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第八話『愛のムチ』


相変わらずの遅い投稿すみません、八話です。


やっと愛の戦いが終わります。



俺が桐佳を好きになった理由は至って簡単だ。


『妹に似てたから』、そんだけ。



極度や重度ほどとはいかないけど俺は妹が大好きだった。大好きだったんだ。


昔から両親がいない家庭の中でたった一人の家族。


この世の中で一番愛おしくて一番守りたい宝物。


俺の存在意義でもあった。


彼女がいてくれただけで幸せだった。


優しく笑ってくれたときなんて、涙が出るほど嬉しかったんだ。



名前も思い出せない、妹に、恋心すらも芽生えてた。




だけど、その妹は六歳の誕生日を迎えた日に、死んじまった。


獣人と竜人の男共に拉致監禁され、実験の道具にされたんだ。


彼女は最後、俺の名前を呼んで死んだらしい。今まで以上の笑顔で。


あんとき俺は狂いに狂ったな。彼女を殺した奴らを一人残らず……って、話が重い重い、話が逸れたな。



とにかく彼女への記憶をある程度消した十年後に桐佳に出会った。


心臓が高鳴った、運命の出会いってやつに。妹に似ていたが本人ではない、それはわかってた。


でも一目惚れという衝動に駆られたんだ、欲しいと思ったんだ。



…いやぁ、しかし、桐佳が男だったなんて思いもしなかったぜ。


あまり女が好きじゃない俺としては驚きもあり喜びもした。俗に言うホモセクシュアルってやつだ。


俺の中にある何かにスイッチを入れちまった。


男を好きになる同性愛と、守りたいという気持ち。


もう、失いたくない。



そう…思ったんだ。





◆◆◆◆◆





「がっ!?。」


地面を三度跳ねて背中から何度も後転するように転がる。


口に砂が入って呼吸がしずらい。


奥歯を噛み締め爪と足裏で削りようやく止まることができた。


「うっ…。」


口元からは血が垂れてきてた。切ったね。手も皮が剥けて血が垂れていた。


普通に痛い。


リースの一撃は一瞬の痛みだったけどこれはジワジワとくるんだよね。


なので神経を研ぎ澄まし詠唱。



「ディア。」


ディア。これは僕が作った術式で回復魔術の一つ。名前はそこらの技から引用しました。


パールやエメラルド色の光が体を覆いやがて消える、消えたときにはすでに体の傷や剥けていた手の皮が回復していた。


よし、動く。




「ガァッ!!。」


構える前にアルマの咆哮がフィールド内に響き渡る。…ぐっ!、またか。足が痺れて動かない。


アルマのやつ、あの咆哮のことを知っていたのか。


相手に恐怖を与え筋肉を一時的に機能させなくなる反則級の技、決して魔術なんかじゃない、あれは特技。


「っ!?。」


直線上のアルマが神速で距離を詰め左ラリアット。


これなら避けれる。無理に体を前に倒しぎりぎりの高さで回避することができた。



「甘いぜ。」


が、ラリアットはフェイク。本当の狙いは回避したあとの回避不可になった僕への追撃。


アルマはすでに膝を折り僕に打ち込もうとしていた。


あらら、ですよね。ってまずい、このままじゃ顔面にジャストミートだ!?。それはどうにかして避けたい、ここは一か八か!。


「コール!。平和ピンフ一盃口イーペーコー!!。」


叫ぶような大声で役名を叫ぶ。


すると体の中に入っていた一~三萬が二枚ずつ、一~三筒が一枚ずつ、計九枚の牌が一列並んで僕の目の前に現れた。



時間がないから簡単に説明。


役の場合は最初に詠唱した役に設定されている魔術になって翻が高くなれば高くなるほど効果が上昇する。


今回は平和、一盃口、それぞれ一翻の計二翻の役。


平和っていうのはすべて階段状でラストの牌が両面待ちのときになる役で魔術ではプロテクション。


だから今は二段階目のプロテクション。



「うわぁ!?。」


火花が散り膝蹴りが障壁に打ち込まれる。


障壁は壊されなかったけど僕の体は大きく後ろに飛ばされた。


体勢は立て直せないが手は動く。僕が衝突するだろう壁に予め障壁を張り無事に衝撃を和らげることができた。



「おかえり如月。」


「大変ねぇ。」


「…つつ。ただいま、困ったもんだよ。」


「なんですかこのノリ!?、試合中ですよね!?。」


適当に返答しちゃったけど上を見たらリースたちがいた。


「にしても厳しい状況よ。勝算はあるの?。」


心配そうな表情ではなく楽しそうに意地悪そうな表情で見下ろしてくるアクア。それに僕は頬を掻く。


「正直賭けになっちゃうけど、あるよ。」


「桐佳さん…。」


本気で心配しているのはリースの方だね、あはは。


僕は服についている砂を落とし立ち上がる。


そして背伸びをしてリースの頭に手を置く。


「大丈夫。僕の勝ち筋はリースなんだから。」


「へ?。」





◆◆◆◆◆





桐佳さんがアルマ先輩に走っていった後、私は首を捻りながら考え込んでいた。


勝ち筋が私。いったいどういうこと?。


砲拳のように技を真似るのでしょうか。それとも戦闘スタイル?。


あのときの桐佳さんの顔、すごく優しくて強かった。諦めずに勝ちを狙いにいく勝者の顔。



「アツアツね、お姫様。」


隣のアクアさんがにやつきながら私を見てくる。


「はい?、どういうことですか?。」


「リースにはまだ早いわね。」


「またそれですか!?。」


皆さん私をからかってるんですか!?。


「簡単に言うと桐佳と仲がいいねってことだよ。本当の兄妹みたいに。」


「それは桐佳さんですし。」


「即答かい」と溜め息を一つつくアクアさん。?。



そんなことより桐佳さんが気になるので、私は視線をフィールドに移した。





◆◆◆◆◆





「お待たせ、待たせちゃったね。」


「いや、いい休憩にはなったぜ。あんがとよ。」


「どうも。」と言い髪についてる砂を払う。


でもここは攻めてこなかったアルマには感謝だ。


休憩と言ったのは嘘、アルマは本気の僕と戦うのが目的。だからわざと追い打ちをかけなかった。


この試合を本気で楽しんでるからこその見逃し。



「でもそろそろ、お互い消耗してきたところ。次で決めたいね。」


「はは、気づいてたか。」


「もちろん。いくら獣人とはいえあそこまで無理して強化してたからね、相当体にきてるんじゃないかな?。」


さぁな、と笑いながらしらを切ってるけど、体に流れている魔力がほとんど感じない。


もともと魔力量が少ない獣人なのに縮地をバンバン使って、体壊してもしらないよ。


「そういうお前だってからくりの効果が切れかけてるじゃねぇか。隠したって無理してるのがバレバレだぜ。」


「いいの。女の子の友達が見てるんだ、少しくらいかっこつけさせてよ。」


「女らしいお前がよく言うじゃねぇか。はは。」


うるさいよ、僕だって男なんだ。



けど、アルマが言ったように僕は相当無理をしてる。


どうやら平和時に中の効力が薄れたんだろう、それか故障か。


そのせいで徐々に体力が失いかけてこのままじゃ疲労困憊になって倒れ兼ねない。


もって三分。


結構後にくるんだね、魔道具って。


仕方ないか、ノーリスクで強化されるほど甘くないもの。強化できるだけ十分。


「俺とお前、どっちが先に倒れるか。殴り合おうぜっ!!。」


「悪いけど、僕は人生がかかってるんだ。負けるわけにはいかないよ!。」



先攻はアルマ、拳を地に打ちつける。


すると強く地響きが起こり尖った山脈が連なるように僕へ突き上がる。


「くっ!。」


大きく身を左に投げ出し回避、素早く受け身をとり構える。


(…どこだ、どこから攻めてくる。)


左右を見渡し確認するがアルマの姿が見当たらない。


上や下はまずない。あいつの性格上、攻めてくるのは地上が多い。


なら。


「僕の背後っ!。」


右肘を折り後ろに打ち込む。だけど。


「遅ぇよ!!。」


読みは当たっていた、しかし打つのが少し遅かった。


僕の肘打ちは右の裏拳で軽々弾かれアルマの右回転の回し蹴りが僕の右のお腹にめり込む。


「あっ!?。」


激痛が走り軽い体が左に飛ぶ。


左半身を削りながら転がりやがて静止。


意識が飛びそうになり吐血もするが獣は決して止まってはくれない。


僕の真上に魔方陣を展開させ石で形成させたナイフを複数降り落とす。ってあれは刺さったら死ぬって!。


冗談じゃないと思い左に回転。映画みたくすれすれでナイフをかわすけど目が回る…。


ナイフが止んだ後すぐさま仰向けで両手をバネにして飛び、起き上がる。



「いい加減倒れてくんねぇかなっ!!。こっちも疲れてんだ!!。」


右を向くと拳を振り下ろしてくるアルマが目に入る。


「そんな根性じゃあ僕を物にすることはできないよっ!。もちろん僕は全力で拒むけど!!。」


避けきれず右肩に重い一撃が打ち込まれる。


骨が折れるような音が聞こえたけど知ったことじゃない。固めた左拳をアルマに打ち込む。



案の定、アルマの言った通り攻撃が通らない。掴まれて終わった。


「痛いと思うが倒れないお前が悪い!!。」


なんと、左腕に膝を入れてきた。



「っあぁぁ!?。」


これには耐えられない。完全に腕をへし折ったのだ、骨までちゃんと。


激痛を通り越して痛覚が麻痺している気がする、痛みを感じない。


涙を流しながら唇を強く噛む。




まずい、両手が使えなくなった今、最悪な状況だ。攻撃もできなくて守ることもできなくなった。


僕が持ってる回復魔術じゃ骨までは回復できない。この戦闘ではもう両手は使えない。


最早戦える状態じゃないんだ。


手詰まり、打つ手なし。


反撃方法もなくこのままアルマに無抵抗でやられてしまうのか?。


もしこの場を凌げても結果は同じ、勝算なんてない。


麻雀ではなにが起こるかわからない。


暗器は腰や袖に隠してるから無理。



……負ける?、僕がアルマに?。とうとうアルマに捕まっちゃうんだね。


あんなにリースたちに勝つって言ってたのに、かっこ悪いな。


今なら実力の差って言って言い訳したら許してもらえるかな、嫌われるかな。


嫌われるに決まってるよ。嘘つきだもん。


友達からも嫌われて成績も悪くて退学。最悪な人生じゃないか。



できれば…………。


できれば……。







「なーんてね。ようやく捕まえたよ。」


「なっ!?、お前なにを!?。」


アルマに抱きつくように胸に顔を埋めて押し倒す。


状況に苦しむアルマは僕を剥がそうとするが無駄。


押し倒す前に背中にプロテクションを張っておいたのだ。なので押してもそれ以上は押せない仕組みになっている。


悪魔のように口元を吊り上げる僕にはこの状態になることをどれほど待っていたか。多分試合前から。


「本気の君には絶対攻撃が通らないなんて元から知っていた。だから疲労して油断して尚、倒れやすい体勢をとるときを静かに待ってたんだ。逆転の一手をね。」


「な、なにを言って」


「僕が魔術をあまり使わなかった理由、わかる?。」


首を横に振るアルマに僕はだよねと笑う。


「僕が使った魔力は氷河砲拳とディアと平和の三つだけ。1/10も使ってない。体力がない分魔力量はすごいって昔にも話したよね。」


「対してアルマは獣人、魔力量は僕の1/10以下ほど。もう魔力はカラッカラ。まるで水を渇望する旅人のように。」


ここまで言えばさすがのアルマでさえも理解する。顔を真っ青にして血の気が一気に引くのが感じとれた。




そう、僕が勝算はあると言った勝ち筋。それは膨張。



膨張を説明する前に昔のことを話すよ。


一ヶ月前、アクアがリースの暴走を止めた方法、覚えてますか?。そうです、魔力を抜いてショック状態に陥らせたんですよね。


最初は僕も試行しようとしたんだけど僕にはエナジードレインがないので蹴った、仕方なく。



だからその逆、魔力を無理やり相手に流し込んで暴発させてしまおうとする危険なことを選んだ。


僕が溜めに溜め込んだ魔力を九割アルマに流し込むとどうなるか。


まず、魔力に体がついていかずに内部から暴走、臓器が破裂して人としての形を失うね。


「僕は茶番で人は殺したくない。それも大切な親友を。」


脅してるわけじゃない。真実を言ってるだけ。


既にもう徐々に魔力を流し込んでいる。あと数分もすればアルマの細胞が魔力に押し潰されて破裂、そのまま死ぬ。


「さぁ、どうする?。」


「…………くっ。」


悔しそうに奥歯を噛み締めて拳を固めるが、数秒後その拳を緩めて困ったように笑う。



「…わかった、降参だ。」




その言葉を最後に、僕の死闘は勝利で終わった。



「や、やった~~…。はぁぁ~疲れた~。」


障壁を解くと同時に体の中に入っていた麻雀箱が飛び出た。どうやら効果時間が今終わったんだろう。


うぅ…。体力が元に戻ったと思ったらいきなり疲労が襲ってきた…。体がピクリとも動かないよぉ。


「うがぁぁ!!、悔しいぃぃぃ!!!!。」


アルマに助けを求めようとしたけどこりゃだめだ。


「でも桐佳を抱けてるから悔いはないぜ!。」


どっちだい。




まぁ、とにかく一件落着ってとこかな、うん。


…緊張が解けて眠くなっちゃったな、体も重いしゆっくり寝たい。


アルマに激しく抱かれてるけどなんだか悪くない、今日くらいは大目に見てあげようか。


「桐―さぁ―ん!!。」


…ごめんリース、今は寝かせて。



安堵の息を一つついた僕は誰からも起こされないくらいの深い眠りついた。




◆◆◆◆◆



「ふふ、やはり君は面白い。見ていて興味が沸くばかりだ。」


第三アリーナの入り口で腕を組みながら笑う変態、不知火 風音が立っていた。


「仲間を集め絆を深める力。」


手のひらから白い光を生成し桐佳たちがいるフィールドに光を放した。


「これはそんな君へのプレゼントだ。きっと役に立つだろう。」


風音は両手を挙げて伸びをしてアリーナを後にした。




「さってと。女の子たちとイチャイチャするとしますか。」




桐「……すぅ、……すぅ。」


アル「寝顔の桐佳も鼻血もんだぜぇっ!!。」ブフォ!


咲「もう出てるよ。」


ア「そういえば、如月がプロテクションを張ったとき二翻だったけど。」


一二三 一二三 一二三

萬萬萬 索索索 筒筒筒


ア「この平和、三色同順の三翻のほうが良かったんじゃないかしら。」


『…………………。』




実際はそうしようとしたんですが展開的に弱い二翻にしたんです。け、決して間違いをしたわけじゃないですよ!。



次回『ハーフな先輩』


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