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第十四話『目覚め』


お久しぶりです。きちんと生きてますよ。


さてはて桐佳のお爺ちゃんとは一体…?。




「お爺ちゃん!?。」


「やっほー。見ない内に凄い成長したね、主に女子力がー。完全に男の子の面影がなくてビックリしたよ。あはは。」


頭の後ろに手を回し愉快そうに笑う目の前の人。


僕は訳がわからず口を開けて硬直。数秒経って我に返り目を大きく開き走り寄る。


「な、なんでお爺ちゃんが虚界に!?、じゃなくてなんでまだ生きてるの!?。確かもう90歳くらいいってなかったっけ!?。」


髪や顔や体を隈無く触り回すけど実体の感触はあるし六年前と同じだ。


この人は僕のお爺ちゃんで間違いない。


でもどうして。お爺ちゃんは僕が十一歳のときに病で外国の病院に運ばれて手の施しようがないって言われた筈なのに。


「あぁ、あれは君のお父さんが君をからかう為に考えたでっち上げの嘘だよ。」


「あれ嘘だったの!?。じゃあなんで本当に行方を眩ませることしたの?。」


僕がお爺ちゃんの両手を握り強く問い掛けるとお爺ちゃんは視線を激しく落とし左の口元を軽く吊り上げる。


「…子どもの夢を、壊したくない…かなぁって。」


「天然を遥かに越えて馬鹿だよねっ!?。」


「僕も三年くらい経ってようやく気づいたよー。」


「普通は一日で気づくものだよー!。」


もー!、と首根っこを両手で掴んで押したり引っ張ったり。


苦笑いを浮かべるお爺ちゃんはごめんごめんと手を離しながら言ってくる。


「まぁ、本当は用事があってイギリスまで飛んでたんだよ。旧友から仕事を頼まれちゃって。だからそんなに怒らないで、ね?。飴あるよ?。」


「飴もらって許すほどもう幼稚じゃないって。あと別に怒ってないよ。只、寂しかったから…。」


「~ぅぅ。桐佳ちゃんはやっぱ優しいよー!。唯一自慢の孫娘だよー。」


「男だって!。」


「可愛いことはいいことだってー。」


僕より頭一つ以上大きい身長のお爺ちゃんだって女の子みたいな顔してるじゃないか。ほら、頬擦りする肌だってツルツルのモチモチだよ。


…あれ、もしや僕より肌質良かったり?。男としてはキリッとした顔立ちがいいけど何故だか悔しい気がするのは何故?。お爺ちゃんに負けたから…かな?。



「……ゴホン。」


『あ、すいません。』


そういえば柳門寺さんの存在を忘れてた。


お爺ちゃんをひっぺがし本来の目的を思い出す。


「そうだよ。どうしてお爺ちゃんはここに来たか、だよ。」


僕の問いに笑い右手を握られる。…?。


「僕が来てから火照る現象は落ち着いたね。」


言われてから気づく。本当だ、熱くないし触られても苦しくない。


不思議がる僕にお爺ちゃんが話を続ける。


「その現象はね、桐佳ちゃんのお友達の王女リースちゃんが起きた現象に近いものなんだ。要は暴走ってこと。」


「暴走!?。ていうかなんでリースの暴走のこと知ってるの!?。」


「桐佳ちゃんの知ってることは全部知ってるよ!。」


「軽く犯罪だよね…。」


当然だよーと胸を張る。


「でも、暴走だなんて。僕って危険な術式使ってたりしてないのに。魔力の暴走…はないし。」


「うん、術式も魔力暴走でもないね。答えは簡単、体質だよ。」


体質?、と首を傾げるとお爺ちゃんも首を傾げる。


「桐佳ちゃんは自分が他の人とは違った魔術を使ったり魔力量が遥かに上回ったり、疑問に思ったことない?。」


「んー、違った魔術は気にならないけど魔力量のことは今でも疑問に思ってる。普通の人にしては魔力量がありすぎる、魔界人も顔負けするほどだし。」


一般人が5で生まれてきたら僕の場合30で生まれてきた、みたいな。


アルマと僕の魔力量を引いてみたら僕がアルマの体内に魔力を流し込めば数十殺してもまだ余るって。


「そっか、まだ桐佳ちゃんは知らなかったんだ。自分の血筋のことについて。」


「?。どういうこと?。」


「君のお父さん、幹也みきやくん。彼は魔界人なんだよ。」



「」


「ほぉー、道理でですね。」


「はぁっ!?。お父さんが、魔界人!?。」


産まれて十数年一緒に居たのに本人からまったくこれっぽっちも魔界人の『魔』も字も聞いてないよ!。


え、そうなると僕って人間と魔界人のハーフ……?。


魔力量が多いのは魔界人の特性…、トリッキーな魔術が使えるのは人間だけど人間でも扱うのが困難なウェポンスキルを易々と行えたのはこれが理由だったんだ。


「多分幹也くんは一生桐佳ちゃんに魔界人だってことは黙り通すと思ってたけど事態が事態だから、ね。ショックだった?。」


「ショックより驚きだよ。僕の知り合いにもハーフがいて羨ましがってたらまさか僕自身もだとわねぇ。こりゃお父さんにお話しだよ。」


「…あぁ~。追うように悪いんだけど、まだあるんだよ。」


「?。」


「どういうことでしょうか?。」


「実は…僕って僅かだけど竜族に近い血も入ってるんだ。」





絶句。現実から目を背けたくなる。このときは本気で拒否したかった、無理だけど。


肩に手を置いて宥めてくれる柳門寺さんのおかげで保てたけど…ちょっと唐突すぎるって、ツッコミきれない。


えと、話を纏めると僕は人間と魔界人のハーフかと思いきやもっと前のお爺ちゃんには竜族に近い獣の血が流れ込んでいた。


「クォーターってこと…。」


「最悪の血筋ですね。」


「…?、お爺ちゃん、確かお母さんは十割人間だったよ?。本人が言ってたし。」


お母さんって嘘は下手だからあれは嘘が一切含まれていない言葉だってことは分かる。


「うん、桜ちゃんはなにも嘘は言ってないよ。彼女は人間。獣の血は僕が改変して子どもには受け継がれるけど干渉させないようにする術式を作ったんだ。」


「……要するに…誤作動での暴走ってこと?。」


は、はは、笑えない。


「それが誤作動じゃないんだ。」


へ?、誤作動じゃないとしたら血が干渉したって言うの?。


「桐佳ちゃん、アルマくんとの試合の後、変わったこととかあった?。」


「突然だね。」


なんでアルマとの試合したことを知っているのか、とはもう訊かなかった。


「えと、身体中に力が入らなくて頭を動かすのがやっとだったよ。でもアクアの薬ですぐに回復しちゃった。これが僕が覚えてるアルマ戦の後の出来事だけど。」


僕がそう言うとお爺ちゃんは予想通りの表情を浮かべ柳門寺さんも納得の表情を浮かべた。


「成る程。獣の臭いは理事長の仕業でしたか。」


「風音さんがどうかしたの?。」


「実は私、先輩の曾爺様にアルマ先輩との試合を監視しろと言われまして潜伏していたのです。『桐佳ちゃんに違和感を感じたら周囲をよく見渡して。』と初対面の曾爺様に言われたときは正直頭おかしいなこの人と思いましたが。」


(…え、そんな風に思われてたんだ!?。)


「人には見えない光が如月先輩の体内に入ってくときに会場の入り口に人影が見えました。知覚スキルを一切遮断されたので認識出来ませんでしたが、あれは紛れもなく理事長です。」


「柳門寺さん元々お爺ちゃんと手組んでたんだ。え、待って、じゃあ風音さんが僕の中の獣の血を流させたってこと?。」


段々焦ってくる僕にお爺ちゃんが頷く。


「恐らくアクアちゃんも桐佳ちゃんの暴走に薄々気づいてたんだと思う。でなきゃ魔力強化した鎮静剤なんか作らないもの。」


あれ、鎮静剤だったんだ。重かった原因は筋肉痛や疲れじゃなかったんだね。


アクアはどこまで気を回せられるんだろうか。僕本人が気づいていない異変にまで気づいてるとは。


でもどうして風音さんは獣の血を流させたんだろう?。そもそも僕に獣の血が流れてることやお爺ちゃんの術式が組まれてることまで知ってたんだ?。僕でさえ今日知ったのに。…まさかお父さん…?。



「桐佳ちゃん。今どうして風音さんが獣の血を流させたとかなんの意味があるのか考えてたでしょ。」


「う、うん。」


いつもなく真剣な眼差しで問い掛けることにたじろぎながら頷く。


と、今度は困ったように微笑み右手で右目を塞ぐ。


「大丈夫、風音さんは悪意があって危険な獣、いや化物の血を流させた訳じゃない。彼女は桐佳ちゃんの可能性を求めて身を削りながらも化物の血を流させたんだ。言ってる意味、分かるわけないよね。」


「…化物の血ってなんなの?。風音さんは僕をどうしたいの?。お爺ちゃんなら全部…っ!?。」


『し』の口を作り発声しようとした瞬間、突然寒気が走り胸が圧迫され胃の中の異物が逆流しそうな症状に襲われる。


立っていられず口を押さえその場に膝をつく。


何度も咳き込みながらお爺ちゃんを見上げる。



驚愕。


外見は然ほど変わってはいない。右手で隠していた右目が生々しい血の色に変わっているくらい。


変わっているのは圧倒的な威圧感。


隣にいた柳門寺でさえ汗を垂らし震えている。



「これが化物の血、だよ。桐佳ちゃんに流れ始めた破壊の血。」


右目を元の色に戻した途端襲い掛かる衝動が治まり気が楽になる。


「はぁ、はぁ。…風音さん、やってくれたな。こんなんじゃリースの暴走の非じゃない、食い殺すケースだって有り兼ねない…。」


「有り兼ねないじゃないよ、確実に食い殺す。この血はそうだから。」


はぁ、はぁ…。その言い様だとお爺ちゃんも食い殺したことがあるってことね。


「しかも、大事な人から。」


「……。」


「まぁ、その人を食い殺してから大きく成長したけど。気分は最悪だったよ。」



……そんなに、遠い目をしないで。


「?。大丈夫大丈夫!、その為の僕じゃないか!。心配しないで。」


「僕は、大切な人を喰わなくても平気なの?。」


急に虚しくなった僕にお爺ちゃんがにっこり笑って僕の頭を優しく撫でてくれた。


久しぶりだ、この感覚。あったかくて優しくて、気分が落ち着く魔法みたいな手。




「だって風音さんは80年くらい前から僕に、この力を『護る』為に使ってほしいってずっと言ってきたんだもん。代々継がれる僕の家系にね。」






「………………80年前ぇ!?。」





◆◆◆◆◆





(今頃あの子が桐佳ちゃんに血の説明をしている筈だろう。)


実況室から離れ長い廊下を歩きながら煙草を吸うのは学園の理事長、風音。


(桐佳ちゃんには悪いことをしたが、早い内から手を打っておかなければ来訪者の対処に支障を来すからな。悪く思わんでくれ。)


(君はあの子と似て善を呼べば悪も呼ぶ困った人種だからな。国を護る武器を手に入れれば国を滅ぼしに来る敵も来るのは偶然か否か、ふふ。)


カツカツ靴の音を楽しみながら煙草の煙を口から吐き出し左手で舞う煙に円を描く。


すると白い泡が出現し煙の進行を妨げた。


(事を解決するのは我々大人の役目ではない、と雖も関わらないのは年長者だけだがな。)


(ベストセラーを飾る物語にチートや爺さん婆さんが解決しても愉しくはないだろう。若いぴちぴちの少年少女が熱い展開を繰り広げてくれなければ意味がない。)


(さて。)




「女の子とイチャイチャしますかっ!。」





◆◆◆◆◆





(所詮は只の獣人ねぇ、軌道が単調過ぎて笑えてくるわぁ。つか眠…。)


欠伸を一つし銅の剣の刀身で茶髪の獣人の男の拳を受け止める。


(…なんだこの人!?、片手で剣持って軽々防いで。基礎固めじゃなくて只の脳筋じゃ)


「残念ながら脳筋なんかじゃないわよ。」


「えっ!?。」


思考を見透かされたことに驚く相手。


そこに付け込むように私は握っていない右手を剣先の峰に手を添え剣を右斜めに傾ける。



するとどうだろう。相手の拳が剣先をなぞるように滑りやがて剣を離れ私の横を通る。


一瞬の不可思議な出来事はその後の動きにも支障を来す。今は思考を読み取られたことに動揺し拳を引く動作が遅れたんだ。


まぁ仕方ないわよね、思考を読み取られたんじゃあね。



「ま、その程度対処しきれなかったら、わたしには」


両手で柄を握り右足を一歩下げ右に一回転し刀身を縦に向け。



「勝てないわよーーっと。」



フルスイングで相手をホームラン。







『第二試合はアクア様が勝ち取りましたぁぁぁ!!。これで三回戦に進出だぁぁあぁぁ!!!!。つか虚界の女子強っ!、頑張れ男の子!!。』




〔続く〕



姫乃「なんだか出番少なかった気がするな。結構頑張った気がするのに。…脚本家の悪意が丸出しって感じですね。」


咲耶「まぁまぁ、あんま出番ない私と違うんだから気にしないの。ね?。」


姫「咲耶さん、なんだか如月先輩に似ましたね。」


咲「……止めて、…自覚してるから。」





桐佳「くしゅ。風音さんの悪意が見えるよ。」




次回『三回戦』

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