超耳袋 拾――木更ガンダーコトリバゴ
一泊の予定だった。
水谷誠司とアーシュは、郊外の温泉町へ向かう途中だった。夕方の電車は空いている。窓の外の空は、妙に赤い。
聞き慣れないアナウンスが流れた。
次の駅名は、覚えがない。
電車が停車する――。
誠司は、地図を確認する前に立ち上がった。
ホームに降りる。
空が、ずっと赤い。
駅員はいない。
改札も無人。
掲示板は空白。
振り返ると、電車はもういなかった。
街は静まり返っている。
店は閉まり、灯りはない。
二人は道に迷った――。
山道に入る。
やがて、柵に囲まれた場所に出た。
有刺鉄線が張られている。
奥に、六本の木が立っている。
六角形。
注連縄。
手前に小さな木箱。
黒ずんでいる。
持ち上げようとしかけた。
かすかな音がした。
赤ん坊の泣き声なのか、
猫の嬌声なのか、
遠い哭き声。
箱の中からというより、
空気の奥から滲むような――。
かすかな声だった。
空は赤いまま。
森の奥で、何かが揺れた。
白い。
人の上半身のようにも見える。
腕が多い気がする。
見知らぬ駅。
贄にされた巫女。
血を絶つ箱。
そんな話を、知っていた気がする。
「触れないで」
アーシュが言う。
二人は柵に触れない。
箱に触れない。
振り返らない。
「戻らなきゃ……」
線路には、近付かない。
歩いて、歩いて――。
気が付くと、二人は予約していた旅館の前にいた。
部屋に入る。
畳の匂い。
普通の空。
夕食は、時間通りに運ばれてきた。
翌日、ニュースで山間部の地盤沈下と、廃業した商店街の倒壊を知る。
詳細は出ていない。
乗ったはずの電車の時刻は、記録にない。
あの駅名は、思い出せない。
黒ずんだ小さな木箱。
注連縄の向こうの息遣い。
空は、抜けるように青い。
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER ~




