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戦う理由




 身体の自由がようやく戻った頃、俺達は王城へと急いだ。

 王都で起きた粛清会との一件を、国王へ報告する必要がある。


 自分が死ねば周りを身代わりにする《恋人》のメルフィアと、自分の言葉を現実のものにする《節制》のノルゼイン。

 奴らは俺を勧誘し、テレシアを攫っていったと伝える。


 報告を聞いた国王は、苦々しい顔で舌打ち混じりに言う。


「……分かった。こちらでも、対策を考えよう」


 だが、国王自身も策があるわけではないことが見て取れた。無理もない、相手は、国や都市をいくつも滅ぼしてきた化け物なのだから。



ーーーーーーーーーーーーー



 俺達は王城の一室を借り、深刻な面持ちで顔を突き合わせる。


「で、どうすんだよ」


 スカーレが苛立ちを隠せない様子で呟く。だが、俺もレオンハルトも返事をしない。というより、できないのだ。


 彼らは無敵と言っていい。まず、《恋人》のメルフィアに関しては相死相哀そうしそうあいが問題だ。下手に攻撃すれば、こちら側が甚大な被害を受ける。


 それだけじゃない。《節制》のノルゼインも、言葉だけで現実を捻じ曲げる力を持っている。奴に何かを喋らせるだけの猶予を与えれば、全て奴の思い通りになってしまう。


 そして、俺はそんな連中に狙われている。仲間になるか、あるいは殺すか。彼らにとってはそれだけの話らしい。


「……《恋人》のメルフィアはどうにもならんが、《節制》のノルゼインだけは倒せるんじゃねぇのか? あいつを倒しても周りに被害はねぇだろ」


 スカーレが希望的観測を口にする。

 確かに、メルフィアと違って「倒したら周りが死ぬ」というタイプの能力ではなさそうだ。

 

 だが、レオンハルトは厳しい表情で首を振る。


「たしかに、《恋人》のメルフィアよりは倒しやすいと思う。だけど、彼の能力も厄介だ。おそらく、彼が『死ね』と命じたら、僕達は死ぬ。

 そして、テレシアがいない以上、回復が間に合わない。死んだ後、復活することもできない」


 確かに、テレシアという絶大な回復魔法が使えるヒーラーがいないのは痛い。

 俺達の中で、最も命綱として機能していた仲間を失った状態では、無謀な突撃はむしろ自殺行為だ。


 するとスカーレは腕を組んで考え込み、ぽつりと言う。


「……ひとまず、テレシアを確保して逃げるっていうのはどうだ? まずはあいつを取り戻して、あたしらの戦力を整える。そこから逃げながら策を考えるのもアリかと思うが」


 その案に対し、レオンハルトはすぐさま反論した。


「スカーレ、一つ大事なことを忘れてる。粛清会は既にこの国に宣戦布告をしている。この国を滅ぼすつもりなんだよ。

 今この国が無事なのは……レインを仲間にする余地があるからだ。仲間にならないと分かったら、即座に粛清を開始するんじゃないのかな。

 つまり、ここで僕達が逃げ回ったら、国は守れない」


 スカーレは悔しそうに唇を噛む。俺も言葉を探すが、決定的な方針が出てこない。


「だから……結局、明日までに粛清会を倒すしかないんだ。だけど、僕達だけじゃどうにもならない」


 レオンハルトの視線が俺に向けられる。


「レイン、君にも一緒に戦ってほしい。

 面倒だろうし、君一人ならきっと生き延びることはできると思う。残業も深夜業務もきっと嫌だよね?

 だけど、この国がピンチなんだ。一緒に戦ってくれないか?」


 彼は頭を下げた。Sランクギルドのギルドマスターである彼が、必死になって頼んでいるのだ。


 正直、煩わしい。引きこもっていたい。余計なリスクなんか取りたくない。粛清会の勧誘に乗ってしまえば、この面倒から解放されるかもしれない。

 だけど――。


「もちろん、一緒に戦うよ」


 俺は短く即答した。


 スカーレとレオンハルトは、まるで信じられないものを見るように目を丸くする。


「はぁ⁉︎ 本当かよ!?」


「いつも時間外労働が嫌いだって言ってたのに……?」


 レオンハルトが遠慮がちに口を開く。俺は思わず苦笑した。


「そりゃ、時間外労働は嫌いだよ。だるいし、めんどくさいし、楽したいって思うさ。

 でも……あいつらは見逃せねぇ。粛清会の考え方は、残業よりもずっと嫌いだ。人を滅ぼすことを正当化して、しかもそれが名誉なことだと思っている。

 どれだけ才能があっても、そんな考え方は胸くそ悪い。何より……」


 俺は思ったことを正直に、言葉に込めた。


「テレシアを助けよう。あいつは、俺達の大事な仲間だ」


 国を守るためとか、粛清会を倒すとか、そんなことよりもっと単純な理由。

 仲間を助ける、戦う理由はそれだけでいい。スカーレやレオンハルトも、本心ではそうなのではないか。


 一瞬の沈黙。そして、スカーレとレオンハルトは黙って目を合わせる。


 そして、スカーレが大笑いして俺の背中を思い切り叩いた。


「よく言った! お前も漢じゃねぇか、見直したぜ!」


 背中を叩く彼女の腕力が凄まじすぎて、他の人間なら死んでいるかもしれない。俺だからギリギリ耐えられるのだ。


 レオンハルトも安堵の表情を浮かべて「ありがとう」と微笑む。その笑みに、俺はなぜか照れくささを覚えた。


 そして、レオンハルトは一転して真面目な顔に戻る。


「二人とも、聞いてほしい。作戦を思いついたんだ。《恋人》と《節制》を同時に倒し、テレシアを助ける作戦が」


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