超耳袋 弐 ――夕暮れの教室
放課後の教室は、静かだった。
窓の外は薄い橙色で、校庭の声ももう届かない。黒板には消しきれていないチョークの跡が残っている。
水谷誠司とアーシュは、最後まで残っていた。
誰かが冗談で置いていった紙が、机の上にある。
中央に鳥居の絵。周囲に五十音。はい、いいえ。
「やってみる?」
アーシュが言った。
誠司は少しだけ考え、頷いた。
二人は十円玉に指を乗せる。
軽く触れる程度。
「コックリさん、コックリさん」
声を揃える。
窓の外で、風が鳴る。
十円玉は、しばらく動かなかった。
誠司が言う。
「好きな人の名前、教えてください」
アーシュは何も言わない。
十円玉が、ゆっくりと動いた。
せ。
い。
し。
小さく止まり、濁点へ。
゛。
誠司は目を上げる。
アーシュは、わずかに視線を逸らしている。
「偶然だよ」
そう言いながら、指はまだ十円玉に触れたままだった。
教室には他に誰もいない。
夕暮れが少しだけ濃くなる。
十円玉はそれ以上動かない。
「終わりにしよう」
誠司が言った。
「はい、ありがとうございました」
二人で声を揃える。
十円玉は、元の位置に戻った。
片付けるとき、アーシュの肩が誠司に触れた。
距離は近い。
特別なことは起きていない。
後日、その紙はどこにも見当たらなかった。
誰が描いたのかも分からない。
ただ、あの夕暮れの教室で、十円玉は確かに動いた。
呼び出した何かに、連れて行かれることもなかった。
ただ、好きな人の名前を、静かに教えられただけである。
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER ~
次回
「超耳袋 参」




