……少しずつ、一歩ずつでも――
「……どう、なのでしょうね。百桃さんは強くなったと思われますが、私は……」
キッチンへと向かう足を止め、こちらに向き直り答える桜雪さん。……まあ、予想通りの回答かな。
実を言うと、ずっと頭の片隅にこびりついていた疑念があった。居住が決まらず途方に暮れていた私に、桜雪さんが声を掛けた日についてのことだ。
恋人の振りをしてほしい――そんな彼の事情に、一応は納得したつもりではいたけど……でも、例の条件を満たしうる人間が私だけとは思えなかったし、そもそも私のような赤の他人に部屋を無償で貸し出してまで持ち掛ける相談ではないと思う。
だけど、あの日――彼が自身の過去を話してくれたあの日、それが分かった気がした。……まあ、分かったといっても憶測でしかないんだけど――きっと、彼はあの時点で気づいていたんじゃないかな。――彼と私が、どこか似ていることを。
もちろん、この推測を以て私達が同じだと言いたいわけじゃない。そんな申し訳ない思い上がりはしていないつもりだ。だけど、彼と私はきっと同じように――
――同じように、満たされない孤独を抱えて生きてきたんだ。
「……ねえ、桜雪さん。私のこと……好き?」
「……はい、好きです。……ですが――」
「……そこまでで大丈夫ですよ。ありがとうございます、桜雪さん」
唐突な私の問いに、少し困った表情を浮かべ答える桜雪さん。……ちょっと、意地悪なことしちゃったな。
と言うのも――桜雪さんも私も、そういう意味では好きとは言えないから。恋人といってもほとんど成り行きだったし、仮にきっかけを説明しろと言われても中々に難しいし。
でも、それは互いに関心がないということでは決してない。ただ……きっと二人とも、人の愛し方なんてまだ分からないんだ。愛する資格がない――以前、桜雪さんはそう言っていたけど……失礼ながら言わせてもらうと、あの時の彼ではどのみち誰も愛せなかったんじゃないかな。きっと今だってそうなんだから。……まあ、私が言えた義理じゃないけどね。
だから、今の私達の関係は所詮傷の舐め合い――ただ、満たされぬ孤独を分け合うだけの関係でしかないのだろう。そして、そんな脆弱な関係を否定的に思う人もいるだろう。
それでも……それでも、きっと今の私達には必要なんだ。傷の舐め合いでしかなくても、互いにそれを許せる相手が必要なんだ。すぐじゃなくていい、今すぐじゃなくていいから……少しずつ、一歩ずつでも、二人の歩幅で進んでいって、いつか――
「――それでは、飲み物を用意しますね。ココアで宜しいですか?」
「はい、ありがとうございます」
――いつか、もっと強くなったら……ちゃんと、愛し合えるよね? 桜雪さん。




