……まあ、無理もないかな。
「…………は?」
夜野さんの言葉に、呆気に取られたような表情を浮かべる母。表向き私達は付き合っていることになっているし、恐らくほとんどの住人にそう認知されている。なので、ここで下手に隠し立てをしてもこちらが不利になる可能性が高い――そう判断し、つい先ほど表情や仕草で示し合わせた上での彼の発言だったのだけど、母のこの様子を見るに、現時点ではまだ知らなかったみたいだ。まあ、それでも今後母の耳に入る可能性も否めないし、この判断で間違いないとは思うけど。
「……つまりは、こういうことかしら? 夜野さん。交際関係にあるから、貴方はこんな経済的信用の欠片もないただの高校生と契約を交わした、と。でも、そんな特別扱いを他の居住者が知ったらどう思うんでしょうね? そもそも、貴方達はいつから知り合ったの? 付き合ってるからには、よもや一ヶ月前に初めて出会った――なんて言わないわよね?」
そう、何処か挑発するような笑みで問い掛ける母。……まあ、他の居住者が知ったらも何も、多分ほとんど皆そう思ってるけど。
「……ふむ、確かに百桃さんと私の関係上、そのように思われても致し方ありませんし、事実そのようにお思いの方も少なからずいらっしゃるでしょう。
ですが、百桃さんは学業の傍らアルバイトをなさっていますし、既に十分な貯蓄も蓄えているようです。なので、私としては彼女に経済的信用を十分に置いた上で契約を交わしております」
「……そんなの、口だけでしょう?」
滔々とした夜野さんの説明に、忌々しげに反論を試みる母。だけど、その口調は弱い。……まあ、無理もないかな。夜野さんの言葉にいくら疑念を抱こうと、彼がそう言い切ってしまえばその真偽を確認する術はないわけだし。
……まあ、言わずもがな嘘だけどね。確かに、私がアルバイトをしていて、ある程度貯蓄があるのは事実だけど……そもそも、無償での契約なんだから経済的信用なんて最初からいらないわけで。




