第十話『必殺技』
必殺技と言ったらやはりキックでしょうか光線でしょうか。はたまたライフル?。
私的にはシェル〇リットが好きです。
てなことで十話、開幕です!。
昨日、如月とリースから何十件ものメールが届いた。合計で108件。
内容は来週に開催される大会のチームに加わってくれ、と。
確かに三人でのチームなら最後のメンバー探しってとこかしら。
こんな何十件も送ってきて、また風音さんから厄介事を頼まれたか。
まったく、あの子たちと関わると休む暇がないわね。
呆れるように一息つき呆れるように口元を吊り上げる。
そうね。この感情、楽しいんだ。これまで一度も体験したことないことばかりをあの子たちと一緒にやってきてすごい充実してる。
あの子たちとならどこまでもバカなことができそうな気がするわ。
メール送信画面を少し見つめて送信が完了したと同時に携帯を閉じた。
「ふふ、私も毒されたかしら。」
◆◆◆◆◆
「刀牙!。」
「ぶっ!?。」
手加減をしたつもりで放った拳は軽々桐佳さんの障壁を破り柔らかい頬を殴っていた。
3口のまま顔を地面に打ちつけてそのままずれてやがて静止する。そしてピクリと動かなくなってしまった。って
「桐佳さんが死んでしまいましたっ!?。だ、大丈夫ですか!?。返事をして下さい!。」
駆け寄り抱き抱えて揺さぶるけど目を回して気を失っている。いやぁぁ!?。
取り返しのつかないことをしてしまいましたー!?。
「リース!!。」
「はいっ!?。」
私たちから少し離れた場所のアクアさんの怒号に驚く。あわわ…。
腕を組んで静かに立ってるけど明らかに怒ってる。髪で隠れてちらちら見える右目が光ってて恐いですよ~。
「あなた、手加減したでしょ?。」
「う…はい~…。」
桐佳さんを近くの木の下で私の膝枕で寝かせて私たちは休憩。
溜め息をつくアクアさんに私は申し訳なく耳を垂らす。
「あなたのその優しさ、どうにかならないかしらね。それともまだ自分の拳が恐い?。」
「いえ、拳は恐くないんですが、やはり傷つけることに抵抗があって…。」
今も眠っている桐佳さんに目を落とす。
この人も私が傷つけてしまった。しかも二度も。
なるべく傷つけないようにしても竜人という種族、姫竜という血族になってしまった私では弱い攻撃でも傷つけてしまう。
「なによ。殺しさえしなければ回復魔術でいくらでも癒すことができるじゃない。」
「肉体的問題は、じゃないですか。でも死ぬ寸前まで傷つけられた、死ぬ思いをしたという精神的被害は受けます。心の傷は癒えることはなかなかありません…。」
「はぁ!?。あんたなにか勘違いしてない?。」
「ひぅ…。勘違…い?。」
すると勢いよく人差し指を私に突き出してくる。
「ここの生徒は元々死を覚悟してこの虚界に来てるのよ。あなたもそうなんでしょ?。王族を継ぐために、強くなりたいがために来たんでしょ?。」
……そうだ。私は他界した両親の残した王族を守るために虚界に来たんだ。
桐佳さんやアクアさんを傷つけたあの日から目的を見失っていた。
「同じ条件で戦ってる相手に同情するなんて、ある意味侮辱よ。」
「…………。」
黙り込む私に困ったように微笑むアクアさんは桐佳さんの頬に思いきりビンタを打ち込んだ。
「ぶれらばっ!?。」
は?。
「あ、アクアさんなにしてるんですかっ!?。」
「なにって、ビンタよ。」
「一目瞭然、まるわかりですよ!?。」
急いで腫れ上がった頬に用意していた氷袋を当てる。
赤くなった手を息を吐きかけるアクアさんは目を細めながらもう片方の手で紅槍を展開し桐佳さんに向け頭の上の芝生に突き刺した。
「まぁ、この馬鹿の場合ならどんな怪我をしても、最悪死んでも許してくれるんじゃないかしら。わざわざ寝たふりで盗み聞きしてる野郎だもの。ねぇ、如月。」
「え?。」
私が目を落とすと明らかに桐佳さんは動揺の色を見していた。加えて震えてる。
「…アクア。僕はどこまでミンチにされようが笑顔で許すから今は許してください。」
「ならミンチにするわ。」
―――――
「うんうん。リースは勝つために戦うんじゃなくて守るために勝つ、そう考えるのが一番だよ。力を弱めることは良いことでもないし悪いことでもない。でも極力避けたほうがいい、自分のためにならないしね。僕と今まで戦った人たちは手加減してくれたけど、手加減されてるってね、結構精神的にもくるんだよ。自分の実力が無いって現実に襲われたり本気で戦えない相手の申し訳なさとかがね。僕は無理にでもリースを戦わせたくはないけど、戦っても強くなれない人たちのこと少し考えてあげてね。君は戦えるんだから。…なんだか卑怯なこと言ってごめんね。僕なりに言葉は選んだつもりなんだけどちょっと頭に血が昇りすぎて思考回路がぐちゃぐちゃになってるのぉぉぉ!!!!。ひぃっ!、もういいでしょアクア!、そろそろ逆さずり解放してぇ!!。」
長話をしちゃったけど僕は今ずっと足をロープで吊るされて逆さずり状態にさせられています。
原因はさっきのことでです。
頭に血が昇りすぎちゃってもう意識が朦朧としてきた。うぐぅ…。
僕の話しにリースは強く頷く。
「はい。ようやく目的を思い出しました。私は戦って勝たなければいけない。それが人のため、桐佳さんやアクアさんのためになるから。だから強くなります!。ですから早く桐佳さんを下ろしてあげて下さい!?、もう限界ですって!!。」
「仕方ないわね、よっと。」
展開した小型のナイフを投げ結ばれてるロープを切り落とす。
落ちる僕をリースが受け止めてくれた。
「げほっ!げほっ!。…おぇ、あ、頭が痛い。」
「次第に慣れるわよ。」
アクアに渡された水を一気に飲み氷で頭を冷やす。
大丈夫ですか?と泣きそうなリースを安心させるように無理をして笑う。実際は死にそうだけどここは我慢、根性見せろ僕。
「にしても如月、あなた少し弱すぎじゃないかしら?。」
「逆さずりに関しては体の強い人でも無理だと思うよっ!?。」
「馬鹿、違うわよ。戦闘面で。」
な、なるほど。
「竜人だとはいえ相当手加減された一撃を守りきれず、しかも一撃で沈むなんて。三元牌はセットしたのでしょ?。」
「うん、中も白もセットして平和、三色の三翻の障壁を張ったよ。」
僕ができる最大のことをやったつもりなんだけどなぁ。どうにも力が出なかった気がする。
するとハッとアクアが顔を上げる。
「…まさか、男相手じゃなきゃ力が出せないとか…。」
「やめてくれます!?、変な設定追加しないで!。」
嘘よと腕を組んで言うけど真顔で言わないでよ…。
「じゃあどうしてアルマ先輩との試合は機敏に動けてたのよ。」
「あのときは僕の人生がかかってたからね、必死だったんだと思うよ。」
「だとすると今のが本来の如月の強さ…。」
アゴに手を添えて何秒か唸りやがて口を開く。
「よっわっ。」
うわぁ、一界のお姫様直々にダメ出し食らっちゃったよ。
まぁわかりきってる答えだから仕方ないんだけど、面と向かって言われると深く傷つくわぁ…。
自分でもアルマ戦のときみたく戦いたいんだけど、どうも体が言うことを聞かなくてね。
頭でいっぱい考えてるんだけどあのときの試合を覚えていないんだ。ちょうどそこだけ記憶を抜かれたように。
必死だったのかボケたのか。どっちにしろ覚えてないものは覚えてない。
「あ、あのアクアさんたち。一ついいですか?。」
今まで黙っていたリースが手を挙げながら口を開く。
「なにかしら?。」
「桐佳さんが弱体化したのはわかりませんが障壁が壊されたのは仕方がないと思います。」
「というと?。」
「私が放った『刀牙』は障壁や防御強化を無視することができるんです。」
「へぇ、どうりで。」
ぶれるように感じたのはそれが原因か。納得納得。
あれ?、傷つけるのが嫌だったのに貫通技を打ってきた。これって矛盾……いや、ただの天然か。
それにしても、リースって接近戦の技が多いね、羨ましいよ…。
「あ、そうだ!。必殺技だ!。」
―――――
「技…ですか?。」
「そ、僕って身体能力や戦闘能力とか圧倒的に弱いでしょ?。だからスキルで賄おうって考えたんだ。」
「へぇ、いいんじゃないかしら。大会では中々の強豪たちが揃ってるって聞いたわ。むしろ魔術やスキルに磨きをかけなければまず勝ち目はないと考えたほうがいい。」
「私もそれには賛成です。」
よかった。二人には僕の提案に賛同してくれた。
「でも、桐佳さんに合ったスキルって何があるのでしょうか?。」
アクアが作ったお弁当のウインナーを食べるリースが首を捻る。
「そもそも所持スキルをいくつ持ってるのよ。」
所持スキル…。
「えっと。ディアに砲拳に暗器に平和、タンヤオ、一盃口、三色。って後三つはまだ知らないけどこんなもんかな。」
「少なっ!?、馬鹿じゃないの!?。」
「いくらなんでも少なすぎですよ!。」
えぇ…、びっくり。リースにも怒られた。
そんなに少ないかな。七つなんてゲームだったら十分な数だと思うんだけど。
「しかもよくよく考えたらあんた、リースの技と麻雀がなかったら実質一つしか魔術持ってないじゃないの!?。」
胸ぐらを両手で掴まれる。わわ、顔が近いよ。
「だって僕この世界に来た理由も風音さんのせいだし、戦闘も況してや魔術なんて皆無なんだよ?。言い訳臭いけど納得してくれません?。」
「………………。」
はぁ~と長い溜め息をつかれ手を解く。
「溜め息ばっかついてると幸せが逃げちゃうよ?。」
「誰のせいだと思ってんのよ!!。」
すいません、調子こきました。
「はは、なんだか楽しそうだね。」
後ろから声がかかり僕たちは後ろを向く。
声の主は咲耶、なぜかバイトでのメイド服。バイトの休憩時間かな。
「別に楽しくなんかないですよ。」
「ちょっと困りごとがあってね。」
「困りごと?。」
―――――
「シュート!!。」
手のひらを前に向け詠唱。宙に浮いていた一本のナイフが縦横無尽に飛び石の上に置いていた空き缶に突き刺さる。
宙に舞う空き缶に僕は素早く手を翳し、振り下ろす。
「断ち切れ!。」
発生条件のスペルを発声すると空間から小さい斧が姿を現し、まるで誰かが振るうかのように空き缶を両断した。
役目を果たしたナイフと斧は金の粒子となり霧散する。
「さすがは桐佳、物覚えが早くて感心するよ。」
遠くで見ていた咲耶が微笑みながら歩いてくる。
「咲耶の教えがよかったからだよ。」
「ううん、それは紛れもない桐佳の実力。」
「そう、なのかな。」
手を閉じて開いてみるけど自分が優れているかどうかなんてわからないな。
「すごいですよ桐佳さん!。ウェポンスキルを軽々習得するなんて。」
目を輝かせてるリースに僕は?顔。
「ウェポンスキルって難しいの?。」
今度はアクアが紅槍を展開させる。
「えぇ。ウェポンスキルを使えるとしたら普通は武器を召喚するだけで自在には動かせない。動かせたとしても軌道を少し曲げる程度。正直気持ち悪いわ。」
「でも桐佳は変態軌道や事象地を変えることをものの二十分で物にした。これはもう革命的出来事だよ。」
…褒められてるのか貶されてるのか。
僕からしては機械をよくいじってたから精密な動作はお手のもの、事象地を変えるくらいは簡単だよ。
「咲耶は僕がこういうのが得意だから教えてくれたの?。」
「うん、からくりが似てるって思ってもしかしたらって教えたんだよ。」
まさかできるとはね~と笑う咲耶。
「ですけど属性魔術は覚えませんよね。」
『』
「…あ、あれ?、皆さんどうかしましたか?。」
口を引き付けながら苦笑いをする僕と咲耶、アクアは紅槍を空間に納めて腕を組む。
「いえ、実にあなたらしいと思ってね。如月、そんなあなたにグッドニュースよ。」
「グッドニュース?。」
「大会までにあなたの魔術タイプを変えてあげるわ。」
―――――
「よくきたな少年少女、…いや、美少年美少女よ!。」
隙間なく座る観客席を囲う第一アリーナ。そこの中心で風音さんがマイクを通して会場に開会宣言。
生徒たちはまだかまだかと自身を静かに奮い立たせている。
ちなみに僕たち出場者はフィールドに立ってチームごとに一列で並んでいる。前からアクア、僕、リースの順番でね。
二年生の列には咲耶とアルマがいて僕たちに手を振っていた。
三年生の列を見るとイルさんが……寝てる?。
「私はこの日をどれほど待ちわびたことか。一年間美少女たちとイチャイチャして時間を潰していなかったら私はきっと暇死にしていただろう。」
『俺らの女をとるんじゃねぇー!。』
『働けぇぇぇぇぇ!!。』
「えぇい黙れっ!!、最高権力を使ったまでだ!。それに君たち男が女の私に女をとられてようじゃ意見できんだろ!!。」
瞬間、観客は反論できず下唇を噛み悔しがる。
ただし一人を残して。
「俺は桐佳にしか興味がないぜ!!。」
「バカかあんたはっ!!。」
こんな公衆の場で変態発言するバカがいるかっ!!。
「ふむ、同性愛も悪くない。しかも相手は翠碧の女神の桐佳ちゃんときたものだ。だが残念だなアルマくん、桐佳ちゃんはもう私のものなのだ。私が桐佳ちゃんの体の隅々までアリクイの如く舐め回し…はぁ、はぁ。アドレナリン爆発っ!!。」
もっと変態がいたよ!?。ていうか学園長が生徒襲ったら犯罪じゃないですか。一発で刑務所行きですよ。
『如月ー!、俺も好きだぁぁ!。』
『こっち向いてくれー!。』
投げキッスや手を振る男子たちに僕は肩を落として溜め息。
リースに桐佳さんは私のお姉ちゃんですと手を掴まれ強気で睨み返す。瞬間ファンクラブの大歓喜が会場を響き渡る。
…逆効果だ。
「ていうか早く開会式しろぉぉぉぉぉ!!!!。」
「開会式?。皆頑張れ以上!。」
『ワールドシップ、開幕!!。』
……え、いいのこんなノリで。世界の有名な人とか来てるんじゃないの?。
「ぶっ飛んでるわねぇ。」
と、とにかく今回も僕の人生がかかってるんだ。できれば弱い人と戦いたいなんて甘い考えはなし、頑張るぞ!。
『俺も好きだぁぁ!!!!。』
『こっち向いてくれぇぇぇぇぇ!!。』
イ「うあ?、寝てた…。」
?「やっと起きたか獣。」
イ「悪い悪い、今朝早くから新作ゲームやってて目が疲れてた。」
?「ふん、ゲームは一日一時間といくら言えばわかる。」
イ「おまいは親かっ。」
次回『初戦』