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第十五話『三回戦』


さて、十五話ですよー。予定だと二話でアクア戦を終わりにします。…出来るかな。



「無事二回戦も勝てましたね。」



会場の特別席に座っている私とアクアさんは違うブロックの生徒たちの試合を見ています。


王族が一般の生徒の席に同席することはやはり国家問題に発達するから止められました。


私は軽く頬を膨らましてましたがアクアさんは嫌な顔一つもせずに特別席に座りました。やはり気にしてないのでしょうか。


「そうね、一回戦は無事ではなかったけど。」


「?。」


「なんでもないわよ。」


なんでも、ではないと思いますよ。


「桐佳さん、柳門寺さんに連れられてまだ帰ってきませんね。」


「…嫉妬してるのかしら?。」


「はい!。」


(即答かい。)


「って違った!。心配ですよ!。」





◆◆◆◆◆





違かったんだ。リースは顔を赤くして右手を横に高速で振り否定を表す。


「厳しい一撃を受けた筈ですのに何事もなかったように振る舞い更に訳有りそうな表情で桐佳さんを連れていって。柳門寺さんは危険な型を使う方でしたし裏で桐佳さんを襲ってたりしてるかもしれませんよ!!。」


「脱がして襲ったり。」


「私も同席…じゃなくてアクアさん!。真面目に聞いてくださいよぉ!!。」


「聞いてるわよ。」


頬を更に膨らませ席に座るリース。


私は真面目に聞いてるって。真面目に聞いてほしいのはあんたの方よ。人の質問に考えないで答えるのは相当の馬鹿よ。血は争えないってのは嫌な言葉だから言いたくないけれど、この娘なら問題ないわよねきっと。



「で、女体盛りがどうしたかって話しだったかしら。」


「全く違いますよっ!?。」


あら、違かったか。私も人のこと言えないわね、どうでもいいけど。


「桐佳さんが心配かどうかの話しですって。」


あ、あぁー。そだったわねー。最近忘れがちだわ、寝不足だし。


今起きてられてるのも奇跡に近いのよ、革命的なのよ。


悪いけどリースの声が脳に激しく響いての死にそうだ。


「アクアさんは、心配じゃないんですか?。」


「いや全くこれっぽっちも。」


「即答!?。」


ぐぅ…、響くって。私たち寝不足魔界人は騒がしい獣界の住民の声は弱点なの。脳天五分割も夢じゃなくなってきた。


「五月蝿いわリース、今からツッコミ禁止。」


「ボケるアクアさんがいけないんですよ!!。」


ほらツッコんでるし。


「というか冗談なく五月蝿いわっ!!。」


「逆ギレですか!?。」


理不尽ですよぉと仕舞いには泣かれてしまった。おいおい、泣きたいのは私の方よ、泣かせてちょうだいよ。いやもう寝かせてちょうだいよ。


私が深い溜め息を一つつきふと視線を右に移し苦笑いをしている側近メイドを見る。


『なんでしょう、このコント。』とか思ってんでしょうね。無理ないわ、自身が自覚してるもの。




視線をフィールドに落とす。


今は二試合目だっかしら。勝っているチームが圧倒的な押しを見せている。


変わった曲線を描いている剣を踊るように叩き込み相手は守るので精一杯って感じかしら。


斬り上げで大きくバランスを崩させた、と同時に剣を元の銀の粒子に還元させ瞬時に再構築。姿を現したのは銀のバトルアックス。


両手で握り姿勢を低くし左足を前に踏み出し柄で腹部を突……?。


…何故コンマ単位でのディレイを掛けた。魔力付加した訳ではないし、単に相手に状況処理をさせただけだ。



コンマ単位での状況処理、…まさか。


腹部を突かれた相手は苦い表情を浮かべ一歩後退り握っていた武器を手放す。


その隙を斧所有者が持ち方を変え大振りの逆袈裟懸けを振るう。


直撃すれば非殺傷でも大怪我では済まされない、最悪神経が切れる。


普通武器を手放し仰け反れば回避は非常に困難、相手は瞬時に頷き手を差し出すと前方に六角形のピンクの障壁が展開する。


大量の火花が接触と同時に飛び散りバトルアックスが障壁に止められる。


あの障壁は確か私のプロテクションより一つランクが高い魔術だったかしら。名を『ワイドプロテクター』、物理耐性により磨きが掛かってたっけ。


バトルアックスの一撃は物理攻撃、ワイドプロテクターで受けることは良案、ベスト的だった。



しかし、斧所有者はワイドプロテクターの展開と共に不敵な笑みを俯きながら浮かべてたのだ。


理由は三つ。一つ目は無理な体勢の展開。二つ目はバトルアックス。


そして三つ目は、元々障壁を展開することを知っていたから。



大して、いや、全く込めることがなかった力の一部を込める。




結果は言わなくても分かるわよね。


障壁は砕けて衝撃で飛ばされ意識をなくす。怪我は擦り傷程度。


鋭利な武器で攻撃されていて擦り傷とは驚異的な運の持ち主ねー、と言いたいところだけれど、意図的だと別の意味で驚きだわ。


あの斧所有者の女の子、わざと斧の柄で怯ませたのよ。しかも相手に状況処理をさせる為に突きを遅らせた。


怪我をさせたくないから、もしくは障壁を割りたかったから。



後者はまずないわね。女の子の行動は相手を傷つかせないで勝つこと。


相当の技量が必要となるテクニックを容易に行えて尚且つ実力は計り知れない。手札も一回戦目からあの二つしか証してないみたいだし。同じ一年で人間、恐らく私でも厳しいわねあれは。


はぁ、このまま勝ち抜けば決勝で当たるのよね、めんどくさ。如月に任せるのがいいわね。


如月………ん?。如月の言葉に何故疑問づいた…?。


腕を組み周囲を見渡し最後にフィールドの女の子に目を移す。



長い銀髪に大きな黄色の瞳、リースに近い身長で雰囲気は幼稚そうな元気っ娘。


如月の上の服が太股まで伸びていてスカート状になっているだけで質は同質。下は膝辺りで紐で締めている白のパンツ、首からは特殊なアクセサリーを提げている。


(成る程成る程。似ているわね。如月が更に小さくなったらあんなになるのかしら。赤の他人だけど。)


この世の中、似ている顔の人が五人いるって聞いたことがあるけれど、実際いるものねー。


三回戦に進出したことにガッツポーズをとり待機席へ帰っていく女の子の背中を見送り欠伸を一つ。


二回戦も終了、三回戦は三十分の休憩を挟んで開始だったか。


それぞれ観客は昼食や他のアリーナの観賞で席を立ち第三アリーナを後にし物の二分で会場内はもぬけの殻になる。



私は下がれと側近メイドに命じ手の甲で俯いているリースの頭を叩く。


鼻を啜りまだ嗚咽中のリースは頭を上げようとはしない。…いつまで泣いてんだこの娘は。


これは謝ってもどうにもならないわよね、理不尽の連打を打ったの私だし。反省してないけど。


頭を掻き考えを捻り出そうとするが中々良い案が思い浮かばない。


困った困った、早く泣き止ませないと獣界の群れが襲ってきそうで恐いわ。



「おーーーい!、ただいまー。」



と、ここで四番バッター、代打ち、救世主帰還。


「遅かったわね。ほらリース、如月が帰ってきたわよー。」


耳を引っ張りそう言うとリースは直ぐ様立ち上がり泣きながら如月の胸に飛び込んだ。


酷な状態で飛び込まれて、辛そうに。ほら、すごい苦い表情。


「桐佳さぁぁん!!、心配しましたよぉぉ!!。」


無意識に抱きつく力が強くなってることが如月の様子からよく読み取れるな。


口元を少し引き攣らせながらもリースの頭を撫でる如月。貴方漢ね、死ぬわよ…?。


「ご、ごめんね。少し、ぐぅ…、知り合いと、話してたんだ。」


「知り合い、ですか?。」


「うん。昔の人とね。」


リースを引っぺがし私を見てくる。


「アクア、色々とお世話掛かっちゃうかもしれないけど、よろしくね。」


「まだ完全じゃないのね。」


「ごめん。調整に一時間は掛かりそうなんだ。三回戦には僕が出ないといけないのに。」


私は軽く息を吐き立ち上がり如月に薬が入っているビンを渡す。


「いいわよ。但しこの借りは高くつくわよ?。」


ビンを受け取りポケットに入れた如月は苦笑。


「あはは、やっぱりアクアには隠し事は出来ないね。」



「?、…?。」


『リースにはまだ早いよ(わ)。』


「またですかっ!?。」





◆◆◆◆◆





「や、風音さん。」


アリーナと翠碧を繋ぐ渡り廊下、そこで桐佳の曾祖父と風音が互いに出くわす。


しかし二人は偶然などではなく必然的に出会った顔をしている。元から会いたかったような。


「久しいな、全く容貌が変わっていないようだな。」


「そりゃあ化物ですから。」


「はは、自らの存在を化物扱いにするのは」


「『よくない』って言うんですよね。分かってますよ、僕だって人なんですから。」


「もう幾万回言ったか、懐かしいな。」


やれやれと首を傾け手の中にあるモノを曾祖父に投げる。曾祖父は驚きもせず右手で受け取り見ないでポケットに入れる。


「桐佳ちゃんには悪いことをしたが分かってくれるか?。」


「『YES』と回答せざる負えなくした張本人の台詞ですか?、それ。もう少し傍観者らしい言葉でお願いしますよ。」


そうだな。にやけながら顎に左手を当てなにか思いついたように人差し指を立てる。


「愉しそうだったから。」


「小学生の感想ですか。」


「そうは言っても私は傍観者なのでな、後ろで背中を押すことぐらいしか出来んのだよ。君とは違って。」


「思いっきり覚醒させたのは誰ですか…。」


肩を落とす曾祖父に対し穏やかに笑う風音。


「だが決して勘違いはするなよ少年。私は確かに覚醒はさせた。しかし完全に覚醒させるのは君の仕事であり、桐佳ちゃんの義務だ。」


「義務…か。いつから僕の子供達は世界を救うようになったんだろう。必然の類いじゃなくて、運命に等しいな。」


「…すまんな。厄介事を押しつけてしまって。」



普段風音が見せない本気の反省の表情。曾祖父は一瞬驚くも胸に手を置き優しく微笑む。


「らしくないですよ。お互い覚悟を決めて頑張りましょ、ね?。」


今度は風音が目を見開き鼻で笑い歩き始める。




「君はやはり、強いな。」



「命の重み、大切にしてますから。」





◆◆◆◆◆





如月が完全に物にするにはあと四十分ほどか、しんどいわね。


休憩を挟み三回戦、一試合目、当然私はフィールドに剣を刺してだれていた。


観客の喚声が非常に五月蝿いわね。私のファンが一番騒がしい、黙らないかしら。私が五月蝿いのが嫌いって知ってての行為かしら。だとしたら万死に値するわよ、国家命令で。いいのかしら、これでも姫君やってるんで魔界一つくらい圧力で動かせるのよ?。


はぁ、心情独白なんかしてても何一つも気分が晴れないわね。疲れる一方だわ。


髪を掻き上げて剣を空間に納める。


『さぁ、やってきたぞ三回戦!!。司会は勿論斉賀です!!。』


『みんなの逆アイドル、不知火 風音だ。三回戦も可愛い娘が揃いに揃ってるな、ぐへへ…。……?。』


ふと風音さんが私と目を合わせる、と目を閉じ軽く頷く。


謝罪のつもりかしら。んな謝り方じゃ私の財布は機嫌直さないわよ。


如月の暴走を止める薬、相当掛かったのよ、マジで。数十万は飛んでったわ。…?、風音さんがなにか紙に書いてるわね。



【五百万でどうだ?】




許したっ……!。



いやぁ、気分晴れたわ。今なら三秒で首取れる気がするわね。しないけど。


お腹の中の古い空気を吐き出し相手を見る。さ、入れ換えよ。


待機席から小走りでフィールドまで走ってくるのは赤髪のツインテールのちびっ娘、瞳の質からして魔界人ね。


かなり焦って動揺してるみたいだけど、大丈夫――


「へぶっ…!?。」



じゃないわよね。


耳まで真っ赤になりながらも砂を払って立ち上がり指定地に着く。


あー、このタイプは苦手だぞ。リースとは違った感じだけど。


多分『アクア様と同じ地に立てたこと、光栄ですー』的なこと言ってきそうだ。


深くお辞儀をするちびっ娘。


「あ、あアクア様!、わたし実は、トーストがだ、大好きなんですっ!!。」



まさかの予想を359度裏回った台詞だった。


流石の私も転けそうになったわ。


「そ、そう。私も好きよ。」


「ってあぅ!?、台詞間違えた!?。」


間違えたんかい。


「あ、アクア様!。本日は同じ地に立てたこと、とても光栄です!。」


「どんな間違いをしたんだっ!!。」


「ひぅ!?、ごめんなさい~。」



しまった。声を荒げてツッコむことがなかった私が意図も容易くツッコんでしまったなんて。何年ぶりか。


このちびっ娘、甘く掛かれば間違えなく足を掬われる。無意識の狂犬…!。


『一試合目、右手が魔界のプリンセス、クールな毒舌少女、アクア・ディード様ですっ!!。いやぁ、いつ見ても美しいに限りますねー。』


『今回もその美乳で剣の舞いをしてくれ、期待してるぞ。』


風音さんの言葉に観客が歓喜の声を次々に上げる。あんたらは私のなんに期待してるんだ。


『左手に見えるのは僅か一ヶ月で妹にしたいランキングのトップ3にランクインした新人小悪魔、サラ・クライン選手です!。可愛いですねっ!!。』


「へ!?。らんきんぐって、へ?。」


『普通に可愛いのが卑怯だな。あれでは即妹にしたくなるのも頷ける。ランキング作ったの私だし。』


(あんたかい…不憫な。。)


確かに凄い熱狂的だ。特に太った男達が狂ったように女の子の名前を叫んでいる。あれって完全に犯罪よね、つか気持ち悪。


半泣き状態であちこち首を振り対応に困ってる。


はぁ、なんだかリースみたいだ。手の掛かる同級生だこと。


如月は恥じらいもなくリースに走り寄って爽やかスマイルをしたっけ。…恥ずかしすぎ、無理よ。


仕方ないのでとりあえず女の子まで歩み寄り言葉を掛ける。


「ほら、落ち着きなさい。」


「ふぇ?。っ~~~~!!!!!??????。」


私の存在に気づいた女の子は数秒の硬直状態に陥り、沸騰したやかんの如く真っ赤になり手を上下に高速で振りまくる。ちょ、シュバババ鳴ってるっての。


タイミングを見計らいなんとか両手をキャッチ。


あーあー、混乱しすぎて酸素通ってないわこれ。目回してる人初めて見た。


「とにかく落ち着きなさい。落ち着かないと嫌うわよ。」


「………きゅ~。」



…効果あっかしら。只の酸素不足かもしれないけどどっちにしろ止まったから結果オーライ。


観客席から今度は女達の大歓喜が上がった。もうやだわ、魔界人は百合ばかりで。


前屈みに倒れる女の子を支える。


「…は。す、すいませんアクア様!!。大変ご迷惑をお掛けしました!!。」


意識を取り戻した瞬間にこの元気さ。若いっていいわよねぇ。


後ろに飛び退き深く頭を下げてくる女の子に顔を上げてと命ずる。


「えっと、サラ?。そんなかしこまらなくていいわよ、同学年だし。」


「そんな!。わたしがアクア様に砕けるなど、一切ございません!!。名前で呼んでくださったのはとても…嬉しかったですが。」


少女漫画の恋する乙女みたく両手の人差し指を合わせたり離したりしてもじもじしたり、ロマンチックな娘ね。


「そう、ならいいんだけど。」


元の指定地に戻りサラに振り向き気になっていたことを訊く。


「一つ訊くんだけど、何故ミニスカメイド装備…?。趣味なのかしら?。」


そう、彼女の着用しているバトルスーツは紛れもないメイド服。白のYシャツの上に基本的なあの形の~…説明が難しい。とにかく一般的なメイド服を着ているのだ。


意外と可愛いくてオプションとかつけてみたくなるわね。


「いえ、趣味ではなくて…本職なんです。」


「あら。これは失礼したわね。」


「い、いえいえ、初めての方は決まって申し上げるので慣れっこです。」


あははと笑うサラ。この娘、嘘が下手くそ。無理に笑ってるのが見え見えよ。


「配属はされてるの?。」


私の質問にサラはゆっくり首を横に振る。


「まだ一度も。で、でもでも!、…夢はあります。」


私を見て天使のような小悪魔のような微笑みを浮かべ急いで準備運動を始める。



…成る程成る程。



『あ、あのーお二人?。そろそろ始めたいのですがー?。』


「あ、すいません!。」


「勝手に始めなさいって。」



空間から銅の剣を引き抜き地面に突き刺す。


相っかわらず重いわねこれ。多少魔術で重さ軽減しても重い。



さて、サラの武器は。


…………?。


「どうして展開しないのかしら?。あるんでしょ、武器。」


「…あるにはあるんですが。」


「隠すタイプ?。」


「いえ。」


んじゃなによ。焦れったいわねー。


『なにも知らぬ魔界の王女には私から説明しよう。彼女、サラちゃんは大の戦闘嫌いでな、傷つけることに慣れていないのだ。加えて相手は大大大好きのアクアちゃん、戦うことや況して傷つけることすら出来ない、戦意が一切ないのだよ。』


溜め息混じりの風音さんの説明を受けたサラは見抜かれて顔を俯かせる。


私は当然深い溜め息を吐いて剣を抜き剣先をサラに向ける。


「どうやってここまで勝てたか謎だけれど、サラ。私の馬鹿仲間でこう言ったわ。『同情や申し訳で戦われるのが一番申し訳なくて悔しい』とね。」


「…!。」


俯かせていた顔を上げようやく私の目を見るようになった。


「貴女が戦いたくないその気持ち、よく分かるわ、私もあまり好きじゃない、面倒くさいもの。だけどこの地に立てば皆立場は戦士となる、ならなければいけないのよ。私は国の一市民として、国を守る強さを欲する為にここへ来た。だから戦いの聖地に足を踏み入れた。思いや後悔を背負ってまでね。なら貴女はどう?、何故自ら戦いを嫌ってまで力を有する者が集うこの世界に足を踏み入れた。メイド道を極めるだけの理由で来るわけがない。もっと強い思いがあったのじゃないのかしら?。そこのとこどうなのかしら、サラ・クライン。」


我ながら長々話してしまった、後悔は果てしなくしている。まぁ、時間は稼いだか。


私の言葉が通じたか、サラは強く頷き右手を右に伸ばし強く握る。



すると空間がガラス片のように砕けちり空間が徐々に形を作り、やがて姿を成す。


その姿とは、サラ二人分の長さに頂点から弧を描く形に突き出す刃、一振りですべてを薙ぎ払い刈り取る死者の所有物。『大鎌』だ。


黒の柄に少し血の色が混じっている銀の刃。首斬り鎌を連想させるのには打ってつけね。


あの小形の体のどこに鎌を縦横無尽に振りませる力があるのよ。非現実的にも程度ってものがあるでしょ。


身を沈め左手で手前、右手で奥の柄を握り完全に構え終わる。


「そうです。わたしにはアクア様の側近になる為に戦いに来たのです。ここで力、見せます!。」


「ようやく本当の貴女に出会えたって感じね。いいわ、貴女の力、私にぶつけてきなさい!、見極めてあげるわ!!。」



お互い武器を構え、一斉に地を踏み出し走り出した。




『ちょ、まだコールしてないぞ!?。』





―――――





「ぐっ…重っ…!。」


割れた障壁が飛び散ると同時に後ろに飛び退き剣を構える。


前方から間合いを詰めてくるサラは鎌を回転させながら直前まで回し――


右払い!。


右に体を倒しながら斬り上げで刃を弾くのが良い判断。


剣の刃に強化魔術を付加し考え通りの斬り上げを刃に打ち込む。


(感覚……無しっ!?。)


が、弾かれる筈だった鎌は剣が走ると共に形を崩し空気と一体化する。まさか幻影デコイ!?。やってくれるわね。鎌どころか自身の両腕まで隠すとは。


なら実体は



「こちらです!!。」


「しかないわよねっ!!。」



反対!。


間に合うか…!。いや、間に合わせる!!。


体勢が崩れた、だからどうした。私には右手が残っている。


「Protection …riseッ!!。」


右手を鎌に打ち込むと更に拡大した障壁が拳と鎌の間から展開する。


無詠唱魔術ノータイムスペル!?、それに強化まで付加しますか!!。」


驚きを隠せず障壁に弾かれ後ろにステップをし距離を離すサラ。


私は体勢を立て直すので一杯、追い打ちは掛けられない。


『おおっとアクア様、見事な無詠唱魔術!。国の王女となると上級スキルまで駆使することも可能なのかぁ!!。』


拍手や歓声が一層に沸き上がる。


『アクアちゃん、今まで隠していたか。可愛い奴め。』



否定はしないわ。隠していたことは本当だし。隠し通そうと思ってた。


だが力を制御しきれていない筋肉メイドの一撃を受けたらねぇ、鎌だし。まず死ぬわよ。


剣を空間に納めクリムゾンランスではない只のアイアンランスを引き抜く。


重さは紅槍より重いが多少長い。長さを誇る鎌に対するには長い槍がいいと思った。


両手で頭の上で横に回し前で構え、地を蹴り間合いを詰めにいく。



「果たして貴女の守りは堅い?。」


守りの体勢をとるサラ。


私は更に足に込める力を強め一瞬でサラの懐に飛び込み



「切り裂くっ!!。」


左払いでの横薙ぎを鎌の柄に打ち込んだ。そう、私の背中から見る観客と斬撃を受け止めようとするサラは少なくとも見えただろう。



しかしどうしたことか。小さいサラの体は前方に飛ばされて地面を転がっていたのだ。


鎌の柄を地面に削りなんとかリカバリーに成功し咳き込みながら苦い表情を浮かべるサラ。


理解出来ぬ状況のまま顔を上げ正面に立つ私の周囲を見渡し、地面の違和感に気づいたときにようやく物事の真相に辿り着いた。なので技名は言っておこう。


イカズチ。」とね。


「けほっ。流石アクア様、雷を纏い瞬間移動、その場にいると認知させ行動を拘束し背後から攻撃したんですね。」


「音を辿れば回避は簡単よ。」



「…あっ。」


鎌で支え立ち上がろうとするサラだったがビクリと仰け反り膝をつくだけで立ち上がることは出来なかった。


『?。どうしたのでしょうかサラ選手。突然仰け反り、しかも立ち上がれないとは。余程先程の一撃が効いたのでしょうか?。』


把握出来ていない斉賀先輩に風音さんが解説を始める。


『いや、あれは感電だ。アクアちゃんが雷の属性魔術を使ったのは移動だけではない。多量の雷属性を付加し体内の神経に打ち込んだのだ。そしてこの先やるとすれば。』


振り回し鉄槍を球体の粒子に還元させ握り潰しその左手を地につけて目を閉じ意識を高め術式を一瞬で組み、詠唱を発声する。


「Icicle rise。」


すると私を囲う地面が凍りつき


「Go…!。」


術のトリガーを引くと冷気漂う地面から鉄槍の形をした氷の槍が形成され徐々に上に発射、サラに槍の雨が降り注ぐ。


アイシクルライズ。魔術の型を指定地に流し込ませることによりそのままの魔術の型を形成させ発射させる設置型の魔術なんだけど、動けない相手になら問題はないでしょ。


『おおっとアクア様、追撃での強力魔術だぁ!。』


『おいおい、死人は出さんでくれよ、私の人生が終わってしまう。』


誰が死人なんか出すもんですかってんだ。自分の世界の住民を自らの手で殺すわけないでしょうが。


降り注ぐ槍の総計は38本。その内サラに直撃するのはせいぜい16本程度。しかも全て掠り傷程度で済む。まず死には至らない、最小限のダメージで決着がつく。


時間は多少稼いだ、後はリースに頑張ってもらえばなんとか稼げるでしょ。


私は立ち上がり一息つき帰る準備をしようと背中を向けようとした、瞬間、観客の大歓声が会場内に響き渡る。


何事と急いで振り返る。



「ちょ…、嘘でしょ…。」


思わず目を見開き額からは汗が垂れていた。



何故なら私の視界に映る光景、それはサラが大鎌で氷の槍を次々に両断している光景だった。


…有り得ない。あの属性量なら回復には五分はかかる。それに回復魔術は使えない程度に神経の自由を奪った筈なのに。


まさか、事前に術式を組んでいたのか。ないとすればリジェネイター?。


あんなくそ重い鎌を素早い身のこなしでぶんぶん振り回して。



気づけばサラの周囲に刺さる筈だった槍たちは形を為さない氷として無惨に散っていた。


サラの体には本当に少ないけど掠り傷はある。が、計算していたダメージより遥かに下回る。これではまだ倒れない。




「ぐっ…かっ!?。」


「………は?。」


突然の吐血。鎌を手放し粒子に還元、口を押さえ咳き込む。


私を含め会場内の人が動揺の色を見せ口を閉ざす。


出せる量を出しきりハンカチで拭い取り立ち上がる。


「はぁ…はぁ。お見苦しいところを…お見せ致しました。」


「ちょ、喋らないの。とりあえずこれ飲んで、あとは風音さん。」


ライフポーションを手渡し風音さんを見上げる。


(ナレーターになった覚えはないがアクアちゃんの頼みだ、引き受けよう。だがその前にサラちゃんよ、魔界王女に告げて。)


テレパシーチャットを三人で繋いでくれた風音さん。迷いに迷った挙げ句頷くサラに疑問を抱く。


(サラちゃんが戦いを好まない理由だが、彼女自身が持つ病が原因なのだ。)


(病?。)


(『狂戦士』。自動強化型暴走生物のサンプル、と言えば分かるだろう?。)


(!?。…まさかあのときの生き残りなの…?。)


どれもこれも聞いたことしかない単語だ。


(あぁ、戦闘者の肉体や神経を徐々に蝕み爆発的な能力の上昇をする、絶滅種の鬼人。あの出来事の数少ない生還者だ。)


(……。)


サラを見下ろす。


狂戦士の作用は十分に一度ずつ。これは完成体の仕様。しかしサンプルはサンプル、実験の道具でしかない彼らは五分で作用が発症してしまう。


十分を越える今では二度の作用が起きた。臓器が潰れていてもまずおかしくない。


ライフポーションで回復をしたにはしたが回復よりダメージが遥かに上回っている。最早戦える状態ではない。



周囲を見る。異変に気づいている者はいるけど気づいていない者達が数多く、動かない状況に違和感を感じているはずだ。



「Call Crimson Lance。」

空間から紅槍が飛び出し掴みサラに矛先を向ける。


(決着をつけましょ。このまま続けても作用が貴女の体を壊すだけよ。)


(私も賛同だ。生徒を危険な状態には出来ない。)


わかって。後悔してからじゃ遅いの。


紅槍を引き左手でサラに手を差し伸べる。


顔を俯かせた状態で手を握りゆっくり立ち上がり、顔を上げる。


目元は泣いた後のように真っ赤になり口元は震えていた。



(…………まだ)


(…サラ?。)



「まだアクア様に認めてもらってませんーーーーゴホッ!?。」


「意外と頑固ね貴女!?。って言わんこっちゃない!。」


…最悪無理やり気絶させようかしら。


髪を掻き上げ深くに深すぎる溜め息を吐き思考を張り巡らせるが何一つ案が思い浮かばない。助けて風音さん。



そうだな…と腕を組み体を前に倒し十数秒後、体を起こし嫌な笑みを浮かべる風音さん。


何故かしら、とても嫌な汗が出てくる。





「……ゲームをしよう…!。」





アル「ぐっはっ、また負けた。桐佳カードゲーム強すぎだぞ~。」


桐「アルマがビート過ぎるんだよ。簡単にロック掛けられちゃうって。」


アル「桐佳は守りのデッキで俺は小型のビートデッキ、完全に相性合ってねぇよ。」


桐「いや、そうなんだけど、アルマは相性の話しじゃないじゃん。僕の平均BPが3000、4000に対してアルマの平均BPはたったの1000!。ていうか全部初期BP1000じゃん!?。」


アル「」


桐「よく見たら全部コスト0だし魔術カードも一枚しか入ってない!。どんなデッキ構築したらこうなるの…。」


アル「……あれだ、1ターンだ。」ビッ


桐「だめだこりゃ。」



次回『決闘デュエル

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