その爪で、その牙で、私を殺しなさい。そして安らかに眠りなさい
思い付くままに書いた詩です。
小説のと在る人物の気持ちを考えて書きました。
悪魔な男爵 第一部の終盤に出て来る天使です。
かつて、何処かで、これほど幸福だった事はあっただろうか?
貴方は素晴らしい。
とても素晴らしい。
掛け値なしに素晴らしい。
しかし、貴方は誰も知らないし、誰も貴方を知らない。
一体、私は誰で、貴方は誰なのだろうか?
故に私は考えてしまう。
どうしたら、私は、貴方を、私は貴方を知り、気付く事が出来るだろうか?
故に私は、貴方を殺したい。
この手で。
故に貴方は私を殺そうとする。
私は、貴方を殺して、貴方は私を殺して、誰かに気付かれる事だろう。
故に私は、貴方を殺したいと同時に想ってしまう。
お願いだから、私を愛して。
私を見て。
私を愛して。
私だけを見て。
私だけを見なさい。
そして、私を殺して。
貴方に殺された私。
貴方に殺されて。
貴方だけを漕がれて。
私は、貴方の奴隷。
そして、貴方は私の奴隷。
だから、私を見て、私だけを見て。
もう一度、私を殺して。
私の心臓をもう一度、抉り出して。
貴方の牙で、私の喉笛を切って。
貴方の爪で、私の心臓を抉り出して。
貴方に恋焦がれて、私は人間を止めたの。
人間では無いの。
だから、貴方は私をもう一度、殺す理由があるの。
私をもう一度、その手で殺す義務があるのよ。
さぁ、殺しなさい。
速く。一秒でも速く私を殺しなさい。
貴方の牙で食い千切られた喉笛からは、赤くて、綺麗で、鮮烈な血が湧き出るの。
まるで熟したワインのように、とろみがあり、甘くて、時に辛くて、だけど、とても喉を潤してくれる。
・・・・さぁ、速く私を殺して。
貴方の爪で、抉り出された心臓からも鮮血が飛び出るの。
辺り一面を。
それこそ白い花畑を、血の海にする程の血が湧き出るの。
それを見て、私は、貴方は、笑みを浮かべて、声を上げて笑い上げるの。
嗚呼、これが血。
生命の源。
生命の泉。
そして終幕。
私を殺す事で、貴方は、私の人生という幕劇に終幕という幕を降ろすの。
貴方だけが、私の人生を終わらせる事が出来る。
だから、私を殺して。
そして、貴方は生き続けるの。
私から奪い取った血という水を頭から被り、潤すのよ。
花は水が無ければ、枯れ果てる。
それこそ人間のように。
年老いた老人から、再び貴方は若々しい姿に戻るの。
さぁ、その爪で、牙で、私を食い、刺し貫きなさい。
その爪は槍。
柄まで刺すと思いなさい。
柄まで刺し抜き、殺しなさい。
そして、その牙は、鋭い剣。
その短剣で、私の首を切り落としなさい。
首を切り落として、滴り落ちる血を一滴も残さず、飲み干しなさい。
飲み干したら、私の亡骸を食べなさい。
食べて、腹を満たしなさい。
腹を満たしたら、眠りなさい。
私の胸で、永劫に安らかに眠りなさい。
そうすれば、私は、貴方を。
そうすれば、貴方は、私を。
互いに知り、気付き合う事が出来る。
故に私は、貴方に殺されたいと願う。
さぁ、速く私を殺して、血を飲み、亡骸を食べなさい。
そして眠りなさい。
永劫、安らかに私の胸で眠りさない。