「バルバトとラファーム」(後)
茶系の石壁の宿に入ると、
「ようこそバルバトへ」
「ようこそエリスへ」
と、作務衣風の服にエプロン姿の、中居さんだと思われる男性たちに声を掛けられた。
「貴方がた、全員女性のようだが」
少し頭の禿げた年配の中居さんが、ぼくを数に入れずに言った。
「ウチで良いんだね?」
変に思い、聞いてみると、バルバトは男ばかりの街。
そして向かいのラファームは、女ばかりの街だと言う事だった。
「そう言えばバルバトに入って、女性に出会わなんだのう」
と、フーコツ。
「噂に聞くアマゾネス?!」
声をを高くするミトラ。
「それじゃ、こっちはタマゾネス?!」
「あ、ああ。俗称だけど、そうとも言うね」
予約表と、ミトラの出す身分証を確認するおじさん。
「『蛮行の雨』御一行様、四人と一台。ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」
部屋に案内されながら、
「一本眉の接待のおじさん、あたしたち、光の盾を強化する護符が欲しいんだけど、良いお店知らない?」
容赦なく人的特徴を突くミトラ。
「おう。店はあるが、ウチの街には男性専用しか置いてないよ。向かいのラファームに行った方が良いね」
「女性専用の強力なのがあるの?」
と、ミトラ。
「うむ。男女兼用とかのいい加減なヤツじゃなくてな」
と、おじさん。
「えっ? 男女両用って、いい加減なの?」
さらに突っ込むミトラ。
「まあ、性別や種族に特化したのは、強力だよ。その分、高価になるがね」
「大きな街では……」
と、一緒について来たエプロン姿の若者が言った。
突如現れた美人たちに興味津津の様子だ。
「性別や種族に関係なく売れるように、万族万能型ばかり揃えているそうだけど、その方が回転が早くて、儲かるからなあ」
「ただ、万能型の分、能力値も平凡になるね」
と、おじさん。
自分たちの部屋を確認した後、荷物はぼくの収納庫に全て入っているので、
「このままラファームに護符を買いに行こう(ミトラ談)」
と言う事になった。
宿にその事を伝えると、一本眉のおじさんは心配したのか、
「わしが案内しよう」
と、言った。
いや、「言ってくれた」と言うべきか。
「ぼくも!」
と、部屋に付いて来た若者も叫んだが、
「仕事があるだろ、メンスン」
と言われてしょげた。
「かわいい」
と、つぶやくミトラに、ぼくはお姐さんを感じた。
(そうだよな、見た目はともかく、百歳だもんな)
ぼくは自分に、改めて言い聞かせたのだった。
そして、一本眉のエプロンおじさんに導かれて、ラファームの街に入った。
なるほど、こちらは女性ばかりだ。
しかも、老いも若きも、露出度の高い人々が多い。
露出度の低い人は、旅人とかだろう。ミトラたちのような。
「あら、ロームさん。また奥さんが恋しくなったのかしら?」
と、声を掛けられる一本眉さん。
「いや、ウチの宿のお客さんが」
と、ぼくたちを示すロームさん。
「護符が欲しいとおっしゃってね」
「ああ、バルバトには女性用は売ってないものね」
その、赤髪にショートカットのお姐さんは笑った。
ミニスカートにハイネックタンクトップ。
フーコツよりも背が高い。
一メートル八十センチくらいか?
アマゾネスで良いのか?
「後は私が案内しましょうか?」
「いや、ウチのお客さんだし、わしがやるよ」
その返事で、ミニスカ、ハイネク、タントプ、ショカトな女性は、大人しく去って行った。
「奥さん、こっちの街に居るの?」
興味津津の目で、ミトラが言った。
「うん。子供も女の子なので、妻と一緒にラファームに住んでいるよ」
「思うに、バルバトとラファームの男女分けは、街興しではあるまいか?」
と、フーコツ。
「うん。最初は客寄せのために始めたらしいんだが、アマゾネス族がやって来てから、ふたつの街の関係が拗れたらしい。わしの生まれる前の話だ。よくは知らん」
と、頬を指で掻くおじさん。
「しかし、アレだよ。魔獣なんぞが出た日にゃ、頼もしい戦力だよ、アマゾネスは」
「じゃあ、街に入る前に声を掛けて来た、白馬に乗ったミニスカに鉢巻きの女性、アマゾネスで決まりね」
と、ジュテリアン。
「ハチマキはアマゾネス幹部の印だね。何かあったのかい?」
「『ウチに泊まって』って言われたので、『もうバルバトに予約してる』って断ったのよ」
と、メリオーレスさん。
「そ、それは有難う。コジらせてなきゃいいが」
と、不安そうな顔になるロームさんだった。
次回「護符屋のお婆さん」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
いよいよ百回投稿がやってまいります(話は五十話)。
特に盛り上がりもありません。無念だ。
第五十話「護符屋のお婆さん」前編は、明日の土曜日に投稿します。
後編の投稿は、明後日の日曜日になります。
午後から、「続・のほほん」を投稿します。
よかったら、読んでみてください。




