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第7話 伯爵令嬢は幼馴染を籠絡したい1 【ルイ(本物)視点】



◆ルイ(本物)視点◆




 ――僕がその、とんでもない発言を耳にしたのは。


 この秋から進学することとなった、ハイベルク寄宿学校への入学を直前に控えた、ある日のことだった。


「――は? 何言ってるのルネ?」

「だから……。学校に行くのを、私と変わってほしいの」


 おそらく彼女は、父親と言い合ってから真っ直ぐこの部屋へと直行してきたのだろう。

 いまだ興奮の冷めやらぬといった様子の、双子の妹のルネことルネットが、憤然とした様子でそう言ってきた。


「……うち、男子校だよ?」

「そんなのわかってるわよ。でも、それくらいしないとあの《《馬鹿父》》を反省させられないじゃない」


 馬鹿父、というのはまあ、いちいち説明するまでもないが僕らの父親のことだ。

 ルネを溺愛している父は今、彼女のためにと選りすぐりの婚約者候補を用意したことで、逆に彼女の怒りを買ってしまっていた。


「『婚約とかまだ待ってほしい』ってこっちが一生懸命お願いしてるのに、『なんでだ、どうしてだ』って。なんでだじゃないでしょ。娘が待ってほしいって頼んでるのに、どうしてそんなに焦って話を進めようとするのよ」

「あ〜……」


 眉間に皺を寄せながら父に対するいきどおりをぶつけてくるルネに、多分この家で一番この状況を察している僕が『そういうことか』と納得する。


 ルネは――、妹は。

 うちの隣に領地を持つ侯爵家の息子の、幼馴染ユーベルのことが好きなのだ。

 ルネが僕に向かってはっきりと『ユーベルのことが好きだ』と言ってきたことはなかったし、鈍感な当の幼馴染ユーベルの方は妹の想いに全く気付いてはいなさそうだったが、向こうだってルネのことを憎からず思っているということははたから見ていてもわかった。

 こちとらずうっと二人の隣で、そのやりとりを見てきているのだ。


 ――もう、とっととくっつけばいいのに。


 そんな生暖かい目で二人を見つめていた僕だったが、どうやらそれよりも先に父の方が痺れを切らしてしまった様だった。


 ――ルネがユーベルに抱いている恋心に、父がどれくらい気付いているのかはわからない。


 しかし、溺愛する娘が小さな頃から父親である自分よりもユーベルが好きだと言ってはばからないことに対して、ヤキモチを焼いているのは知っていた。


 物心ついた娘に『大きくなったらパパと結婚する!』と言われることを楽しみにしていた父が、結局それを娘から言われることなく『おおきくなったらユーベルとけっこんする!』と言われてしまったことも、根深い恨みのひとつとなっているのだ。


 だからまあ。

 父がこうして、ルネに婚約者をあてがおうとしているのは、ある意味ユーベルに対する意趣返しの意味もあるんだろうなあ……。


 いや。

 でも、だけど。


「……それにしたって。いくらなんでも男子校に行くって言うのは無謀すぎない? 仮にも女の子なんだし」

「仮って何よ。正真正銘女の子よ」

「普通の女の子は、いくら父親と喧嘩したからって男子校に行くとは言わないの」


 ほんとにさあ。

 我が兄妹ながら、発想が突飛すぎるんだよ。

 そもそも、仮にも女の子がひとりで男子校に行くとか、怖いという意識がないのだろうか?

 ――いや、ないかもしれないな。ルネの場合。


「……だって、その学校。ユーベルが行くとこなんでしょ?」

「……そうだけど」


 ……ははあ。

 なるほど。なんだか先が見えてきた。


「…………」

「いや、なんでそこで黙り込むのさ」

「ルイばっかりずるい。私だってユーベルと同じ学校に行きたい」

「…………ずるいって言われてもね」


 僕だって、大陸最難関と言われるあのハイベルク寄宿学校に受かるために、それなりに努力したんですけど。

 まあそれでも、ユーベルやルネほど頭が良くない僕は補欠合格でなんとか入学が許された立場だったので、入学してもそれからがしんどいなあとゲンナリしていたのは正直なところだった。


「わかってるわよ。ルイが一生懸命勉強したのは。でも、私はどんなに勉強頑張っても、同じ学校には行けないもの」

「…………」


 ルネが。

 《《あの》》ユーベルに追いつくために、日々勉強を頑張っていたことは僕も知っていた。


「……ねえ。これは私にとっても賭けなの」

「賭けって何さ」

「もしユーベルに、私がルイじゃなくルネだってバレて。事情を説明しても『帰れ』って言われたら、大人しく帰ってくる」

「バレなかったらどうするの」

「……ユーベルのそばにいて、なんとか私のことを好きになってくれる様アピールする」

「……それって、僕の格好でアプローチするってこと?」

「そこは! うまくやるわよ……」

「ほんとうかなあ……」


 ルネが自分の姿でユーベルに《《しな》》を作ってアプローチしている姿を想像して、なんとも言えない気持ちが込み上がった。


「なに、疑うの?」


 私が本気でやるって決めて、できなかったことなんてないのはルイだって知ってるでしょ、とルネが目だけで雄弁に語ってくる。


「……まあいいよ。そんなに言うなら」

「……ほんと!」


 ルネの圧に折れて、僕がため息混じりに了承することを告げると、ルネが嬉しそうに僕に飛びついてきた。


「うん。正直、僕も別にあの学校に執着があるわけでもないしね。それに、ルネが僕の代わりにあそこで成績を出してきてくれると将来的には助かるかな」

「いいわよ。成績はこれでもかってくらい上げてきてあげる。そのかわり、お父様のこと頼むわよ」

「はいはい」


 なんだか面倒ごとばかり押し付けられている様な気がしないでもないが。

 それでも、この状況をちょっと面白いと思えてしまうあたり、やっぱり僕もルネと双子で、どこまでも同類なのだと思ったのだった。


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