超超超超耳袋 肆 ――ニケルの声真似をした話
ニケルの担当声優である、杉村信樹の声真似をする俺。
ニケルは『ディグオンの伝説』のチュートリアルキャラであり、プレイヤーであるアーシュに新しい技や連続技を教え、最初にアーシュが倒す激弱キャラでもある。
序盤に出てくるモブofモブ。
だが、人外デザインが多い『ディグオンの伝説』で、唯一の人型男性のイケメンキャラクターだ。
杉村信樹のゲームデビュー作品でもあり、毎回ニケルを担当している。
彼は今や人気声優ランキングで常に上位。声優事務所も構える程の大御所役者だ。
ゲーム好きの陰キャを自称しているところも、俺はかなり好きだし、好感度が高い。
流石に芸能界に入る勇気はないが、俺は杉村信樹のハイトーンなお兄声に憧れていた。
なので、つい、うっかり――母親が買い物に行っている、留守の間を見計らい、スマホに向かって、ニケルの声真似を自宅のリビングにて本気で興じてしまった。
「良いぜ、アーシュ! そこで、スマッシュ!」
「Aボタン長押しで、力を溜められるぜ」
「エクセレント!」
スマホで録音して、それを聞き返した。
――喉痛いけど、結構良い感じじゃね?
俺はニヤニヤしながら、自分の才能に酔ってしまった。
スマホを再生する。
鼻にかかった感じ、杉村信樹ぽくね? いいねいいね。
俺はアーシュのSDぬいぐるみを掴んだ。
完全にニケル。
いや、ニケルを超えた俺は、ぬいぐるみに向かって壁ドンした。
「動くな、アーシュ……」
甘く、低く、囁く。
「お前のHP、もう半分だろ?」
ぬいぐるみに顎クイした。
「回復アイテムは――俺だ」
自分で言って痺れた。続ける。
「ポーションなんていらねぇ……俺がアーシュのエリクサーだ――」
もう止まらない。
「MP切れか? だったら、俺がチャージしてやる」
「お前は、俺の装備欄に唯一セットできるレジェンド級アクセサリーだ」
自分の知識で精一杯の甘い言葉を考えて、ノリノリで即興の演技を続けた。
「他の奴が触れたら、即バッドステータス付与だからな。お前は――俺専用だ」
ぬいぐるみをぎゅっと抱き寄せる。
「お前が毒状態でも、俺が治す……麻痺でも、凍結でも、石化でも、全部、俺が解除する」
ちょっと息が荒くなってきた。
「HPゼロになっても――俺がコンティニューしてやる」
ぬいぐるみの頬を優しく撫でながら、
「アーシュ……お前は俺のセーブデータだ」
言った瞬間――。
「誠司~。忙しいところ悪いけど、ちょっとスーパーで卵と、トマト買ってきてくれない?」
買い物で居ないと思っていた母親が、台所から顔を出した。
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER~だから――――
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER ~だから――――
時価
「超超超超耳袋 伍」




