子どもと大人
「……分かったわ。百歩……いえ、千歩譲って貴方の言い分を認めるとしましょう。でも、つい最近成人したとはいえ、この子はまだ高校生――そんな限りなく子どもに近い相手とよもや交際関係になるなんて、世間からどういう目で見られるか分からないはずはないわよね?」
「お母さま! それは――」
「貴女は黙ってなさい、百桃。私達は今、大人同士の話をしているの」
「……はい、お母さま」
思わず口を挟んだ私を、射竦めるような視線と鋭い口調で黙らせる母。……これは、まずいかも。成人したとはいえ、私はまだ一介の高校生――そんな私と、既に立派な大人である夜野さんとの交際など、母の仄めかすように世間様から倫理観を疑われる可能性は否めない。そして、それはきっと私よりも――
「…………夜野、さん」
一人懸念に苛まれていると、ふと肩に柔らかな感触を覚え顔を上げる。すると、そっと肩に手を添え穏やかに微笑む夜野さんの姿が。……うん、大丈夫だよね、この人なら。
「……そうですね、お母さまの仰る通り、私の行いは多くの方々から非難を受ける可能性があるでしょう」
「あら、物分かりが良いじゃない。それなら、今すぐ関係を絶って百桃を私のところに――」
「――ですが、お母さまご自身も仰ったように、百桃さんは既に成人なさっています。なので、例え世間の方々――そして、お母さまがどのように仰っしゃろうとも、私達が交際を憚る理由は何一つありません」
「……っ!? でも、それは大人としての倫理に――」
「大人としての倫理に反する、でしょうか? ですが、繰り返しになりますが百桃さんは既に成人――即ち、立派な大人なのです。そんな彼女との交際に、いったい何の倫理的問題が生じるというのでしょう?」
「……それは」
「もちろん、お母さまがお望みであれば訴訟など起こして頂いても構いません。ですが、その際どちらが不利になる可能性がより高いか――聡明なお母さまであれば、お分かりにならないはずはありませんよね?」
「…………」
あくまで穏和な微笑で問い掛ける夜野さんを、唇を噛みつつ忌々しげに睨む母。反論したくても叶わない――そんな母の心中が容易に窺える。
そして、彼の言わんとすることは私も理解できる。例えどれほど世間から白い目を向けられようとも、私達の関係は何ら問題の生じる類のものではない。
だけど、もし母が私の意思に反し無理に契約を破棄させ自身の下に連れ戻そうとしたなら、それは私に対する選択の自由の侵害であり、保護者という子どもを護る立場であることを斟酌しても、母の方が不利な状況に陥る可能性は否めない。
それから暫し間があった後、母は夜野さんを――次いで私を見据え、重々しく口を開いた。
「……分かったわ。今日のところは引いてあげる」




