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可愛い私の妹に婚約者を寝取られましたが、別にもういらないのでお下がりでよければ差し上げます【後日談追加】

作者: 佐佑左右

「エスティアお姉さま!」


 ここは王城の大広間。

 今宵開かれているのは王家主催の晩餐会。


 交流のある貴族と事務的な挨拶を交わし終え、一人でテーブル席の端っこの方でワインを片手に立っていると、可愛い私の妹であるゼシカが声をかけてきた。


 マロンペーストを思わせるセミロングにくりんとしたコバルトブルーの瞳は、イエローゴールドのロングヘアにエメラルドグリーンの瞳の私とは似ても似つかないが、それもそのはずだ。

 なにせゼシカは側妻の子、つまり腹違いの姉妹なのだから。


 そんなゼシカは隣に私の婚約者であるロイグを連れており、勝ち誇ったような顔をしていた。


 あれはよからぬことを考えている時の顔。

 この場でなにかする気かしら。

 晩餐会は退屈で仕方がなかったけれど、これはいい暇潰しにはなりそうね。


「どうしたのゼシカ。それにロイグも。あなた、私のエスコートを放っておいて妹と一緒にご登場なんてあんまりよ。それともまさかとっておきのサプライズでも二人でしてくれるのかしら?」


「サプライズ? ええそうですわね、エスティアお姉さま。ゼシカたちはお姉さまにとある大切なご報告がありましてよ。ですから、とっておきのサプライズといえばサプライズになりますわね。ねぇ、ロイ?」


 ゼシカから愛称で呼びかけられたロイグは一つ表情を引き締めると、私を見てこういった。


「エスティア、僕は真実の愛に目覚めた。だから君との婚約を破棄をしたい!」


 大広間に伝わるほど高らかな声での宣言。

 そのおかげで一瞬にしてフロアの視線が私たち三人に集中する。

 食事に舌鼓を打つフリをしつつ聞き耳を立て、明らかにこの降って湧いた見せ物を遠巻きに鑑賞する貴族たちのものだ。

 

 まあ、無理もないことではある。

 私だって逆の立場だったら、同じように観劇に興じていただろうから。


 それにしても婚約破棄とはねぇ。

 確かにこれはとんだサプライズだわ。


「突然の申し出でさぞ驚かれたことでしょうね。ですがつまりはこういうことですのよエスティアお姉さま」


 あらまあ、仲良く腕まで組んじゃって。

 まるで私にみせつけるかのよう。

 いやだわ妬けちゃうじゃない、……なんてね。


 側妻の子ということもあってか、ゼシカは私に対し妄執にも似た負けず嫌いなところがあった。


 私が学業で優秀な成績を収めれば妹も負けじと家庭教師を複数つけてなんとか足元に追いつき、剣術や馬術といった貴族の嗜みで好成績を残せば彼女もまた同じことをしようとする。


 もちろん勉学の時と一緒で、彼女一人では成し遂げることができないからお父様に優秀な指導者を用意してもらってかろうじて、といったところだけれども。


 だからこそ彼女は優秀な私に勝ちたいあまり、姉の婚約者を奪うなどという暴挙に出たわけ。


 まあ正直、虚しい努力だと言わざるを得ない。

 

 だって私は()()()()()()()()()のだから。


 卑しい下女の血を引く妹がどんな姑息な手段に打って出るのかを。


 あえて婚約者の不貞を見逃し、あまつさえ妹による誘惑が成功するように裏から手を回していたのは、他ならぬ私自身なのだから。


「あらエスティアお姉さま、先程から口をお閉じになってどうされましたの? もしかしてロイがお姉さまではなく、このゼシカをお選びになったことがまだ信じられませんこと?」


「本当にすまないエスティア、だが僕の気持ちは変わらないことだけは分かってくれ。この償いは必ずする、だから僕たちのことを認めてほしい」


 そうとは知らずにいまだニヤニヤと下賤な笑みを浮かべている妹と、親によってただ用意されたお飾りの婚約者に告げる。

 表向きは理解のある姉を演じて、ね。


「……二人が愛し合っていることは分かったわ、どうやら私が入り込む余地はないようね。だからその婚約破棄の申し出は有り難く受け入れるわ、安心して頂戴」


「寛大なご決断に感謝申し上げますわ。結果的にゼシカがエスティアお姉さまの婚約者を奪う形になってしまいましたが、その代わりお姉さまの分までロイと幸せになりましてよ」


 その瞬間、妹は明確に『勝った』という表情で私を見た。

 彼女の心境を察するに、ようやく長年の屈辱を晴らすことができた、といったところかしらね。


 でも、果たしてそうかしら?

 だってほら――。


「エスティア嬢、今しがたの言は本当か⁉ ならば婚約破棄が正式に成立した暁には是非我がルブラ子爵家と改めて婚約を交わしてほしい!」


「おい、子爵風情がこのアンス伯爵家の嫡男より先にエスティア嬢に求婚するとは何事か!」


「ふぅむ、爵位を語るならハウ侯爵家次男の私を差し置いて麗しきエスティア嬢に声をかけないでもらえるかな。邪魔なのだよ」


「それならばハウ侯爵家の嫡男であるこの我輩のことを忘れてもらっては困るな愚弟よ。控えろ、エスティア嬢に求婚をするのは兄である我輩だ」


 口々に声をかけてくるのは今宵の晩餐会で挨拶を交わした貴族たちだ。

 というのも彼らは総じて私に気があったもののロイグがいたために縁談を諦めていたのだ。

 しかしそれも今回の婚約破棄騒動によって問題が解決するめどが立ったため、こうしてフリーになった私の争奪戦が始まったというわけだ。

 もちろんその中には――。


「いや、待ってくれ!」


 喧騒の真っ只中にあっても響く、凛とした声。


「あ、貴方様は……?」


「まさかこの争奪戦にあの方まで参戦するのか⁉」


 人だかりをかき分けるようにして私のところにやってきたのは、この国の第一王位継承者にして私の隠れ幼馴染でもあるリチャード王子だ。


「僕はずっとエスティア、可憐で美しい君に好意を持ちつつもしかし王家とも親交の深い公爵家のロイグのこともあり、半ばこの恋は諦めていた。けれど幸か不幸か君は衆目の前で彼から一方的に婚約破棄を切り出され、そして潔く受け入れた。つまりこれは僕にとってまたとない、千載一遇のチャンスなんだ!」


 ざわざわと更に動揺が広がる。

 妹はこの光景に言葉を失い、ロイグにいたっては目の前でなにが起きているのかといった表情で呆気に取られている。

 そんな二人に当然構うことなくリチャード王子は続ける。


「だからエスティア、どうか他の者ではなくこの僕と新たに婚約を交わしてほしい」


 私の前で片膝をつき、手を差し出すリチャード王子。

 その意味は王国式の求婚の証。

 かねてから待ち望んでいたこの行為に、自身の頬が緩むのを感じる。 

 だから私は一切躊躇うことなく彼の手を取る。


「はい、喜んで。敬愛するリチャード殿下からの婚約の申し出、謹んでお受けいたしますわ」


 私がリチャード王子からのプロポーズに答えた瞬間、フロアは拍手と歓声に包まれた。


「エスティア嬢のお相手がリチャード殿下ならば潔く身を引くしかあるまい」


「くぅ、短い希望であった……。エスティア嬢、どうか末永くお幸せに」


 衆目の前で妹に婚約者を奪われた悲劇のご令嬢から一転、ひそかに横恋慕されていた王子により求婚された天運に恵まれた令嬢に早変わり。


 これが本当のサプライズというもの。

 しょせん妹の企てた企みは私の華麗な逆転劇の前座でしかない。


 幼い頃から私とリチャード王子は相思相愛の仲だった。

 このことは私たち以外誰も知らない。

 知られないようにしていた。


 理由は単純。

 将来の政略結婚相手に、異性としてなんら興味の持てないロイグが既にあてがわれ、私は望まぬ結婚を物心ついた時から強いられていたからだ。


 由緒正しき貴族の嫡女として、その責務からは決して逃れられない運命。


 しかしこの秘められた恋心は燻るどころか時が経つにつれ、より一層燃え上がっていった。


 だから私はある計画を考案し、実行に移すことにした。


 それはロイグの方から婚約破棄を申し出るように誘導し、政略結婚の相手を私ではなく妹に差し替えることだった。


 当初ロイグに対してその気はなかった妹を焚きつけることは、とても簡単だった。


 なにせ妹は異常なほどの負けず嫌い。

 そこをちょっとつついてやるだけで、驚くほど簡単に彼女は私の意のままに動いてくれた。


 奥手で女性に免疫のなかったロイグと初体験を強引に済ませ、私から婚約者を寝取ることに成功したとはしゃいでいた妹の姿は実に滑稽で、笑い堪えることに苦労したわ。


 彼女が内心ロイグのことをどう思っているかは分からない。

 とはいえ、このような大勢の貴族が集まる場であれだけの宣言をしてしまったのだ、今更それをなかったことにするのはお父様が確実にお許しにならないだろう。


 そしてロイグもまた、望まないことだろう。

 だってこれは真実の愛だそうから。


 ……さて、そのおかげで私もこうして誰に憚ることなく公然と初恋のリチャード王子と結ばれるのだから、本当に妹様々だ。


 ()()()()の妹であるゼシカ。

 いまだ茫然と固まっている愚かだけど愛おしい彼女に近づき、そっと耳打ちをする。


「姉妹揃って婚約が決まるだなんて喜ばしい限りだわ。そうだ、どうせなら同時に盛大な結婚式を執り行いましょうか」


「お、お姉さま……?」


 先程まで勝ち誇っていた顔も今や見る影もなくただうろたえる妹に、この世の不変にして絶対的な真理を最後に説いてあげることにした。


「姉より優れた妹はいないのよ。だからあなたは私の元婚約者(おさがり)をせいぜい大事にして頂戴な」


 ◆


「……はあ」 


 先ほどまで熱に浮かされたかのように興奮していたゼシカは、王城から自分の部屋までどうやって帰ったか覚えていなかった。

 なにせあのパーティー会場で行われたエスティアによる逆サプライズは、一瞬でゼシカをその日の主役からただの引き立て役へと仕立てあげられてしまった。

 ロイグとのことは祝福こそされたものの、どう考えてもあれはこちらの負けである。


「もう結構よ、下がりなさい」


 侍女に部屋着に着せ替えさせてもらった後は部屋からさっさと退出してもらい、そのままゼシカはバフーンと勢いよくベッドにもたれこんだ。


「……さ」


 そのままうつぶせになり、盛大にざまぁされた悔しさから唇を噛み締め――。


「さ、ささささささっ」


 唇を噛み締め……?


「さいっっっっっっこうですわっ、エスティアお姉さまぁぁぁぁぁっ!」


 ――いや、喜色満面の笑顔のまま奇声を上げた。


「はああああんっ♡♡♡♡♡♡、今度こそお姉さまに婚約者NTRマウントを取れたと思ったのに、まさかあそこから形勢逆転されるだなんて予想もしてませんでしたわぁぁぁぁぁっ!」


 今度は枕を抱きしめてワニのようにデスロール、は表現が可愛くないからロールケーキのようにベッドの上で左右にコロコロと転がる。


「はーっ、はーっ、うへぁ、さしゅっ、さしゅがこのゼシカが唯一お認めになり、恋にも似た憧憬を抱くお方、そう簡単には超えさせてはもらえませんのね! ああそうですわ、委細を忘れてしまう前に早く文章にしたためておかないと!」


 再び顔を上げたゼシカは恍惚そうによだれをたらし、もはや人様には見せられない表情を浮かべながら、すぐにお姉さま観察日記(200冊目)にサプライズパーティーの件を記載する。


 ……そう、なんてことはない。

 ゼシカはエスティア大好きっ子なのだった。


 だからことあるごとに(自分からお姉さまを取り上げる行為が)ずるいずるいと姉の真似ばかりをし、そんな姉にマウントを取って(妹に負けた悔しさから)いつまでと自分だけを見てもらおうと躍起になっていたのである。


 そしてようやくロイグをゲットし、今回こそは勝てるかと思ったのにあの様だ。

 これでは次の手をさっそく考えなければならない。


「そうと決まればロイにも改めて協力をお願いしておかないと。……ふふふ、待っていてくださいましエスティアお姉さま、いつの日か必ずあなたにギャフンと言わせてみせますわ!」


 などとポジティブなんだかネガティブなんだかよく分からない決意を固めるゼシカであった。


 ――ちなみにその後の話だが、かねてからのエスティアの要望通り姉妹同時に結婚式を挙げることになり、そこでゼシカが姉を泣かせる感動的な手紙を朗読するつもりだったが、逆にエスティアからの『私の()()()()へ』というフレーズから始まる手紙にむせび泣いて体から液という液を流して脱水症状を起こし、出席者への美しい姉妹愛アピールに利用されたことは言うまでもない。

 そのため最近では子供の数でマウントを取ることに決めたらしく、ロイとはお互いを尊重しなんだかんだで夫婦円満な生活を続けながら、懲りずに何度も妹が挑んでくることにまんざらでもなさそうなエスティアと競い合うかのように子宝に恵まれているのだとか。

 この作品は昔公開したことのある物を再掲載したものです。

 なのでせっかくだからとざまぁされた妹のその後も描こうかとも思ったのですが、蛇足のような気もして今回見送りました。

 もし読者様から需要があればその部分も追加することも考えましたがさてどうなんでしょうかね。

 少しでも本作を気に入っていただけたら、作者のモチベーションに繋がるのでお気に入りユーザ登録にブックマークや感想、すぐ↓から作品の評価をしていただけますと幸いです。


 追記

 せっかくランキング上位に上がらせていただいたので蛇足かもしれませんがお試しでゼシカのその後を追加してみました。

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 物語を最後まで読めばきっとすぐに読み返したくなる新作『「タマ、お前とはこんにゃく破棄だ!」大事な場面で盛大に噛んだ。』←こちらのリンクから飛べますので是非応援よろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
妹視点があってこそ完成された作品。 なければよくある「ざまあ」もの。 ある種、喧嘩するほど仲が良い、というか、彼女たちなりの、「愛ある」「楽しい」コミュニケーションというところでしょうか。
ゼシカの後日談のところを読むまでロイグ腹黒い姉とバカな妹に 気持ちを利用まれて気の毒すぎないか?と思っていたのが一気にさわやかな気持ちになれました。
[一言]なーるほど、私の可愛い妹じゃなくて、かわいい私の、妹っていうことだったのかぁ
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