第十三話『剣VS犬』
三週間ぶりですねー。すみません、忙しくて忙しくて……うっ、吐血する。
と、とにかく十三話。戦闘はあまりないですよー。
あと題名は適当なので…。
『ダサッ!!。』
「ダサッ!?。結構いいと思うよ!?。」
語呂良かったし。
「漢字を変えただけでは?。」
「失礼な、漢字が違うだけで読み方はガラッと変わるよ。日本人の君ならわかるでしょ?。」
「」
首を捻り物凄く視線を逸らされる。
………………。
「君は僕の敵だっ!!。」
「理不尽ですよ!?。」
知らない知らない、僕は君を全力で倒すんだ。
弓を右手で握り左手に魔力で作った細長く青く光った矢を弓に掛け強く引く。
照準をつけ撃ち放つ!。
光の矢は風を切る速さで突き進み柳門寺さんへ飛ぶ。
「はっ!。」
当然、袈裟懸けで真っ二つ。光は形を無くし霧散する。
あの刀、魔力との相性が良く出来ているみたい。簡単に言っちゃえば魔力殺し、対魔力用武器。
あとは柳門寺さんの媒介方や剣術の腕が高いからだね。
柳門寺さんは刀を鞘に戻し、僕は再び魔力の矢を生成させる。
「先輩の、ネーミングセンスは兎も角、かなりの重みがありました。」
「うぐ…、それは単に柳門寺さんのキツキツの胸のせいじゃないかな?。」
「なっ!?、人が気にしていることを!?。」
僕も傷ついたからこれでお相子だよ、大人気ないけど。
やっぱり胸のことは気にしていたんだね…。
僕が胸元の武器を警戒したときに敏感に反応したもん。
『大丈夫だ姫乃ちゃん!。私は巨乳も大歓迎だ―がっ!!。』
目も見えなくさせても尚、口と鼻に小石を詰め込むとは恐ろしい娘だよ。
「せ、先輩。名前の件では申し訳ございませんでした。」
「いやいや、僕も気に障ること言ってごめんね。でも柳門寺は胸が大きいほうが可愛いと思――うわぁっ!?。」
嫌な気配を感じ右にステップをすると高速で突きを繰り出してきた柳門寺さんが隣を通った。
あ、危なかった。あの高さは間違えなく首元の高さ、殺す気だったの!?。
後ろに跳び距離を離し彼女の顔を見る。あちゃー、真っ赤。口走ったねぇ。
って考えに浸ってる暇はない!。次が来る!。
距離をとりながら生成した光を複数放つ、が弾かれることなくすべて柔軟性を活かした滑らかな動きによって回避され間合いを詰められる。
一足一刀の間合いまで詰められ右足を前に出し左から内側で薙ぐ。
高速展開でのタンピン二翻(障壁)で受け止めるも、障壁を予測していたか軽やかな足取りで体勢を変え先程の重い突きを突き出してきた。
ぐっ…、一撃、二撃、三撃!?。高速三段突きじゃ障壁は
――割れる。当たり前だね。
障壁が粒子へ変わり僕を守る盾は破壊された。
当然相手が見逃すはずなく重心をを掛けた右回転の逆袈裟懸けを振るってくる。
「でも僕だって!。」
断矢九を手放し光の棒を生成し構え叫ぶ。
「スキル!。一盃口、タンピン、三色!!。」
形はいいよね、断矢九のときと同じ。
今回は牌出現しないで腕辺りが青く光るだけ。でもこれでいいの。
強く光を握り袈裟で逆袈裟懸けの柳門寺さんの刀へ斬り上げを打ち返した!!。
光や摩擦が擦れ合う度に発光する。
(!?、なぜ切れない!?。)
しばらくの鍔迫り合いで柳門寺さんがあることに不安を抱き焦燥感が生じる。
そのことに僕はにやつき光に込める力をさらに強くし
「やればできるんだよっ!!。」
柳門寺さんを後ろに飛ばすほど刀を弾いた。
よし、練習した甲斐があった!。
◆◆◆◆◆
「…なるほど、武器の属性を丸々変えたってわけね。」
「武器の属性を…ですか?。なんのためになんでしょうか。」
「分からないかしら?。相手の刀は魔術相性がずば抜けてまではいかないけど良い、まず魔術は基本的に打ち勝つわ。リースの狼牙でさえ両断、運がよくて九割一分の結果。強度魔術を詰んだ私の紅槍も耐えて三発。完全に魔術師狩りに特化したスタイルだわ。質悪っ。」
「あ、あはは。」
「そこであいつは新役で『一盃口』を発動させた。」
口元に指を当てて思い出したように顔を上げるリースにアクアは気怠そうな目をしながらも笑っていた。
「いーぺーこーってなんなんですか?。」
「数牌を適当に三つ階段状の順子の形にして同種の順子を二組作れば出来る一翻の役のことよ。術式のほうは恐らく『属性変化』。しかも特殊なタイプで。リース、常識だけれど属性変化は知ってるわよね。」
「はい。自分の属性を八属性の内の属性から適応しているのに変えるんですよね。私は使えませんが。」
「そうよ。魔術師タイプなら基本魔術の一つだわ。」
「アクアさんが仰った特殊なタイプとはどういった特殊なんですか?。」
そうねぇ、と軽く首を捻ったアクアは左手を挙げ手のひらを上に向け、浮かせるように水の玉を生成させ握る。
「今あなたが説明してくれたように実際の属性変化は魔術八属性の中での話しじゃない?。」
次に銅の剣を空間から引き寄せ両手で持つ。
「それをあいつは魔術属性を物理属性、言わば武器に変えたのよ。今まで誰も試行し成功したことがないことを意図も容易くね。」
「え?、へ?。魔術を武器に?。水を剣に変える?。むむむ…?。」
「要はうめぇ棒をウインナーに変えるってこと。」
「へ!?、凄いじゃないですか!!。」
(意味不明な例示で通るもんなのねこの娘は。)
「相手の刀は魔術殺し、だから魔術属性を一切なくしたってわけ。器用っていうか主人公属性っていうか、人間って恐いわねぇ。」
「ですねぇ。」
◆◆◆◆◆
光を粒子化させ霧散。
「原理はよく把握出来てませんが、流石です。」
立ち上がり刀を鞘に納める柳門寺さん。
「君の剣筋も中々だよ。」
「ありがとうございます。しかし我が小太刀二刀流、こんなことでは刃は止まりません。」
「へぇ、小太刀二刀流ね。………ん、こ、小太刀二刀流ぅ!?。」
平然と頷き胸元から丸いアイテムを取り出し魔力を通すと鞘に納めてある刀の半分の長さの刀が姿を現した。
青の柄に赤のヒモが吊るされ刃は銀に光る鉄製。
バトンを縦横無尽に回転させるように振り回し〝パシッ〟と掴むときに剣先を僕に向けてきた。
…こ、小太刀二刀流って…。殺しの流派じゃないか!?。
◆◆◆◆◆
「よりによって小太刀二刀流とはねぇ。死ぬわね如月。」
「キッパリ言わないで下さいよ!?。」
「大会で死人は出さない方針だけど、まさかまだ継承者が居たとはねぇ。」
『継承者』の言葉に首を傾げ説明を要求したリース。
アクアは試合が始まってから初めてリースの目を見る。
「剣技の流派は三界で人界、日の本、日本の武士だけが習得できる特有のスキルで刀や体術を使ったものなの。流派には『護る』流派、『倒す』流派、『殺す』流派の大きく三つに分けられて各家系で代々受け継がれていく。けれど三界全面戦争の時代には多くの流派継承者が前線で猛威を振るい多くが犠牲になったみたいで今じゃ日本には極一部しか存在しない希少種となった。特に、殺しの流派が激減してもう存在しないと言われてたんだけど…。紛れ込んでるわよねーやっぱり。しかも小太刀二刀流。型は多分『花鳥風月』ね。」
「えと、度々申し訳ありませんが小太刀二刀流と花鳥風月の説明をお願い出来ませんか?。」
「いいわよ。まずは小太刀二刀流。小太刀二刀流は名の通り小太刀を使った二刀流の型、主に隙を出さない追撃を繰り返し流れを掴まされなくする完全に私メタの流派ね。殺しの流派の中ではマイナーの部類みたく、それ故に名が知られてるわ。確か多人数でも目を合わせないほうが無難と言われてたわね。」
その説明に思わず息を呑むリースは胸に手を当て桐佳を見る。
「で、花鳥風月は」
アクアが花鳥風月の説明を切り出そうした、矢先。
「花鳥風月は咲耶の家系の流派だよ。」
桐佳が割って入ってきた。
◆◆◆◆◆
「正確に言えば水城、桐条、日乃、稲葉の四つの家系だけが継承している速さの型、だよね。」
特に驚きもせず頷く柳門寺さんに僕は軽く笑い話を続ける。
「暗殺術も幾つかあって自ら力に恐れ型を捨てていった継承者が数多く。そして四家系という数まで減った本当に危険な型……なんだけど、どうして君が関係ない型まで熟練しているかだよ。やっぱり咲耶?。」
「はい。水城先輩はわたしの憧れであり果て、ですから。」
「果て?。」
「目標と言ったほうがいいでしょうか。」
なるほどね。師弟関係なら目標にするのは当然のことか。それに彼女は咲耶となにか深い関係がありそうだ。
「水城先輩、いえ、咲耶先輩は花鳥風月を殺しの型ではないことを教えて下さいました。暗殺の流派に恐れていたわたしを救って本当の剣技を、在り方を示してくれた。」
遠い目をして僕を見てくる彼女の目は、どこか優しそうに見えた。
「じゃあ安心していいのかな?。」
「ふふ、それは先輩次第ですよ。」
ですよね。咲耶が教えたって言っても相手は小太刀二刀流の花鳥風月の型、下手をしたら死ぬ可能性だって。
「あ、やっぱ多少殺します。」
とかなんとか言ってると爆発発言。
「って言っちゃったよ!?。ていうかやっぱ!?、やっぱってなに!?。花鳥風月が殺しの型じゃないって言った話しはどこにいったの!?。」
「え?、へ?、じゃあ程好く殺します?。」
「ニュアンスが変わってないよ!?。」
「とは言いますが、長年染み付かせていたので制御が難しい状況も出るやもしれないので悪しからず。いざとなれば」
「い、いざとなれば…?。」
難しい表情をし腕を組み。
「………どうしましょう?。」
……うん。君が天然ってことは十分に分かった。
だから僕は服の内側から飛針を各三本ずつ抜き投げる。
「っと、不意打ちですか。」
案の定飛針は居合いにより落とされる。
「卑怯だと思う?。」
「いえ、他の型を所持している私がいますので。」
「君は優しい、ね!。」
右拳を固め右に振る。すると打ち落とされた飛針が集まり30センチほどの短刀に姿を変え柳門寺さんの背後から足を目掛けて飛ぶ。
音もなし、見られてないとすれば気づかれないのが普通、避けれない。
けど、柳門寺さんは小刀を回し地面に突き刺し短刀を弾いた。…嘘でしょ。
「あなたほどではありませんよ。わたしの優しさは戦闘とは別物ですから。」
靡く髪の隙間から映る瞳の色は気がつけば黄色から白に変わっていた。あれは、花鳥風月の起動コマンド!。もう仕掛けてくるか、少し早すぎないかな?。
「でも、上等!!。」
体勢を変え空間から剣を引き抜こうとした。
「っ!?。」
直前で中断し予め背中に掛けていた中剣を引き抜き剣先の峰を持ち前方に剣を向ける。
アルマ戦のときと同じ、先読み。花鳥風月は甘くない、殺ろうとすれば三秒も掛からず首を取れる速さの型だ。
故に身を挺し戦うのではなく守りをとった。
現に今、中剣『柴剣』に刀と小刀を降り下ろしてきた柳門寺さんが視界に映った。
(…っぐ、重…。)
踏ん張る両足の地面が抉れそうになるけど負けてられない。柴剣に魔力を流し込み滑りやすくさせ後ろへ弾く。
「はあっ!。」
両手で柄を持ち左回転で左に薙ぐ。
体勢を崩した場合多少のロスがあるはずなんだけど、彼女は迷わず鞘を盾に斬撃を防いだ。
鍔迫り合いは起こらず柳門寺さんの蹴りにより柴剣が大きく弾かれ仰け反る。
鞘を腰に掛け刀を鞘に納め柄を握り。
「一刀居合い、抜刀術。」
地面を強く蹴り出すと共に刀を抜か……ない?。フェイク?。
「っぷ…。」
違う、もう抜いたんだ。上半身に激痛が走ってる。
少量の血を吐き後退り膝をつく。
「名を、如月先輩を機に『八咫烏』としましょう。」
「ゴホッ!、僕を機にって意味がわからないんだけど!?。」
「色黒?。」
「服の色でしょうが!!。」
この娘真面目にやってるのか時々疑いたくなるよ……。
◆◆◆◆◆
~オルフェ~
「どうぞ、お茶です…って、あ。そういえば桐佳に姫乃のこと言うの忘れてた。」
「?、桐佳ちゃんがどうかしたの?。」
「え?、はい。今日翠碧で大会があるんですけど、友達に私の弟子の情報を伝え忘れたんですよ。」
テーブルに座っている男が美味しそうにお茶を飲み一息ついたところで再び咲耶を見上げる。
「そっか、今日って大会だったんだね、完全に忘れてたよ~。でもいくら友達だからって相手の情報を流すのは卑怯だと思うよ。」
「あはは…、違いますよ、伝えたいのは戦闘面じゃなくて性格です。」
性格?と首を捻る男に咲耶は話を続ける。
「その娘、小太刀二刀流の家系なんですけど、日本武士みたいに堅いんですよ。照れると表情より手が出るみたいな感じで。」
「あらら、それは生真面目そうだ。流派持ちの家系は規則が厳しいしね。」
「まぁ…、でも~。」
苦笑いで頬を掻き視線を落とす咲耶に男はすぐに察し同じように苦笑いを浮かべる。
「なるほどね。天然さんなんだ。」
「恥ずかしながら仰る通りで。あの娘の馬鹿さは天下一品、ボケの塊と代名詞に置き換えれるほど酷いですよ。ツッコミ役が必ず途中で挫折することで有名だったりもしてですねぇ。」
困った困った、両手を挙げてお手上げをする咲耶。この様子だと本気で悩んでいるのだろう、男は微笑ましそうに口元を緩めお茶を一啜り。
「なら大丈夫だよ。桐佳ちゃんは優しいから全部隙なくツッコミを入れるはずだから。」
「はは、それもそうですね。あんなにツッコミを入れてたらいつか禿げちゃうかもしれないなぁ。」
「桜ちゃんの血を引いてるからまず禿げることはないよー。女の子より女の子っぽい容姿の持ち主だしね。」
「確かに。……というか、桐佳が成長したらどんなのになるんだろ?。普通に男っぽくなったりして!。」
(残念ながらならないんです……。)
「っと、呼び出しだ。ではごゆっくりどうぞ、桐佳に詳しいお客様。」
手を振り去る咲耶の背中を手を振り返す男はその手をあごに当て笑う。
「…そっか、もう組み込んだんだ、風音さん。」
◆◆◆◆◆
状況は誰が見ても桐佳が劣勢、魔術殺しの刀の対策で一盃口を使い武器から魔術属性を抜いても結局小太刀二刀流の前では無力。刀を受け止めても立て続けに小刀が桐佳を襲うのだ。
見れば小刀にも特別な術式が組み込まれていてこちらは武器属性に有利になる仕組みが施されている。
要するに桐佳はどちらの対策をとっても一歩先の裏をとられ足を掬われる、じゃんけんで必ず相手が後出しをしてくるかのように。
小太刀二刀流は何度も言ったが殺しの流派。速さで相手を翻弄、選択肢をなくし殺す。流派内ではかなり嫌われていたと噂をされていたらしい。
大会が戦争と同じ条件だった場合、桐佳は既に何度姫乃の刀の錆になっていただろうか。一桁ではないと桐佳本人も気づいている。
殺さずに損傷止まりにすることについては偶然に近い。よく殺さずにいる、と姫乃は無意識に思っているに違いない。
しかし、考えてみれば殺さずにいることは必然の出来事だ。『抑止力』によって。
『抑止力』、『花鳥風月』のことだ。
花鳥風月の一般な概要は『速さ』。流派に組めば己の流派に加え速さが高まる。殺しの流派ならば殺しができ尚且つ速く殺せるという愉悦感に浸れる。これが後に恐れられた型。
が、唯一のイレギュラーが花鳥風月を習得した。
それが水城 咲耶。
当時七歳、家系の流派を物にした彼女はうっかり水城家に花鳥風月の型が存在することに気づき『速さ』しか聞かず独断で7年間かけて花鳥風月を会得した。
結果、彼女の花鳥風月は殺し用の速さではなく技に更に磨きを掛ける為に使われる速さに生まれ変わった。
新の花鳥風月、名を『雷鳥風月』と。
当然流派や型の持ち主は驚愕、恐れを抱き名を挙げる他なかった。
二週間せずとも世界中に雷鳥風月の所有者である咲耶の名は響き渡った。
一方咲耶は『そんな凄いこと?。』とそのときは呑気に首を傾げていたという。
そしてある日、咲耶の元に弟子入りしてきた少女が現れた。当然姫乃。
受験生の咲耶に対して姫乃は14の子供。当初は流派への恐怖心を抱いて殺しの型を殺さない型へ変えた咲耶に憧れ弟子入りした。
咲耶は得意のポジティブシンキングで姫乃に様々な生の戦い方を教えていった。
徐々に加減を覚えていく姫乃に咲耶は抑止力として雷鳥風月ではなく敢えて花鳥風月を口授させた。
理由は咲耶のようにベースは花鳥風月だが自分流にアレンジさせる為だったと本人は述べている。
口授されたときは酷く混乱し挫折しかねた姫乃だったが、一年の短い時間で自分流の花鳥風月を生み出したのだ。
それが火力を速さに媒介する方法だった。
苦難の末、姫乃の花鳥風月は人を殺さない型になったのだ。
「響き渡る振動は、雨音に揺れる波紋のよう。」
小刀を納め左手で手刀を作り桐佳の右肩にめり込ませる。その際に骨が鈍く鳴ったのは骨にヒビが入ったのだろう。
苦痛の表情を浮かべ後ろに跳び距離を空ける桐佳の右肩は酷く垂れ下がっていた。
「神経の麻痺。…これはきたよ。」
(人の神経を通しやすい箇所を一切のずれなしで捉えてくるなんてね、流石は咲耶の弟子だけはある。)
「けど、僕にはまだ左腕がある!。」
空間から柴剣より少し小さな赤色の剣を取り出し柄を持ち右に回しながら柴剣の柄頭の差し込み口に差し込む。
すると赤の剣が呼応し一瞬だけ発光し高い金切り音が会場内に鳴り響いた。
『ハウリング』。アルマ・カイウスが以前桐佳やリースたちの動きを一時拘束した反則級スキル。この金切り音はそれに近い。
会場内の観客や勿論、姫乃も耳を押さえるほど。
「っ……!。」
「もらった!。」
刀を落としてまで耳を塞ぐ行為は圧倒的に失敗、桐佳には絶好のチャンスとなった。
地を蹴りだし姫乃までね間合いを一気に詰め逆袈裟懸けで柴剣を振るう。
回避方法がない姫乃は斬撃を食らい後ろに転げる。
「かはっ…。…先輩、何故峰で斬撃を振るったの、ですか。…非殺傷設定ならば刃で攻撃しても死にはしないはずなのに。」
「うーん。敢えて言うなら僕の性格の問題かな?。」
「ば、馬鹿ですか!。」
「君には言われたくないっ!!。」
左手を右手に添えてディア。柴剣を回復した右手に持ち換え刀に剣先を向け麻雀箱に一~三筒を組む。
一~三筒は反射神経を高める形。この先の状況に対して安心して行動できる為の保険として組み込んだ。
そう、桐佳は自分が優勢であることは目もくれず姫乃がなにかを仕掛けてくることだけに集中しているのだ。言葉にしなくても感じ取れる気のようなものを。
小刀を取り出し立ち上がる姫乃に警戒を更に強める。
「さぁ、どうする?。これで終わりじゃないよね。」
「無理ですね、小太刀では太刀打ち出来ませんし。」
「うんうん、そうじゃなきゃ。小太刀二刀流の強さは…って、は?。」
……………。突然の返答に目を大きく見開きし口を開くのは桐佳だけではない。会場内の観客や実況の斉賀、私も。
「はぁ!?。無理って!?。」
先程斬られ苦い表情を浮かべていた姫乃はまるで嘘かのように穏やかな雰囲気で立ち上がりお手上げのポーズをとる。
隙を突く演技ではない、そもそも彼女に迫真の演技が出来ないことは誰でもわかりきっている。
だからこその姫乃の対応には皆面食らった。
「要は棄権ってことですよ。」
「ちょ、対処方はないの!?。」
「それは殺しは有りでの話しですか?。」
「っ…。」
彼女は制限を掛けることにより相手を殺さずに戦いを行えた。しかし制限を掛ける道具がなくなった今、殺す他勝てる術がないのだろう。
「先輩には申し訳ありませんが未熟な私を恨んでください。」
「別に…恨んでなんかないよ。むしろ怪我がなく試合を終えられて良かったよ。」
「ふふ、やっぱり先輩は面白いですね。」
『試合終ぅぅ了ぉぉぉっ!!!!。ポニテを掛けた試合は見事、如月選手の勝利で幕を閉じましたぁ!!。』
◆◆◆◆◆
試合終了後、僕は柳門寺さんに呼ばれ人気がない野原に連れてこられた。
「えっと、どうしたの?。」
「気分はどうですか?。」
「ど、どういうこと?。」
「飽くまでしらを切るんですね。」
溜め息をつかれてポケットの中に入っていたブロックを投げてくる。それを片手でキャッチした。
「っぁ!?。」
が、体に激痛が走りブロックを落としその場に膝をついてしまった。
「んなやらしぃ声上げて平気な訳ないですよね。あのまま試合を続けてたらどうなってたんですか。」
「なっ、気づいてるならどうして棄権なんかしたの!。」
「退学。されては困りますから。」
「!?。」
なんで柳門寺さんがそのことを知っている。知っているのは僕と風音さんとリースだけのはず。
立ち上がりブロックを震えた手で返す。
「聴力強化、殺人鬼なら覚える基礎スキル。先輩たちの話を不意に耳にしまして。」
「そっか。…同情されちゃったんだね。」
肩を落として溜め息を一つ。悲しくならないのは神経が麻痺してるからかな。
「同情なんかじゃないですよ。わたしが棄権した理由は如月先輩の身の危険ではなくて、『わたしの身の危険』なんです。」
柳門寺さんの、身の危険…?。
失礼しますと僕の手を握ってくる柳門寺さん。下唇を噛み痛みに耐える僕。
「この現象はいつから?。」
「ん…。り、柳門寺さんと斬り合ってる…ときかな?。急に体が火照るように熱くなって…んぅ!。」
「……やはり、あの人の仰る通りでしたか。」
口元に手を当てて考える仕草をし手を離してくれた。
荒い息を整えながら柳門寺さんが小さく言った言葉の意味を考える。
あの人の仰る通り。この様子だと僕の状態には元々気づいていて柳門寺さんに手を回していたことになる?。
そんな、僕だって気づいたのは今日が初めてだっていうのに。
「…柳門寺さん、その『あの人』って僕がよく知る人なの?。」
「?。勿論、先輩がよく知る方だと聞きました……ん?。」
と、なにかに気づいたように僕の背後に目を移した。?。
僕も釣られて後ろを振り返る。と、そこに立っていたのは。
「や、桐佳ちゃん。こうして逢うのは六年ぶりかな?。」
「お、お爺ちゃん!?。」
僕がよく知る、若々しい青年姿をしたお爺ちゃんだった。
~東一局~
『東』リース 『南』桐佳 『西』咲耶 『北』アクア
賽の目4・3
所持点各25000点
《一巡目》
桐(…普通だね。筒子が少ないけどこの手なら簡単に三色が作れる。)
咲(相変わらず遅い手だねぇ。流局で張れるか否、か。)
ア(まずは様子見、親のリースがなにを仕掛けてくるかによって動きを変えるか。…初めて知ったけど彼女、麻雀出来るのよね。一盃口を知らないだけだったなんて一本やられたわ。)
桐(アクアの表情、多分様子見だ。)
咲(無難だね。でも、リースちゃんって一体どんな打ち回し――)
リ「リーチ。」カラッ
『東』トッ
『…………は?。』
リース以外首45度回転。桐佳汗だく、エロい。
桐(ちょちょちょちょっと待って。一局目でいきなりダブル立直!?。流れもへったくれもない状況で思わぬ先鋒兵、特攻隊!。いきなり自分の流れを鷲掴みにするつもりなのか、リース!?。)
ア(これは予想外だわ。竜人の速さは侮れないと言うけどまさかここまでとは。安牌がない今、他のプレイヤーと協力しないと高確率で振り込む。)
咲(最初は桐佳。要するに桐佳の存在が私たちにとっての救い。頼んだよ桐佳。)
桐(…そうだ。僕が出来ることは安牌を切り出し安手で上がるということ。これは一人でじゃない、みんなで戦うんだ。)
桐(そうと決まればなにを出す?。一見13から一つを選び回避することは簡単だ。だって1/13の確率なのだから。)
桐(しかし東しか安牌がない今では、手の負いようがない。僕の手牌の中には東がある。これで四風連打を狙うのもありだ。可能性はゼロではないけど持ってるかもしれない。)
桐(いやダメだ。そうしたら僕の後の人たちが危険になってしまう、それだけはしたくない。せめて一発は避けなければ厳しいだろう。)
桐(だとすれば……これだ!。)
『九索』トッ
リ「…………。」
桐(通った!。)
咲(流石桐佳、良いとこ出すね!。)
『九索』トッ
ア(驚きね。私もだわ。)
『九索』トッ
桐(よし!。みんな持っててくれた。これで一発の放銃は――)
リ「ツモ。」ダンッ!!
『は?。』
リ「ダブリー断幺九平和一発ツモ三色ドラ1、倍満、8000オールです!。」
『』
僅かこの出来事、二巡。
次回『目覚め』