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イマジナリーフェリス  作者: 桜宮余花
第二章「私はあなたのことが」
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day21「一時帰国」

 柊が『フェリスのためだけに生きる』と決意した翌日。爽やかな朝、まだ寝ぼけ眼を擦っている柊のスマホに、とある人物からメッセージが届いた。



『お父さんと一緒に、久しぶりに帰国します』



 母親から届いたその一文を見て、柊はぽつりと呟いた。



「……お母さん、お父さん……」





 柊はフェリスの精神面のケアをしながら、両親が帰国する日を待っていた。両親に渡す用に、日本のお菓子をいくつか買った。



「柊ちゃんのパパとママってどんな人だっけ?」



 とある日の夕食中。少し元気になってきた様子のフェリスは柊に問うた。



「……あまり覚えてない。そもそもそんなに話したことないし。まぁ……悪い人達ではないと思う」

「そうなんだ……?」



 しかし沈黙が訪れ、二人の脳内に疑問符が浮かんだだけなのであった。



(お父さんとお母さんって、どんな人だったっけ。もう二年も会ってないし、元々よく話すわけでもないから……分からないな)



 白米と焼き鮭を咀嚼しながら、柊は考える。


 ──両親は仕事熱心な人達だ。それ故に、家事や柊の世話にあまり手が回っていなかった。家は基本的に汚かったし、食事を与えられずに飢え死ぬかと思ったことも数知れない。


 両親について分かることといえば、このくらいだった。両親に対して特に恨みもないが、愛情を感じるわけでもなかった。



「ふふっ。柊ちゃんのパパとママに会えるの、楽しみだな〜!」

(私は別に……そうでもないかも。特に好きなわけでも嫌いなわけでもないし……)



 楽しそうに猫耳をぴこぴこと動かすフェリスとは対照的に、柊の心は特に動かなかったのだった。





 両親の帰国予定日の数日前。柊のスマホに、またも母親からメッセージが届いた。



『急に仕事が入って、帰国できなくなりました。ごめんね』



 しばらくそのメッセージを眺めてから、柊はフェリスにスマホのメッセージを見せた。



「だって」

「え〜……残念だなぁ……」



 フェリスは猫耳としっぽをしゅんとさせた。心底残念そうな様子だった。




(……あれ)



 柊はふと、自身の胸の辺りを抑える。



(私も、結構……残念なような……)



 柊は小さく首を傾げた。いざ両親に会えないことが確定すると、なぜか寂しさを覚えたからだ。


 ふと、両親に渡す用に買ったお菓子が柊の目に入る。柊はそれを指差し、フェリスに言った。



「私、お菓子とか食べないし……フェリス、あれ食べていいよ」

「いいの……!? ありがとう、柊ちゃん!」



 フェリスはキッチン棚の隅に置かれたお菓子にとてとてと近付き、その中からポテトチップスを選び取ると、その筒状の箱をきゅぽんと開けた。


 リビングに戻り、ポリポリとポテトチップスを食べるフェリスを見ながら、柊はぼんやりと考える。




(どうして、残念というか……心が痛むんだろう)



 両親のことなど、はっきり言ってどうでもいいはずだった。


 小学生の頃、他の家庭では誕生日やクリスマスに、両親からプレゼントがもらえることを知った。柊は、ただの一度ももらったことがなかった。


 その時は悲しくなったが、世界には親から暴力や暴言を浴びせられている子供がいることも知っていた。柊の両親は、そんなことは一度もしなかった。


 だから柊は、特に両親を恨むことも好くこともなかった。



 全ての記憶を取り戻した今、柊は幼少期の家庭を思い起こす。


 住宅街の片隅に位置する、古く小さな一戸建て。

 リビングのソファで新聞を読む父親と、ガラケーを弄る母親。それを、膝に絵本を抱いて眺めている幼少期の柊。


 そこに会話が生まれることは、ほとんどなかった。



(……冷たい)



 柊は、率直にそう感じた。


 掃除が足りないことにより、窓から差す陽光に幾多の埃が舞っているのが見える光景だとか、座り込んでいたフローリングの冷たさを思い出した。


 それらを思い出して、柊は心臓が冷えるような感覚を覚えた。




 柊はふと、顔を上げる。レースカーテンから陽光が降り注いでいた。

 精々食事と睡眠を取ることにしか使っていなかった1DKのこの部屋は、フェリスが現れてからは──温かい場所になっていた。



「ふわぁ……」



 ポテトチップスを食べ終えたフェリスが、眠たげにあくびをした。白銀の髪と猫耳に陽光が反射して、きらきらと輝いている。



「……柊ちゃん?」



 そんなフェリスと、ふと目が合う。逆光の中で輝く紅玉色の瞳が綺麗だった。



「あ、いや……なんでもない」



 柊は、いつしかからからに乾いていた喉で返事をした。すると、フェリスが柊に歩み寄ってきた。



「ねぇ、柊ちゃん」

「……何?」



 フェリスは眉を下げて笑った。



「わたしは、ずっと柊ちゃんの隣にいるよ」

「……え」

「柊ちゃん、寂しそうな顔してたから。それに……」



 フェリスは座り込んでいる柊の真正面に、ぺたりと座る。



「わたし、柊ちゃんのこと大好きだもん!」



 そして、満面の笑みでそう言った。



(ずっと隣にいる、か)



 柊はほぼ無意識に、フェリスへ手を伸ばす。そして、その絹のような髪に優しく触れた。



「……言質、取ったからね」



 そして、フェリスに聞こえないようにそう呟いたのだった。

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