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第九話『ハーフな先輩』


さぁ、九話です。そしてまた新キャラです。



「うぐぅぅぅぅ。起きれないぃぃ……。」


アルマとの死闘で気を失った次の日の土曜日、身体中が悲鳴を上げてとてもじゃないけど起き上がれる状態じゃない。


咲耶かアルマに連絡して介抱してもらおうかと思ったけどそもそも携帯電話までに手が届かない。


完全に詰んだ。そう言いきれるはずだった。はずだったのに――



「くぅ…。」


僕の上でリースが寝ていた。




展、開についていけないっ!!。なにこの罰ゲーム!?、僕をどうしたいの!?。


リースは白のキャミソールに藍色の短パンという至って普通の私服。お姫様ってこんなラフな格好でもいいんだね。


じゃなくてじゃなくて、はぁっ!?。



起こしたいけど気持ち良さそうに寝てるリースを起こすのは気が引ける。一切の揺れも許されない。


「すぅ…、すぅ…。」


寝息がかかったり甘い匂いが鼻をくすぐったり。並の人なら失神するんじゃないかな多分。


まぁ、動じない僕にとってはリースの寝顔を見て安心するだけなんだよね。もちろん、リースを異性として見ても尚だよ。


手が動いたなら抱いてみたいって思ったな。なんだか本当の兄妹みたいで楽しくならない?。



それにしても、無防備すぎるなぁちょっと。警戒心の『け』の字もないじゃないか。


胸元なんてキャミソールの隙間から生肌見えちゃってるし。


僕は女の子の胸を見て興奮するほど変態さんじゃないんです。こんなこと自分で言うのは終わってるけど自分の体が女の子の体つきだから慣れちゃったんだよね。


竜人や獣人って筋肉質って思ってたけど全然違う。リースの体、すっごく華奢でちっちゃい。


あのアクアを殴っていたとは信じがたいほどの綺麗で細い手や指。


(女の子…だね、人間と同じ女の子。)


人間とそう変わらない彼女が別の世界の人。なんだか不思議だね、この宇宙の生物は。



「ん、んぅ。」


「?。」


起きたかな?。と思いきやなんとリース、僕の体をよじってきた。


「ちょ、これはさすがにまずいって!?。リース!、リース!。」


必死に起こそうと叫ぶがリース、これをスルー。




有ろう事か、僕のファーストキスをリースにとられてしまった。


(アアアァァアァァ!!!!!!!。)


これには対応に困る!?。奇想天外な出来事には慣れてないからパニック状態に陥るの!。


僕の唇に重なってるリースの唇を離そうとするけどファーストキスを奪われたショックによりうまく顔が動かなかった。


(僕のファーストキスが、ファーストキスが…。)


顔が青ざめて目が回り始める。



「ん、んぅぅ…。」


意識が覚醒し徐々に目を開けるリース。




あ、終わった、僕の人生。





―――――





「すいません!、すいません!。」


半泣きで何度も頭を下げてくるリース。


あれから状況を理解したリースは沸騰したやかんのように顔から煙を出してとにかく僕の顔面に一発メガトンパンチを打ち込んだ。そしてこの展開へ。


リースのパンチが効いたか、上半身は動かせるようになり上半身を起こし僕は泣いていた。


「いや、いいんだよ。僕のファーストキスはもちろん、リースのファーストキスまで奪っちゃったんだ。死んで償うよ。グッバイ、僕の人生。父さん、母さん、僕を産んでくれてありがとう。僕は幸せだったよ。」


「早まらないでくださいっ!?。」


「うぅ、ごめんねリース。」


僕も頭を下げてできるだけ謝る。


一界のお姫様のファーストキスを奪っちゃったなんて周りに広めたら僕処刑されちゃうんじゃないかな。


「い、いえ。むしろキスというものを体験できて嬉しい、ですかね。」


頬を赤く染めて恥ずかしそうに笑うリース。


その瞬間、ドキッと心臓が高鳴ったけど、なんだろうこの感情。風邪でも引いたかな。


そんなことより女神のように許してくれたリースに抱きつく。


「あぁ!、女神様ぁ!、ありがとうございます!!。」


「きゃあ!?、どうしたんですか桐佳さん!?。」


「僕は最高の義妹を持ったよーーーー!!!!。」





―――――





「アクアには助けられっぱなしだね。今度なにかお返ししないと。」


「私もアクアさんになにかお返ししないといけませんね。」


商店街、そこで僕たち二人は肩を並べて歩いていた。



僕の体の疲れはアクアが作ってくれた回復アイテムにより全回復して今じゃあピンピンしてる。すごいね、生まれ変わったみたいだ。


魔術関連の道具を作るのは彼女は天才だね。尊敬するよ。



それで今日はリースとお出かけを頼まれて商店街に来た。


もちろん、服はちゃんと私服だよ。


リースのキャミソールよりかは緩い感じで白い服、その中に黒いTシャツ、下は膝までのジーパン。ちなみに全部女子用の服。僕の意志で買ったわけではなく父さんが買いました。


髪は後ろでゴムで一つに纏めたポニーテール。


リースは可愛いって言ってくれたけど華麗に受け流した。



「そういえば、お出かけってどこに行きたいの?。場所をまだ聞いてなかったんだけど。」


こうして商店街を歩いてるんだし、どっかのお店かな。


女の子なんだしやっぱりお買い物?。


僕が訊くとリースは場所?と言いたげな顔で首を捻る。


………あれ、ということは。


「み、皆まで言わなくてもいいよ。」


リースの肩に手を置き苦笑い。



リースらしいっていうかなんというか。


この娘のことだから出かけられればなんでもいいと思ってたんだろう。


なんとも幸せな考えであろうか。これが恋人同士だったら多分彼氏は嬉し泣きをすると思う。



僕の言葉をようやく理解したか、顔を赤くして焦り始めた。


「そうでした!?。肝心の行き先を決めずに私はなにをしてるんですか!?。」


うわぁぁと頭を抱えて首を振るリースを見て、僕と僕の周りの人は微笑ましい表情になっていた。


竜人や獣人の人は興奮してるし他の種族も面白そうに見てる。


(忘れてたけど僕ってお姫様と一緒にいるんだよね。実感わかないや。)


「落ち着いてリース。場所くらいでそんな落ち込まないで。とにかく歩こ?。」


ここは男の僕がリードすべき。


リースの小さな手を握り歩き始める。


それに気づいたリースは驚くもすぐに安心した笑顔になった。





―――――





「とは言ったものの、どこに行こうかねぇ。」


商店街を出て大きな噴水が置かれている公園のベンチに座る僕たち。


「リースはいつも休みの日ってなにしてるの?。」


「私って一応身分は王族じゃないですか。ですからこの虚界に来るまでは休みの日はずっと城に籠っていました。やることと言えば習い事ばかりで。えへへ。」


…無理に笑ってる。


アルマに聞いた話だとリースの家族ってもう他界してるんだって。


だからその分子供がしっかりしないといけないってことで習い事ばかりしてたんだね。


作り笑いのあと、空を見上げ今度は作り笑いじゃなく本当の笑顔を浮かべる。


「でも、ここに来てからは休みの日は外に出られるようになって毎週の楽しみなんです。やることはなくても自由になれたんだなぁって重荷が下りた気分になれるんです。それに私には新しいお友達ができましたし一緒にいたいなって。ありがとうございます桐佳さん、私のワガママに付き合ってもらって。」


「うぅん、僕も休みの日に友達と出かけることなんて久し振りだからすごく楽しいよ。ありがとね。」


「えへへ。そう言ってもらえると嬉しいです。でもいつもはなにをなされてるんですか?。」


「えっと、バイトに行ってるか商店街の機械が壊れてたらそれを直しに行くか機械をいじくってるか勉強してるかお風呂入ってるか。そんなところかな。あはは、恥ずかしい。」


頭を掻き苦笑い。それにリースは両手を胸の前で横に振って否定するような動作を行う。


「そんなことないです!、とっても人のためになってるじゃないですか。」


「まぁ、確かにそうだね。」


日課となってるからそんなこと思ってもなかった。そうだ、僕人のためにやってたんだ。


いけないいけない、人の感謝すらも気づいてなかったとは、我ながら不覚。


「私も人の役に立つような人になりたいです。桐佳さんのような方が第一目標なんですよ?。」


僕?。


「僕ってそんな目標になるほど立派じゃないと思うんだけど…。」


特別優れてるっていったら機械に強いだけであとは至って平凡、一般人と変わらないはず。


平凡な僕が目標ってどんなことでなんだろう?。


「友達を思いやる心です。」


「思いやる…心。うん、それは大切にしてるね。けどそれが人の役に立つこととどう同じなの?。」



「桐佳さんは、人を変えてくれました。私が友達を作れるようになったときも助言をくださいました。覚えてますか?。」


覚えてる。確か明るく笑顔でなんとか~って言った、一ヶ月前に。


「はっきり言ってしまえば桐佳さんはお人好しすぎちゃうんですよ。」


「うっ、痛いとこ突いてくるね。」


自覚はしてるんだ。でも放っとけないじゃないか困ってる人を。


「でも私はそんな桐佳さんが大好きです。目標にするに相応しい方なんですよ。」


両手を掴まれてにっこり笑うリースに釣られて照れ隠しに笑う。


「そっか、ありがと。」





「お、アツアツのカップル発見かと思ったらリンとキーちゃんじゃないか。」


「きゃあ!?。イ、イル!?。」


「うわぁ!?。イ、イルさん!?。」


急にベンチの後ろからひょっこり顔を僕たちの間から出してきた栗色の髪にリースと同じ耳を生やし黄色の瞳を宿した女性、この人はイルさん。竜人と人間のハーフの三年生でリースの幼馴染みで一年前僕がお世話になった先輩。


今日はドクロが描いてある黒のタンクトップにジーパンを着用している。…あなたも王族でしたよね、ラフ過ぎますよ。


「はは、そこまで驚くなんて、もしかしていい雰囲気だった?。」


「いい?。」


「雰囲気というと?。」


「……。」


僕たちが首を傾げてると頭に手を置いて苦笑い。


あれ、気づかなきゃいけないところだった、今。




「それよりどうしてこちらに?。」


「なにさ、あたしがここに居ちゃいけないってわけかい?。酷いなキーちゃんは。」


「別にそういう意味で言ってるわけじゃないですよ。ただ気になっただけです。」


「なにさ、あたしの休日が気になるわけかい?。意外と大胆だねキーちゃんは。」



…すっごくダルい。これがからかわれてるってことか。


なのでリースに助けを求める。


「もう、ダメですよイル、桐佳さんに迷惑をかけては。」


悪い悪い、と笑うイルさん。


この人も可愛いのに性格が苦手だからなぁ、正直苦手。


「実はアルル君を探しているんだけどね、逃げられてるみたいなんだ。」


まったく困ったもんだと言いたげな表情で腕を組む。そのときおっきな胸が寄せて上げられたのをリースは恨めしそうに見上げてた。


ちなみにイルさんが言ってるアルル君とはアルマのこと。おそらくまたイルさんに扱き使われると思って逃げ出したのだろう、アルマ、彼女苦手がってたし仕方ないよね。


そのことに気づいていないイルさんには悪いけど嘘をつかせてもらうよ。


「逃げてるだなんて、急ぎの用事で」


「そうか、私は嫌われてるのか!、はっはっは!。素直じゃないな彼は。」


「内側覗かれた!?、ていうかはっはっは!じゃないですよ!。どんだけポジティブシンキングなんですか!?。」


「彼女はそういう人なんです…。」


「あたしってポジティブなのか?。」


『自覚してなかった!?。』


そんな馬鹿なと首を捻る三人。



「あ、話しは変わるけど聞いたよキーちゃん、あのアルル君に勝ったんだってね。凄いじゃない。」


「そんな。あんな勝ち方、勝ちに入りませんって。」


僕が言うとイルさんは僕の肩を何度も叩く。


「でも勝ちは勝ちだよ。そこは自信を持っていいんだ、君の実力なんだから。」


「みんなが手伝ってくれたからですよ。」


「そっか、君らしい返答だね。うりうり。」


撫でるようではなく掻き回すようにイルさんが僕の頭をいじくる。


身長はイルさんのほうが高いから僕が見上げる形。んー、男としてはどうかと思うけど心地好いからいいや。


「もう、やめてくださいよ~。」


「やだよ~、キーちゃんが可愛いのが悪いんだぞ~。」



……?。リースが親指をくわえ物を欲する幼児のように僕たちを見てくる。


「なによリン、そんな耳上下に動かして。なに?、撫でてほしいのかー?。」


また意地悪そうに笑みを浮かべるイルさん。


あぁ、ダメですってリースに意地悪したら。


「う!?、…い、いえ。」


視線を逸らし耳を下げる。あらら、強がっちゃったよ。


今から僕が撫でてあげるのもいいけど甘やかしすぎって言われるのがオチだ、ごめんねリース。


「ま、元よりこれは褒美の一つ。特に功績を出していないリンにはするつもりはなかったわ。」


「が、がーん…。」


「率直ですねぇ…。」


「甘やかすのはこの娘のためにもならない……待てよ。」


あごに手を添えて口元を吊り上げるイルさん。


「いや、そうだったわね。リンにも褒美をあげられるかもしれないぞ。」


「本当?。」


「あぁ。キーちゃん、この季節に大きな行事があるとすれば、なにがある?。」


行事?。


僕は頭を捻り去年の記憶をできるだけ引っ張り出し、十数秒後に一つの行事が浮かび上がる。


「あ、学年別の大会のことですか?。」


「正解。」



通称『ワールドシップ』。ネーミングセンスがない風音さんが主催の学年別の大会のこと。


催しの理由は日頃の鬱憤を解消するストレス発散って言ってたけどそんな訳あるかい。本当は生徒の実力を知るだけでしょうに。


前年度は咲耶の率いるチームが決勝戦まで行って準優勝まで行ったんだっけ。


ちなみに僕は観客席、当たり前だよね。



「要は大会に出ろってこと?。」


「無論、キーちゃんもね。」


「僕もですかっ!?。」


思いもしなかった発言に思わず裏声をあげる。


これは驚いた。まさか僕まで大会に出すとは。


「リン一人を戦わせてお姉ちゃんのキーちゃんが戦わないなんてどうかと思うぞ。」


「そりゃそうですけど…ってお姉ちゃんってなんですか!?お姉ちゃんって!。勝手に姉妹にしないでください、せめて兄妹ですよ。というか僕男じゃないですかっ!。」


「は?、キーちゃんって男なの?。」


「…も、もうだめだ。ここまできたらなにがなにやら…。」


「あ、あはは…。」





◆◆◆◆◆





(まさか知られてなかったとは…。じゃあ一年間僕女として見られてたのか。)



「桐佳さん、頑張りましょうね。」


なにかを考えていた桐佳さんは私の言葉で我に返り苦笑いを浮かべる。


「は、はは。足引っ張ると思うけどリースのためだからね。できるだけ頑張ってみるよ。」


私の…ためか。本当に桐佳さんはお人好しですね。


でも勘違いなんですよ?。確かにイルのご褒美は好きですけどあのときは桐佳さんを抱いているイルみたいに私も抱きつきたかったんです。お姉ちゃんのようなあなたに。


正直恥ずかしくて言えるわけないじゃないですか。今でも恥ずかしい。



顔を赤らめ顔を逸らすと同時に桐佳さんがなにか思い出したように口を開く。


「あ、そう言えば僕、今回の大会出ろって昨日風音さんから言われてたんだった。」


「そうだったんですか。でもどうして?。」


えっとね、と言って携帯を開きメール受信画面を調べ始める桐佳さん。メールで言われたんですね。



「あ、これこれ。」


「えっと…『君には一週間後に催すワールドシップに出場してほしい。アルマくんを負かした君の実力を生で見てみたい、頼んだぞ。尚、三回戦以内で敗退した場合君は退学させられるので気をつけたまえ。』…って。」





……これってむしろ、私が頑張らなければ桐佳さんの未来が無いってことになるじゃないですかぁぁぁ!?。


アル「ゼェ…ゼェ…。」


アル「イー先輩から逃げようと数時間走ったがようやく撒いたか。」


アル「ふぅ、疲れたぜぇ。……ってここどこだよ!?。」


?「ようこそ、ベルベットルームへ。ここは、人の心の様々なる形を呼び覚ます部屋。」


アル「なんか変なとこ来ちまったよぉぉぉ!?。」




次回『必殺技』

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