怨霊集いし音楽室――合唱コンクールという悪夢
気づいたら、
俺とアーシュは
合唱コンクールに参加することになっていた。
……いつ決まった?
でも、
それはまあ、いい。
問題は――
目の前だ。
一軍女子が、
泣いている。
しかも、
名指し。
「どうして、水谷くんは、
声を出してくれないんですか……?」
終わった。
完全に、
俺の口パクがバレていた。
だって恥ずかしいだろ。
良い年して、
皆で横一列に並んで、
衆人環視の下で歌うんだぞ?
音楽室は、
完全に処刑場だった。
「ちゃんと練習してよ……」
「みんな頑張ってるのに……」
一軍女子・田中さんの涙で、
空気は最悪になる。
俺は、ぼっち陰キャ、
完全に悪者。
歌わない男子=協調性ゼロ。
怨霊が集う音楽室――
いや、
集ってるのは視線だ。
練習サボりたい。
本気で。
そんな中、
アーシュだけが、
俺の隣に来た。
「……大丈夫だよ」
小声。
俺だけに聞こえる声。
「誠司、
そんな顔しなくていい」
「……合唱コンクール、
休みたい……」
俺がそう言うと、
アーシュは、
少しだけ困った顔をして――
それから、笑った。
「駄目だよ」
そして、
追い打ち。
「俺は、
誠司の歌声、
聴きたいな……♡」
卑怯だ。
それは、
ずるい。
そんなこと言われたら、
やるしかないだろ。
次の練習、
俺はちゃんと声を出した。
最初は小さく。
誰にも聞こえないくらい。
でも、
アーシュが隣で歌っている。
目が合う。
それだけで、
声が出た。
本番。
市民会館の大きなホールは、
異様なほど静かだった。
ステージの照明が、
やけに眩しい。
客席の暗闇に、
無数の視線を感じる。
俺は、
逃げなかった。
ちゃんと歌った。
音程とか、
知らない。
でも、
声は出した。
結果。
金賞。
一軍女子達は、
抱き合って泣いていた。
田中さんも、
泣いていた。
良い意味で。
俺は――
処刑されずに済んだ。
ホールの外に出た瞬間、
俺は一気に力が抜けた。
足が、
ちょっと震えてる。
「……やりきった」
そう呟いたら、
隣にいたアーシュが立ち止まった。
そして、
真正面から俺を見る。
距離、近い。
「誠司」
名前を呼ばれただけで、
胸がまたうるさくなる。
「さっきの歌」
一瞬、
身構えた。
評価とか、
感想とか、
今は聞きたくない。
でも。
アーシュは、
笑ってた。
すごく、
嬉しそうに。
「……めちゃくちゃ良かった」
え。
「声、
ちゃんと届いてた」
「誠司の声だけ、
分かった」
そんなはず、
ないだろ。
大勢いたし、
ハモってたし。
でも、
アーシュは迷わない。
「最初、
震えてたのも」
「途中で、
息を整えたのも」
「最後、
ちゃんと前向いたのも」
全部、
見てたって顔だ。
「……俺さ」
アーシュは、
少しだけ声を落とす。
「誠司が歌うの、
ずっと聴きたかった」
それ、
反則だ。
俺は、
何も言えなくなる。
アーシュは、
一歩近づいて、
俺の耳元で言う。
「今日の御褒美」
「誠司は、
俺の自慢」
世界、
完全に消えた。
合唱コンクール?
金賞?
どうでもいい。
今は、
ここだけ。
俺は、
深呼吸して言った。
「……恥ずかしかった」
「でも」
「アーシュが聴いてるなら、
また歌ってもいい」
アーシュは、
嬉しそうに笑って、
俺の手を握る。
「じゃあ、
次は二人だけで」
脳内で、
全部が完結する。
観客も、
評価も、
いらない。
俺とアーシュ。
それだけで、
物語は終わる。
そして、
何度でも言う。
俺とアーシュは
~ TRUE LOVE 4EVER ~だから――――
次回
「男子トイレは悪魔の巣窟!? 禁じられた遊び――」




