第6話 幼馴染との同室生活は快適です4
――ルネがいつもの癖で寝ぼけて俺のベッドの上に倒れ込み、上掛けを奪ったまま眠ってしまった翌朝。
「……あれ? これ、ユーベルの……?」
先に起きて着替えを済ませていた俺に、ルネがまだ寝ぼけた様子で瞼をこすりながらそうつぶやいた。
「……お前、夜中トイレに起き出した時に、間違えて俺のベッドの上に乗っかってきて、そのまま俺の上掛けを持ってったんだよ」
「……………………」
そう言うとルネは、手元の上掛けをまじまじと見て、それからゆっくりと俺のベッドの上にある自分の上掛けに目をやった。
「…………ごめん」
「いいよ。別にさほどのことでもないし」
起きたばかりで寝癖がまだぴょこぴょこと飛び出したままのルネは、そうして自分の手元にある俺の上掛けを手に取ると、何を思ったのかその上掛けに鼻を近づけた。
「…………なんか、ユーベルのにおいがする」
「あのなあお前謝ったばっかのくせして喧嘩売ってんのかこのやろう」
売るなら買うぞ、と少し鼻息荒くルネに答えてやると、なぜかふはっと笑いを漏らしたルネが、俺の上掛けに顔を寄せながら「……ごめん」と言った。
「お前ほんとに……」
「そっちじゃなくて。昨日のこと」
…………昨日?
「嫌な態度とっちゃってごめんね。ユーベルは悪く無いのに」
――ああ。
昨日ルネが、俺に対して拗ねた態度をとっていたことか。
その事について今謝ってきているのだとそう気付いて、とりあえずこれで冷戦は終わりかとほっと胸を撫で下ろす。
「……いつものことだろ」
「そんなことないでしょ。いつもはもっといい子でしょ」
「どうだか」
俺の軽口に、ルネがほんわりと笑顔をこぼす。
――こんな風に軽口を叩き合えるのは、仲直りできた証拠だ。
いつまでもルネから冷たくされる状態が続くのも辛いところだったので、こうして無事、いつもの調子に戻ってくれたことが心から嬉しかった。
そうして、
「ん」
と言ってルネがこちらに両手を伸ばしてくるのを見て、意図を理解した俺はその手を取って引っ張り起こしてやる。
引っ張り起こした時のこいつの体重の軽さと、立ち上がった時、俺のすぐ胸元にルネの顔が来たことに、なんだか妙にどきりとした。
「……はあ」
しかしルネの方はというと、そんな俺の内心の動揺にも気付かずに、ため息をつきながらペタペタと素足で床を歩いていくと、手に持っていた俺の上掛けと俺のベッドにあった自分の上掛けを黙って入れ替えた。
「……まだまだ、ぜんぜんだめだな……」
「……何か言ったか?」
背中越しに、ルネが何やらつぶやいたのが聞こえてきたが、なんと言ったのかは正確に聞き取れなかった。
「……なんでもない」
俺が問い返したところで、結局ルネから「なんでもない」と言われたことで、結局そのことはそれきりになってしまったが。
その後ルネから「素足で床を歩いたら足が冷えちゃったから、ユーベルあっためてよ」と言い放たれ、ベッドに腰掛けて当然の様に足をふりふりしだしたので、「靴下でも履いとけ」と言って靴下を投げつけてやった。
そんな、マイペースに無自覚に、俺を振り回してばかりの幼馴染をそれでも可愛いと思ってしまう俺は。
自分でもどうしようもないなと思いながらも――、それでもルネが笑って隣にいてくれることに、嬉しさを感じてしまうのだった。