超耳袋 漆 ――ガンダーラガンダーラ
山道の奥に、立入禁止の柵があった。
有刺鉄線が張られ、簡易な鍵がかかっている。観光用ではない。管理された封鎖だった。
水谷誠司とアーシュは、偶然そこに辿り着いた。
柵の向こう、森の中に六本の木が立っている。
六角形に並び、注連縄が張られていた。
中央には、細い棒が一本、地面に突き立てられている。
風はない。
それでも、どこかで金属音がした。
カン。
カン、カン。
誠司は、歌の一節を思い出していた。
Gandhara, Gandhara
They say it was in India
Gandhara, Gandhara
The place of light Gandhara
そのとき、森の奥で何かが動いた。
白い。
人の上半身のようにも見える。
腕が、多い。
誠司は目を細めた。
下半身を見ようとしかける。
「見ないで」
アーシュが言う。
声は低い。
森の奥の白いものは、揺れている。
木々の影と重なり、輪郭が曖昧になる。
カン。
カン。
注連縄が、わずかに震えた気がした。
姦姦蛇螺。
その名を、どこかで聞いたことがある気がする。
昔、この山に巫女がいたという話。
大蛇の話。
封じたという話。
誠司はそれ以上考えなかった。
「帰ろう」
アーシュが言う。
二人は柵に触れない。
鍵にも触れない。
有刺鉄線を越えない。
振り返らない。
数日後、その山林の一部が立入禁止区域として正式に封鎖されたと知る。原因は地盤沈下だった。
森の奥にあった六角形の木は、撤去されたらしい。
中央の棒がどうなったのかは分からない。
あの白いものが何だったのかも分からない。
ただ、下半身を見なかった。
怖い話ではない。
入らなかっただけの話である。
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER ~
次回
「超耳袋 捌」




