表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イマジナリーフェリス  作者: 桜宮余花
第二章「私はあなたのことが」
23/25

day20「真実」

「わたしは……死んじゃってたんだ」



 柊はフェリスの言葉に理解が追いつかずにいた。



(フェリスが……死んでいた?)



 思考が停止した脳内で、柊はふと数ヶ月前のフェリスの言葉を思い出す。



『──潰されたの』

『わたしは、昔……何かに潰されて。生きられなくなったんだ』



 それは、フェリスが四葉に会って倒れてしまった時に口走っていた言葉だった。



(もしかして……あの言葉と、関係がある……?)



 柊が考えを巡らせていると、フェリスが自分でも驚いている様子で──はっきりと言った。




「四葉ちゃんは──わたしのお姉ちゃんなんだ」

「……え?」



 柊はまたも、思考が追いつかなかった。そんな柊を置いて、フェリスはゆっくりと語り始める。



「パパとママ、四葉ちゃん──ううん。お姉ちゃんは……三人で暮らしてた。そして、ママのお腹の中にいたのが──わたし」

(もしかして……フェリスは、そこで……)

「わたしは、もう少しで生まれられるはずだった。パパとママとお姉ちゃんに、会えるはずだった」



 フェリスは悲しげに目を伏せる。



「でも……ある日突然、わたしはママと一緒に潰されて、生まれられなくなった。きっとパパも、潰されたんだと思う」

「…………」



 柊はフェリスに掛ける言葉が見つからず、ただフェリスを見つめる。フェリスは今までに見たことがないくらい、空虚な目をしていた。




(フェリスのご両親とフェリスは、潰された)



 柊は天井を仰ぎながら、静かに思考を巡らせる。



(フェリスだけが潰されたのなら、中絶かもしれない。でも……そうではない?)



 そして。とある考えに辿り着いた柊は、背筋にぞくりとしたものを感じた。

 

 

(──三人とも、亡くなった? 事故か、事件か……原因は、分からないけれど……)




 柊はそっとスマホを取り出す。そして、検索窓にそれらしきワードを打ち込んだ。


『事故 朝比奈』『交通事故 朝比奈』『千葉県柏市 交通事故 朝比奈』『千葉県柏市 事件事故 朝比奈』



「…………」 



『殺人事件 朝比奈』『千葉県柏市 殺人事件 朝比奈』



 そして検索トップに出てきた記事に、柊は目を見開いて息を呑む。



(──『朝比奈一家強盗殺人事件』?)



 柊は震える手で記事を読み進める。


 10年前の春。未明に、千葉県柏市に住む朝比奈一家で強盗殺人事件が起きた。

 犯人は『花園大河』という30代の男で、数日後に逮捕された。犯行の動機は『金が欲しかった。殺人に興味があった』というものだった。


 被害者は朝比奈家の父と母。そして、母親が妊娠していた胎児の女の子の三人。唯一生き残ったのは、当時小学二生で8歳の娘。



(……全部繋がった)



 重い真実を知った柊は、深く反省した。



(私……四葉のことを、知ろうともしていなかった。だから、過去にそんなことがあったことも知らなかった。もしかしたら、今まで……無意識に四葉を傷つけていたかもしれない)




 柊が俯いていると、啜り泣く声が耳に届いた。柊は思わず、ぱっと顔を上げる。



「ママ、パパ……お姉ちゃん……っ」

「……あ…………」

 


 柊はフェリスへ手を伸ばす。が、どうしたらいいか分からず、すぐに引っ込めてしまった。フェリスはたちまち、しゃくりあげて泣き始めた。



「どうして……!? わたし、お姉ちゃんにも、ママにもパパにも、会いたかった……! それなのに……っ!」

「フェリ、ス……」



 柊はただ、掠れた声でフェリスの名を呼ぶことしかできなかった。




 どのくらいの時間、そうしていただろう。いつしか柊はフェリスを抱きしめていた。柊の胸元は、フェリスの涙でぐっしょりと濡れていた。



「わたし……もっと、お姉ちゃんに会いたい」

「……もちろん。会いに行こう。できるだけ、多く」



 少し枯れた声でそう絞り出したフェリスの耳元で、柊は優しく囁いた。



(……ねぇ、フェリス)



 全ての記憶を取り戻した柊は、とある決意をしていた。



(私は……フェリスのためだけに生きる)



 そして、そのまっすぐな白銀の髪を撫でる。



(だから、フェリスも──ずっと、私のそばにいて)



 柊は、フェリスの両の猫耳の間に自身の顎を軽く乗せて、静かに祈ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ