、いきなりなので叫んでしまった。』
大丈夫ですとカードを拾い直す。
『実は補足ルールを言うのを忘れていてな。アクアちゃんには悪いが仕方ないな、はっはっは。』
(ぶち殺してやろうかしら。)
『その一。メインステップの前に手札を一枚捨てることによってコアを更に一つ加算するルールだ。しかし二枚ドロー時には使用は不可になるので気を付けたまえ。』
『その二。バトルマジックや魔術2のステップで魔術を使用すると永久的に使用したコスト分のブーストは消滅するためタイミングを考えて使用するように。以上。』
「なるほどー。ならわたしはこのカードを捨てブーストを加算します。」
手札を一枚破棄すると光が一つ出現する。これでブースト5、手札が6枚。
場にはライトキャットがいるだけ。アクア様のモンスターは全て疲労している。
ここは着実に戦うのが得策。
「わたしは再び『シールドラビット』を、更に『レイドッグ』を召喚します!。」
魔方陣が二つ出現しシールドラビットと白い毛並みの小さな犬が飛び出し着地。
・レイドッグ 1(0) PP1000 M1 S0
ブロック時、フィールド場に黄色のモンスターがいればPP+1000する。
アクア様は苦い顔を浮かべる。よし、数はこっちが多い。
「アタックステップ、ライトキャット、シールドラビット、行ってください!。」
小さな戦士たちはわたしに頷き走り出しアクア様の懐に入り
「ライフよっ!!。ぐっ!。」
二枚の障壁を破壊した。
後退るがアクア様はそこで踏ん張り止まる。素晴らしいです。
レイドッグのシンボルは0、アタックをする意味がない。
「ターンエンドです!。」
アクア D29 B4(+1) H8(-1) L3
「普通に劣勢よね。私のターン、スタート、ブースト、ドロー、一枚破棄しブーストを増やす。」
第5ターン。ブーストも程好く貯まってきたって感じですね。
手札を見ているアクア様はあることに気づき風音さんを見上げる。
「そういえばPPの下にも更にPPが書いてあるんだけど、特定条件でのパワーアップか何かしら?。」
そのことにはわたしも疑問を抱いていました。シールドラビットは3000でライトキャットは2000といった感じで。
『あぁ、一般に言う『レベル』だ。召喚時に幾つブーストや条件を支払うことにより強化された状態で召喚されるのだ。レベルは1と2しかない、しかも召喚後は一切変えられないデメリットもあるので要注意だぞ。』
最初に全て説明してくれません?と皆苦笑い。
有力な情報により考え方を変えてくるアクア様。
長考に耽た末あるカードを召喚してくる。
「メインステップ。私は『双頭獣キマイラ』をLv2で召喚!!。」
Lv2召喚…!!。
・双頭獣キマイラ 4(1) PP3000 Lv2 6 PP5000 M0 S1
Lv1.このモンスターの破壊時、コスト2以下の相手モンスターを一体破壊する。
Lv2.『攻』コスト0のモンスターをLv1でノーコスト召喚できる。
普段の大きさより一回り巨大な魔方陣が展開され力強く羽ばたく獣が着地し空を揺るがす咆哮を上げる。
威圧に押され一歩後退る。
『き、キマイラだぁ!!。ライオンと…牛っ!?。凄い構造の中級モンスターが召喚されたぞぉ!!。』
右はライオン、左は牛、尻尾は大蛇、ちょっと違うけれどキマイラですね。
「サラ、貴女は何故私に憧れたの?。」
手札を伏せ真剣な眼差しを向けてくる。
わたしはクスリと笑い答える。
「…教えません♪。」
「…そう、訳ありね。ならいいわ、アタックステップ、双頭獣キマイラでアタック!。」
再び試合に戻り攻撃宣言。咆哮を上げわたしに飛び込んでくる。速い!?。
「双頭獣キマイラ、Lv2アタック時効果発揮。墓地のコスト0のモンスターを一体ノーコストで召喚できる。私は墓地の『ソウルスピリット』を召喚!。」
・ソウルスピリット 0 PP1000 M0 S1
地上で展開される白の魔方陣から発光する球体が飛び出る。
…上手い、手札を一枚捨てたそのカードを回収し尚且つ場に出すとは。
ですが…!。
「ライフです!。ぐっ…。」
「続けてデスイン「スペシャルマジックを使用します!。」は?。」
首を傾げるアクア様に対しダメージステップ時にデッキから一枚引いたカードを前に差し出し場に出すわたし。
把握出来ていない人たちは一斉に風音さんに振り向く。風音さんも分かっていたかのようにマイクを握っていた。
『うむ、では説明しよう!。スペシャルマジックとは特定な文が記述されているマジックをダメージステップ時に引いたときにノーコストで発動できる逆転の一手なのだ!!。』
「そしてわたしが引いたカードは『ツインスタンウィップ』。コスト2以下のモンスターを二体バウンスさせます!。デスインプとリトルデビルを手札に!。」
空間から黄金のムチが二本放たれデスインプとリトルデビルに巻きつきやがて消滅する。
「ちょ、なによそれ!?。二体バウンスなんてチートじゃない!?。」
弾かれ宙に舞うカードを回収。わたしはマジックを墓地に送る。
・ツインスタンウィップ 5(2) コスト2以下のモンスターを二体手札に戻す。
案外コスト重いんですよね。でもノーコストですと相当な優秀カードですね。
「…ターンエンド。このゲームだとバウンスは死ぬほど辛いわね。」
サラ D29 B5(+1)H5(-1) L3
先程から心臓が酷く高鳴っている。
アクア様と戦えている興奮と勝てる状況に立っている緊張感が汗を滲ませ身を震え立たせる。
「スタート、ブースト、ドロー、リフレッシュステップ。手札を破棄しブーストを加算します。」
これでブーストが6つ、モンスターが召喚しやすくなった。
胸に手を当て鼓動を感じ取る。
「アクア様。一つお願いがあります。」
「なにかしら?。」
だからこそ思いを伝えよう。
息を大きく吸い大きく吐きこれを二回繰り返し口を開ける。
「もしこの試合、わたしが勝ったとき、勝ったときは「いいわよ、好きになさい。」アクア様の…って即答ですかっ!?。」
「…。即答もなにも貴女が考えていることなんてこれくらいでしょうが。」
…わたしってそんな分かりやすい性格してたんだ。
頬を掻くわたしに片手を肩の高さまで挙げ鼻で笑われる。
「ほら、貴女のターンよ。私との決闘、楽しむんでしょう?。私は最高に楽しいわよ。」
「っ~~!?。」
初めて見た。アクア様が柔らかい微笑みを浮かべる姿。
身体中の熱が沸き上がり息が荒くなる。
今度は違う意味で緊張しちゃいますよ…。ダメ、真っ赤になってる。
(どんだけモジってんのよ。)
ダメダメ、落ち着くのわたし、平常心平常心!。
頭を左右に振って雑念を払い
「メ、メインスティブッ!?。」
発言したつもりなのにぃ~。ぅ~。
(何故だろうか。今、マッハ級でリースの顔を思い浮かべた気がする。)
『噛んだっ!。可愛く噛んだぞ!。まるでリースちゃんのようブファ!?。』
「「えぇ!?、そんなことないですよぉ!。」」
わたしごときがリース様と同等になるなんて無礼極まりないですって!。
平手で頬を叩き気を取り直して発声する。
「メインステップ!、わたしはレイドッグを召喚します!。」
二体目の犬が飛び出る。
(シンボル0のモンスターを召喚…?。守りを固めたのか、或いは策がある…?。)
(サラちゃん、どうやら勝負を仕掛けてきたな。)
風音さんは気づいたみたいですね。そうです、わたしはここで勝負を決めます!。
手札の一枚を強く掴み天に翳す。
「悲しみの琴よ、律を奏で戦いを静めよ!。『戦詩人オルフェウス』をLv2で召喚!!。」
戦士の思いが戦いへ、カードへ伝わり思いが光となりて天に放たれ雲を越え神々しく拡散する
「……なっ。」
『な、ななななな。』
会場内は全員天を仰ぎ光から舞い降りる天使を只、地上に降り立つまで凝視することしか出来なかった。
その中の一人、わたしは涙すらも流していた。
深緑の衣を纏い背中に掛かる黄金の髪、両手には至るところに傷痕が残っている白のハープを持ちまるで哀しみを詠うかのよう。
涙を拭い場に出す。
・戦詩人オルフェウス 6(3) PP4000 Lv2 7 PP6000 M1 S1
シンボルが0のモンスターのシンボルを1にする。
Lv2 マジックを使用したターンの間、マジック一枚につき自分のモンスターすべてをPP+1000する。
『出たぁぁ!!。サラ選手の上級モンスターァ!。神々しい、まるでハープの精霊!!。』
会場の熱が一気に上がり声援を送る観客も出てきた。
「…どうやらそれがサラの切り札ってことね。なんだか悲しみを癒す為に貴女の元に召喚されたみたいね。…ごめんなさい、勝手言ったわ。」
いや、自分は言葉を返せません。何故なら事実ですから。
実際このモンスターを召喚したとき苦しみから解放された気がしますし。
だからこそ、わたしはこの方達でアクア様に勝ちたい。
これは、産まれて初めて抱いた意地…!。
「アクア様、勝たせていただきます!!。行きますよ、みんな!。」
わたしの思いが通じたか、モンスター達はそれぞれ頷き呼応してくれた。
嬉しいな、わたしを信じて一緒に戦ってくれる仲間がこんなに大勢いてくれるなんて。一度も味わったことがない感動にまた涙が溢れそうになったが仰ぎ堪える。
数秒後、涙が乾いたことを感じ息を吐きアクア様を見る。
「アタックステップ、戦詩人オルフェウスでアタック!。」
宣言をすると真上に強く跳びハープを奏で音のコードを放つ。
「ライフしかないのよ!。っぐ!?。」
コードを受け四枚目の障壁を砕く。
「続けてレイドッグ二体でアタック!、行って!。」
攻めて攻めて攻め続ける!。
「一体目をソウルスピリットでブロック…!。」
牙を向け走ってくるレイドッグの体当たりを回避し体内に入り爆発する。相討ち。
レイドッグ、ごめんね。あなたの犠牲、無駄にはしないから。
「ライフ!。っあ!?。」
二体目のレイドッグの体当たりが五枚目の障壁を砕きアクア様に膝をつかせる。
『うおぉぉ!。アクア様の五枚目の障壁を砕いた!。完全にチェックが入った今、どうするアクア様!?。』
やった、勝った、捉えたんだ…!。
みんなとの協力があっての勝ちなんだ。
「ライトキャット、アタ………っ!?。」
ライトキャットでアタックしようとカードに手を置き移動させようとした刹那、悪魔が襲い掛かってきたような恐怖感や寒気が走り思わず顔を上げる。
…これだ。恐怖の元はこの人、俯いているアクア様。
…いや、どちらと言えばダメージステップ時に引いたあのカード。まさか!?。
ゆっくり顔を上げ右斜めに首を傾け魔王の眼差しをぶつける。
「……残念ね、サラ。どうやら戦いの神、神風は私に吹いていたようね。」
軽く口元を吊り上げカードを場に出す。
「スペシャルマジック、『輪廻転生』を使用。」
・輪廻転生 10(2)
手札のモンスターカードを二枚破棄することにより墓地のモンスターカードをノーコストで召喚できる(Lvは問わない)
「私は手札のデスインプとリトルデビルを墓地に送る。このことによりこのモンスターを召喚する。」
フィールドの真ん中に巨大な柱が十数本円を描くように突き刺さり暗黒の球体が二つ降下し血に潜る。
と、暗黒が空中に飛び散りマグマの如く沸き上がりドロドロと流れる。
そのマグマからは血、死臭が漂い荒野が徐々に崩れ腐敗しモンスター達も腐敗し消滅する。
…そんな、なんでオルフェウス以外みんな墓地に送られたの…?。
「奈落の王よ、その姿を現世に現し天地万物全てを破壊せよ。『深淵の魔王アバドン』をLv2で召喚!。」
・深淵の魔王アバドン 8(2) PP7000 Lv2 11 PP11000 M1 S2
『起』コスト5以下の相手モンスターを全て破壊する。
Lv2 『攻』相手の手札をランダムに三枚破棄する。
混沌から右、左と血の色をした腕と言えない何かが這うように姿を現しイナゴに近い化物が暗黒を流しながら君臨した。
既に口が開かず声を発することすら出来なかった。
圧倒的な存在がわたしという一個体を硬直させたのだ。
しかし、何故だろう。頭のネジが飛んでいったか。わたしは気持ちよく笑っている。
お腹を抱え、笑い涙を垂らし、腹がよじれると言われる現象に陥るほど。
しばらく笑い涙を手で拭い再びアクア様を見て思う。
やっぱりこの方は素晴らしい方なんだな、と。
強く、美しく、優しく、時に面倒臭がるけど素直で汚く負けず嫌いで自分の思い通りに事を進めてしまう。
まさに魔界の王、ですね。
わたしもこのような方になりたい、このときは憧れを強く抱きました。
手札をボードに置き両腕を羽ばたかすかと大きく開く。
「ターンエンドです」
◆◆◆◆◆
「で、私が勝ったから拉致ってきたわ。」
「「話が見えませんって!?。」」
「分かりなさいこのばかぁ。」
「「理不尽ですよね!?。」」
やっぱりあんた達息合いすぎじゃないかしら、双子かなにかよ絶対。
仕方無いわね、なら現状を説明するわよ。
まぁ、あれからフルボッコしてオーバーキルして私の勝ちで幕を閉じアリーナに戻ってきた私はそのままサラを引っ張ってきてメイドにしようと拉致ってきたって訳よ。要約したらこうだけれど分かるでしょう。
「はい、わかった?。」
「「説明もなしに!?。」」
あら、この娘たちのレベルじゃ察することも出来ないのかしら。
「とにかくサラを側近のメイドにした、以上。」
「そんな冒険者が増えたみたいなノリでいいんですかっ!?。」
「リースはいちいち五月蝿いわっ!。」
「ひぇぇぇ!?。」
完全に耳を畳みいつもの鬱モードで壁にの字を書き続け始めた。
リースは後で慰めればいいとして今はサラ。?マークを出して困惑している。
私は軽く微笑みサラの頬に手を添え髪を平で持ち上げる。
「アクア様、わたしは決闘で負けたんですよ?。側近メイドにはなれません。」
「まぁ、側近メイドは仮として実際は『保護』よ。」
「保護?。」
「貴女を野放しにした場合暴走したら被害が出るでしょう。だから私と一緒にいることによって危険性を減らすのよ。貴女にとっては危険性を減らして私の側近メイドになる。一石二鳥だとは思わないかしら?。」
私の案に表情は明るくなるがすぐに視線を逸らし落ち込む。
…はぁ、この娘ったら。
手を髪から離し両手で軽くプレス、三口が可愛らしいわね。
「元々勝ったらなるつもりだったんでしょうが。暴走で私を巻き込んだら私たちが全力で止めてあげるわよ。だから安心なさい。貴女は今日から私の家族のようなものなんだから。」
手を離しサラを見る。サラの瞳からは大粒の涙が流れていた。
泣かれるのはあまり慣れてないけど、この娘は今、泣いててほしい気がする。
私は優しく抱き頭を撫でる。
「でもちゃんとメイドとして雇うから仕事はこなしてもらうわよ、サラ。」
「――ハイッ!!。」
『あー!、アクアちゃんがサラちゃんを泣かしたぁぁ!!。いーけないんだーいーけないんだ!!。』
「……そういえばあそこにアイアンメイデン忘れてきたわぁ…。」
『すいませんっ!!。』
ア「完全に趣味本意でカードゲームにしたわよね。」
しましたよ、えぇ。
リ「私もカードゲームしたいです!。」
ア「暇だったらまたやるんじゃないかしら。」
風「まだ完成体ではないからな。」
次回『対立する兄妹』