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第10話 ここまでの流れを振り返っての最終的な結論

 こうして、駿甲相三国同盟は、武田家の「駿河侵攻」によって完全崩壊することになりました。


 その後、武田家と松平、織田家の一次的な協調が行われたり、今川家救援の動き等が絡み合った結果、長年に亘る宿敵関係にあった上杉家と北条家が、北条三郎(後の上杉景虎)が上杉謙信の姪(上杉謙信の姉の子、上杉景勝の同父母姉妹(尚、姉か妹かは現存史料から不明)の婿になって、上杉謙信の養子になることで攻守同盟を締結したり、する等の大きな動きが起きていき、そうしたことが、更なる動きを徐々に引き起こしていく、という事態になるのですが。


 それは、このエッセイの本来の意図からは、完全に外れることになるので、武田家の「駿河侵攻」が起きた時点で、私としては、このエッセイを終えることにします。


 それにしても、こうして時系列を追って、義信事件の勃発から、武田家の「駿河侵攻」までを眺めて考えてみると、確かに義信事件の背景として、対今川外交政策変更についての父子対立があったという旧通説には疑問を覚えてなりません。


 本当に旧通説の通りならば、何故に義信事件が起きた時から、「駿河侵攻」までに2年という歳月が流れてしまったのか。

 更に言えば、今川家の塩留め等の対武田経済制裁が何故に遅くなったのか等、疑念を覚えます。

 そして、武田家と今川家の同盟を完全に破棄することになる、嶺松院の駿河への帰国にしても、今川家の方から求めたことであり、本当に信玄が「駿河侵攻」に積極的ならば、「義信事件」勃発後に速やかに嶺松院を武田家の方から今川家に送り返したのではないか、とまで思われるのです。


 こうしたことまで考えていくと、黒田基樹氏等が主張する、義信事件は武田家内部の問題から起きたという新説の方が、確かにありそうな話だ、と考えます。

 もっとも、この新説には状況証拠しか無く、具体的な当時の一次史料等によって裏付けが取れない、状況証拠から、そんなことを言って良いのか、という批判が為されており、そういった批判が為されるのは当然だ、とも私も考えます。

 ですが、旧通説よりも新説の方が、私としては妥当性が高い、と考えるのです。


 後、余談に近い話ですが。

 今川家の塩留めに、上杉謙信が同調せず、「敵に塩を送る」ことにしたという逸話があります。

 ですが、これについては、その裏付けとなる当時の史料は無く、最も時代が近いモノにしても17世紀末になってから、つまり100年以上後に編さんされた史料にようやく出て来るそうです。

 更に言えば、その当時の史料に因れば、謙信は塩留めによって、甲斐や信濃の塩が値上がりしないように、従前の価格のままで売るように指示したとのことです。

 

 それが時が流れるにつれて、謙信が信玄に無償で塩を贈った等の美談、逸話に変化したとか。


 尚、今川家の塩留めについては、当時、今川家の配下にあった葛山家に因る塩荷を甲斐に送らないように指示する史料があるので、その事実自体はあったようなのですが、この史料にしても、偶々、現地で何らかのトラブルがあって、葛山家が独自の判断で塩荷を止めただけの可能性があるとのことです。

 その史料には、今川氏真の指示に因るとは書いていないそうです。


 実際、私なりに考える程、塩留めという行為には疑念を覚えます。

 武田家の領土は、今川や北条、上杉以外に、織田や松平(徳川)等とも領土が接しており、又、信濃の隣国の越中に至っては武田家と親しい本願寺がほぼ迎えているのです。

 こうした中で、塩留めを今川や北条、上杉が行ったとして実効性があるでしょうか。


 葛山家が独自にやったことが波紋を広げた結果、武田と今川の仲を更に割いた可能性はあると私は考えます。

 

 この後、武田勝頼に関する補遺を1話、投稿して完結します。


 それにしても、状況証拠しかない、というのは本当に厄介です。

 小説と現実を混同するな、と言われそうですが、先日、私が「戦国に皇軍、来訪す」の中で、全くの赤の他人なのですが、状況証拠的には、どう見ても織田美子と鷹司(上里)美子が秘密の祖母と孫娘にしか見えない関係に。

 そんな感じで、状況証拠からの判断が正しいか否か、それこそ永遠の謎にこの件もなりそうです。


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 通読させていただいて思ったのですが、なぜ『旧通説』と『新説』を対立的に捉える必要があるのかが良くわかりません。  私としては、別に対立させる必要はないと思うのですが?  まず、信玄の書状を参考にす…
 状況証拠は「そうだとしか思えない」けど確かな一次資料が存在しないのが二の足を踏ませる( ̄∀ ̄)ココで「思考実験めいたエッセイなんだから大胆に断を下そう」って飛躍しちゃうのがトンデモ作家さん達の愉快な…
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