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匂いで番を選ぶ世界で、嫌われ者の文官様に懐いてしまいました  作者: クロミ


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 正式に番となってから数週間後。私は現在、騎士団本部の廊下で固まっていた。なぜなら


「レオン様、今日も素敵です……!」


 人間族の女の人が、レオンさんへ熱烈アピールしているところを目撃してしまったからだ。しかも近い、距離が近い!恋する乙女のような笑顔に声も甘い。ボディタッチまでしている。


 私はその光景を見た瞬間、頭が真っ白になった。


(……は?)


 胸の奥が、ぐらりと揺れ、ぞわりと背筋が粟立った。耳が熱く呼吸が浅い、そして腹の奥が、低く震え始める。


 ゴ………………


 廊下の窓が微かに揺れた。


 周囲のゾウ獣人文官達がぴたりと動きを止める。


「あ」

「副隊長キレた」

「終わったな」


 何が終わったの?いや違う、そんな事どうでもいい。だって今、その女の人がレオンさんの腕に触った。そう認識したその瞬間、ぶちっと何かが切れた。


(……触った)


 私の!!……私の?

 そこまで考えた瞬間、自分でぎょっとするが、走り出した感情は止まらない。


 嫌だ!


 見たくない!!


 近づかないでほしい。


 レオンさんに触らないで。


 頭の中が、そればっかりになる。


「レオン様、今度ぜひお茶でも──」


 女の人がさらに距離を詰めた瞬間。


 私は反射的に歩き出していた。もしかしたら走っていたかもしれない。


「……レオンさん」


 低い声が出た。自分でも驚くくらい低い声。

 レオンさんがこちらを見た瞬間、金色の瞳が見開かれる。


「……エレナ?」


 私はそのままレオンさんの腕へ、ぎゅっと抱きついた。目の前の人間族の女性が「えっ」と固まる。だか、そんなことは知らない。今、気にしてる余裕ない。


 だって…


 嫌だ。


 すごく嫌。


「……っ」


 自分でも驚くほどの強さで、レオンさんへしがみついてしまう。


 すると。


 ふわり、とレオンさんの匂いがした。落ち着く、安心する。でも今はそれ以上に、他の女の匂いが混ざってる気がして嫌だった。胸がむかむかする。


「エレナ?」


 レオンさんが困ったように名前を呼ぶ。


 私はその胸元へ顔を押し付けたまま、イヤイヤと首を振った。


「……やです」


「え?」


「もう、しゃべらないでください」


 驚くほど冷たい声に、空気が凍る。レオンさんが固まり周囲のゾウ獣人達が、


「うわぁ……」

「完全に威嚇してる……」


と遠巻きにざわついている。


 でも今の私は、そんな声すら耳へ入らない。


 嫌だ。


 離れたくない。


 取られたくない。


 レオンさんは私の番なのに。


 その気持ちを抑え込むように腰の剣の柄を握りこんだ。その瞬間、


 メキッ…ボキッ……


 エレナの力に耐えきれなかった柄から聞いたことない音が発せられ、手の形にひしゃげた。


 人間族の女性が悲鳴を上げる。


「ひぃっ!?」


 私はハッとして手元を見た。


 (やばい。今かなりキレてた。)


 しかも本能全開だった。


(うわぁぁぁぁ!!)


 羞恥が一気に押し寄せる。


 (なに今の…私めちゃくちゃ独占欲丸出しだった!!)


 しかもレオンさんの前で怪力まで披露してしまった!!恥ずかしくて死ぬ!!穴掘って埋まりたい!!


「っ……す、すみません……!」


 慌てて離れようとした瞬間、ぐいっと腰を引き寄せられた。


「えっ」


 レオンさんが逃がさないみたいに、しっかり抱き寄せられる。


 そして


 ゴ………………


 レオンさんから、宥めるような低く甘い振動を感じた。空気が震えるのを感じ、私は顔を真っ赤にした。


「れ、レオンさん……!」


「……可愛すぎるでしょう」


 ちいさなつぶやき声、でもすごく嬉しそうな声だった。


「っ〜〜〜!!」


 (ときめきで死ぬ!!キュン死、キュン死です)


 そんな2人を見て人間族の女性が、青ざめた顔で後退る。


「つ、番の方がいらっしゃったのね……!?」

「え?」

「す、すみません……!失礼いたしますわ!!」


 そのまま踵を返し、逃げるように去っていった。


 残された私は、まだレオンさんへ抱きついたままポカンとしていた。いつのまにか集まっていた周囲の人達は、めちゃくちゃニヤニヤしていた。


「副隊長かわいー」

「番への独占欲全開じゃん」

「レオンさんもう骨抜きだろ」


 レオンさんは困った様な顔をしながら言う。


「……否定できませんね」


「しないんですか!?」


「だって実際、かなり嬉しいので」


 さらっと直球で言われたので、私は真っ赤になりながらレオンさんを見上げた。するとレオンさんが私の耳へそっと触れる。


「ひゃっ」


「……私なんかが嫉妬してもらえるなんて…他の女に嫉妬して理性が飛んでいくくらい、ちゃんと番だと思ってくれてたんですね」


 優しい声だった。その声で言われた瞬間、ぶわっと羞恥が込み上げる。私はそのままレオンさんの胸へ顔を埋めた。


「私なんかなんて、言わないでください。レオンさんはとっても素敵です!…でも…うぅぅ……さっきのは忘れてください……」


「無理です」


 即答だった。


「嬉しかったので、一生覚えてます」


「やめてくださいぃぃぃ!!」

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