もう一つ
「…………え?」
唐突過ぎる私の発言に、まるで雷に打たれたような表情で固まる夜野さん。……まあ、そうなるよね。もちろん、あくまで可能性の話であって絶対ではないし、私自身そうでないと信じたい。でも――
「――どうすれば良いかなぁ夜野さん! 私、こんなことになるなんて……なるなんて……」
気が付くと、彼のシャツを荒く掴みながらみっともなく縋り付く私がいた。身体はひどく震えている。つい先ほどまでどうにか装えていた平静な態度も、あっという間に霧散して――
「……どうか、落ち着いてください藤川さん。大変お話ししづらい件であることは承知しているつもりですが……それでも、お話し出来る範囲で構わないのでお聞かせ頂けませんか?」
そう、私の肩にそっと手を添え優しく尋ねてくれる夜野さん。すると、不思議なことについさっきまでの震えがすっかり止まっていて。……馬鹿だなあ、この人も。頼った私が言うのもなんだけど、ただの私の自業自得……彼には何の関係もないんだから、適当に慰めの言葉でも掛けて放っておけば良いのに。
それから、私は夜野さんの申し出に応じ話せる範囲で事の顚末を説明した。今から、一ヶ月以上前――二学期始業式の日の帰り道、普段はまず通らない路地裏近くで、知らない人達数人に話し掛けられた。ちょっと遊ばないか、と。そして、どうしてか……ほんとにどうしてか、私は断らなかった。迷いはしたものの、最終的に彼らに付いていく選択をしてしまった。
その後も、彼らとの関わりは続いた。とは言っても、それほど親密になったのかと言えばそうでもない。少なくとも、私の方では。なのに、どうしてあれほど頻繁に彼らとの夜遊びを続けていたのかというと……正直、私自身よく分からない。ただ、何と言うか……漠然とした不安だったり、時折襲ってくる得体の知れぬ痛みから逃げるためだったのだと思う。そして、その中では比較的仲の良かった一人の男性と、いつしか流されるままに――そういう関係を持った。
「……それで、その、言いにくいのですが……その、いつもの周期で来なくて……これって、やっぱり……」
「……なるほど。……その、大変お伝えしづらいとは思いますが……その、何日ほど過ぎておられますか?」
「……今日で四日、です……」
少し躊躇いつつ伝えた私の返答に、真剣な表情で思案してくれる夜野さん。それから、少し間があった後――
「……男性の立場から、おいそれと申し上げて良いことかは判断しかねますが……そういった周期は、体調不良やストレスなどにより変化することもあります。そして、四日であれば正常なズレの範囲内であり、妊娠の可能性が高いとまでは言い切れません」
「……そう、なんですね」
そう、私の目を真っ直ぐに見つめ伝えてくれる夜野さん。……そう、なんだ。私、てっきり……
「ともあれ、まずは検査をしてみましょう。その結果が万が一にも陽性でしたら、その際は産婦人科にて正式な診察を受けましょう。ですが、仮に陽性反応が出たとしても必ずしも妊娠とは限りませんので、どうか自暴自棄になることなく落ち着いて……というのは流石に難しいですよね。ですが、それでも心に留めておいて頂けると幸いです」
「……はい、ありがとうございます」
私の目を見つめたまま、真摯な表情で伝えてくれる夜野さん。何とかして、私の不安や恐怖を少しでも和らげようとしてくれているのがひしひしと伝わる。……だけど、それでもやっぱり――
「……それから、もう一つ留めて頂きたいことがあります。もしも――」
「…………え?」




