超耳袋 陸――てんそーくねったぽぽぽぽーん
夏の終わりだった――。
携帯ラジオから、甲子園の実況放送が聞こえる。
俺とアーシュは二人で、昨夜仕掛けて置いたカブトムシを捕りに行った。
河川敷の草は、風もないのに揺れていた。
陽炎が立ちのぼり、景色の輪郭が縦に細く見える。
川向こうの畑の中央に、白いものが立っている。
人のようにも見える。
白いワンピースの女のようにも見える。
塀よりも高い。
距離はある。顔は分からない。
誠司は、縁側に置かれたスイカの皮の匂いを思い出していた。
甘さの抜けた青い匂い。夏の終わりの匂い。
「見ないで」
アーシュが言う。
ラジオはまだ甲子園を流している。
「延長四十五回裏――」
あり得ない試合時間だった。
山道の入口にも、白い影が立っている気がする。
景色から浮き上がっている。
そのとき、どこからか小さな声がした。
「……てんそー……」
風ではない。
もう一度。
「……んそーめ……」
白いものは動かない。
ただ、そこに佇んでいる。
「カブトムシは、土を深くする」
アーシュが声を遮るよう静かに言う。
「湿度は保つ。霧吹きは軽く。夜は静かに」
ラジオが叫ぶ。
「サヨナラ満塁ホームラン――!!」
ドッとわいた歓声が長く続く。
甲子園のサイレン――。
直後、ニュース速報に切り替わる。
あり得ない延長戦の末、記録更新。
白いワンピースの女は、まだ畑の中央にいる。
二人は視線を落とす。
来た道を戻る。
振り返らない。
スイカの皮の匂いは消えている。
あの声が何だったのかは分からない。
白いワンピースの女も、山の影も。
数日後、カブトムシの交尾が成功した。
ケースの土をそっと掘ると、
白いものがくねくねしていた――。
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER ~
次回
「超耳袋 漆」




