嫉妬する令嬢は断罪される
短編、2作品目です。
「アウラ、貴様を国外追放する」
「えっ⁉」
第一王子のいきなりの宣言に私は驚いてしまう。
卒業パーティーの真っ最中の出来事である。
周囲にいた人たちは私と同じように驚いていた。
「お前は公爵令嬢という身分でありながら、俺の婚約者に嫌がらせをしていた。本当は死刑にしたかったが、カトレアが望んでいない。ありがたく思え」
「っ⁉」
王子の隣にいた女性に意識を向ける。
彼女を見るだけで悔しい気持ちになってしまう。
彼女は伯爵令嬢であり、公爵令嬢である私より身分が低い。
それなのに、第一王子の婚約者に選ばれたのだ。
当然、私は心の底から悔しがった。
第一王子と同年代で一番身分が高いのが公爵令嬢である私であり、当然婚約者に選ばれると思っていたのだ。
蓋を開けてみるとこの結果だったので、嫉妬しない方がおかしい。
「嫌がらせなどしておりません」
「しらばっくれても意味は無い。すでに証拠も集まっている」
「は?」
していないことで罪に問われたくはない。
一体、どんな証拠があるのだろうか?
「お前は大勢の前でカトレアを馬鹿にしていたな。第一王子の俺の婚約者なのに成績が悪い、マナーがなっていないなどとな」
「それは事実でしょう。いずれ国母となるのなら、優秀でないといけないのです」
「なら、個人的に言えば良かっただろう。そもそもカトレアに負けたお前に言う資格などないがな」
「ぐっ」
悔しげに口を噛んでしまう。
たしかに私には言う資格はなかったのかもしれない。
所詮は婚約者に選ばれなかった女。
いくら公爵令嬢という身分があったとしても──いや、あるからこそ余計に惨めなのだ。
「他にも、カトレアの教科書やノートを破ったり、落書きをした犯人達はお前の差し金だろう」
「何の話ですか?」
「お前と犯人達が話しているのも確認している。命令した黒幕なのだろう」
「話をしたからなんですか?」
たしかに犯人たちと話したことがある。
だが、この罪を否定するわけにはいかなかった。
私がしたのは犯人である令嬢たちに止めるように伝えたのだ。
彼女達は私の顔を立て、嫌がらせは止めてくれた。
だが、ここで私が否定すれば、せっかく更正した彼女達が罪に問われることになってしまう。
それは避けたい。
「認めないつもりか。まあ、いいだろう。それよりも一番の問題はお前が階段から落ちた件だ」
「それがなにか? その件について、私は被害者でしょう」
「カトレアを加害者にしたてあげるためだろう」
「そのつもりはありません」
私ははっきり否定する。
たしかに私と彼女は階段付近で会話をしていた。
もちろん、彼女にいろいろと注意するためである。
その後、私は不注意で階段を踏み外し、落ちて締まった。
幸い大怪我にはならなかったが、近くにいた彼女が加害者とされてしまったのだ。
「現にそうなっているわけではないか。だが、お前の目的はわかっている」
「どういうことですか?」
「カトレアを加害者に仕立て上げることで、婚約者にふさわしくないと周囲に思わせるつもりなのだろう? そして、空いたその席にお前が座る算段なわけだ」
「何を馬鹿なことを・・・・・・」
とんでもない理屈に私は呆れてしまう。
まさか第一王子がここまで馬鹿だとは思っていなかった。
私は今までこんな人が好きだったのか・・・・・・
自分の馬鹿さに涙が出そうになる。
「せっかくの宴の席をこれ以上汚されたくない。とっとと出て行け」
「・・・・・・」
第一王子の言葉に私は思わず睨み付けてしまう。
いくら公爵令嬢でも王族を殴るわけにもいかない。
せめてもの反撃である。
「衛兵、連れて行け」
私が動かないと判断し、指示を出す。
数人の衛兵達が集まり、私を取り囲む。
これ以上、何もできないようだ。
「少しお待ちください」
いきなりカトレア様が口を開いた。
今まで黙っていたはずの彼女がこちらにやってくる。
「アウラ様」
彼女は私に話しかけてくる。
最後に私を馬鹿にするつもりなのだろうか?
しかし、その表情は優しい微笑みだった。
同性の私でも思わず惚れ惚れしてしまうほどだ。
「私はアウラ様に感謝しています。あなたがいたから、私は令嬢として必要なスキルを身につけられました」
「え?」
いきなり感謝の言葉を告げられ、思わず呆けた声を漏らしてしまう。
一体、どういうつもりだろうか?
まったく意味が分からない。
「おい、カトレア。何を言って──」
突然のカトレア様の言葉に第一王子が慌てる。
彼女は振り向く。
表情は見えないが、怒っている雰囲気を感じる。
「こういうことよっ」
彼女はそう言いながら、スカートを破いた。
右脚が美しい弧を描き、振り上げられ──
(ボゴッ)
「はうっ」
急所を蹴られた第一王子は情けない声を上げる。
そして、そのまま力なくその場に倒れ込んだ。
そんな彼の周りに衛兵達が集まった。
「え?」
いきなりの出来事に私は頭が真っ白になった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
数日後、私とカトレア様は一緒にティーパーティーをしていた。
「まさか私が第二王子の婚約者になるなんて」
「順当なところでしょう。流石に王族の子種を潰すような女を婚約者にはしないでしょ」
カトレア様は自嘲する。
王族に手を出した彼女はそのまま捕まるかと思われた。
だが、その前に彼女はいろいろと手を回していたらしい。
彼女は第一王子から数々の贈り物を貰っていたらしいのだが、あるとき怪しいことに気がついた。
いくら王族でもたかが一介の王子にこれほどまで贈り物を用意できるのだろうか、と。
両手でも数え切れないほどのドレスや宝石など、合計で家が何軒も建てられるほどだったそうだ。
そこから彼女はいろいろ伝手を辿り、第一王子が国庫の横領をしていることに気づいた。
その内容を彼女は国王陛下と妃殿下に報告し、婚約解消をしてもらったらしい。
これが卒業パーティーの前日の話だったらしい。
第一王子を捕まえる話はあったのだが、それは当日まで待つことにしたらしい。
何かしでかそうとしてるとわかったので、事を起こしてから現行犯で捕まえることにしたのだ。
まさかこんなことだとは思っていなかったらしいが──
「まさか私のことを助けてくれると思わなかったわ。どうしてなの?」
私は純粋な質問を投げかける。
正直、私は彼女に嫌われていたと思っていた。
こちらは正論を言っていたつもりだが、言われる方はたまったものではないだろう。
だが、彼女は首を横に振る。
「言ったでしょう。私はあなたに感謝しているの」
「でも、面倒だったでしょう?」
「そんなもの、アウラ様に会えるんだから関係ないわ」
「え?」
突然の言葉に首を傾げてしまう。
一体、どういうことだろうか?
「私、アウラ様がタイプなの」
「は?」
衝撃の事実を告げられる。
意味が分からず、何も言えなかった。
「ねぇ、私を愛人にしてくれない? 同性だったら、第二王子様もとやかく言わないでしょ?」
「そんなことは・・・・・・」
美しい顔が近くに来て、私は顔を逸らしてしまう。
真正面から見ることができない。
逃げようとするが、すでに拘束されて椅子から立つことすらできない。
「私のこと嫌い?」
「うぅ」
不安げな表情で問いかけられる。
そんなことを言われ、肯定できるはずもなかった。
だが、受け入れて良いのかも悩んでしまう。
しかも、目の前には同性が羨むほどの美しい顔。
圧倒的な情報量に私の頭はパンクしてしまった。
作者のやる気につながるので、読んでくださった方は是非とも評価やブックマークをお願いします。
短編をまとめる場所を作りますので、他の作品も読んでいただけると幸いです。