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アーシュが泣いた日
俺は、何もできなかった。
世界は終わらなかった。
クラスの女子も、敵にならなかった。
誰も、俺と戦ってなどいなかった。
ただ――
アーシュが、泣いた。
理由はわからない。
いや、正確には「わかろうとしなかった」。
俺はナイトだったはずだ。
守る役割だったはずだ。
だから、泣かせるはずがなかった。
でも現実は、
剣もなく
呪文もなく
選択肢すら表示されなかった。
>はなす
>なぐさめる
>だきしめる
>ほんとうのことを言う
どれも選べなかった。
カーソルが、最初から動かなかった。
アーシュは机に突っ伏して、
肩を小さく震わせていた。
俺は、その背中を見ていた。
見ていただけだ。
胸の奥で、また音がした。
でもそれは、噛み合う音じゃない。
何かが外れる音だった。
「大丈夫?」
声に出したつもりだった。
でも、実際に出ていたかどうかはわからない。
アーシュは顔を上げなかった。
俺の方も、見なかった。
その瞬間、
俺は悟った。
ナイトは、
泣いている人の前では
役に立たない。
守ると誓うのは、
何も起きていない時だけだ。
本当に必要な場面では、
自意識が邪魔をする。
誇大妄想が足を引っ張る。
そして現実は、
一度も俺にコマンドをくれない。
俺は、何もできなかった。
だから、ノートに書いた




