「エプロンおばさんのお礼」(後)
宿に戻って、厨房のおばさんたちに、茶壺行商人逮捕を伝える蛮行の三人娘。
「お金は返ってくるけど、ブクブク茶壺は証拠品として押収するんだって(ミトラ談)」
「あら、お湯が沸いたら泣いて教えてくれるから、便利だと思っていたんだけど」
「相場の値段で買ったらいいじゃん」
「そうしましょう、そうしましょう」
エプロンおばさん三人組は、茶壺を持って屯所へと出掛けて行った。
「三人も抜けて、宿の晩ごはんの準備、大丈夫かしら?」
と、ジュテリアン。
「屯所は近くだし、宿屋のマスターが頑張ったら良いじゃん」
と、ミトラ。
「街に到着早々、良い事しちゃったわね」
ジュテリアンは嬉しそうに言った。
「誰よ。小さな街だから、ノンビリ出来るとか言ってた人」
ミトラが怒って見せた。
そして夜。
部屋にわざわざ運ばれて来た、豪華な食事に驚く蛮行の三人娘とメリオーレスさん。
「こっ、これはひょっとして、ロクロク首を捕らえたお礼?」
ビビって椅子に座らないミトラ。
「であろうな。こういうご馳走様が食べられるのであれば、多少のドタバタは歓迎じゃ」
椅子に座ったものの、テーブルに盛られた海の幸 (たぶん)。
山の幸 (おおよそ)。
空の幸 (おそらく)。
川の幸 (かも)。
池の幸 (であろう)に目移りがして手が出せない様子のフーコツ。
「これはザリガニね」
見慣れた(と思われる)池の幸に手を出すジュテリアン。
ザリガニと言っても、ぼくの居た世界で言えばロブスター級だ。
「うん。全然、泥臭くない。甘辛の味付けが美味しいわ」
と、むき身の尻尾を頬張っている。
「なんで池の幸? こっちに海の幸の大大海老があるじゃないの」
と、巨大なエビの尻尾に齧りつき、
「うん。知ってる大味かも」
と、しょげるメリオーレスさん。
「あたしは、この山の幸にする!」
席に付き、蛇の串焼きを手に取るミトラ。
「そちらが山の幸なら、これは空の幸か?」
羽根つき蛇の串焼きを口にするフーコツ。
「さすがじゃ。野宿で食した飛び蛇とは比べ物にならんぞ。美味いっ!」
当たり前の事に感心している。
「しかし、何と言うても今日の功労者はジュテリアンよのう」
「えっ? 私が?」
ザリガニの爪肉をほじっているジュテリアン。
「ほれ。ポータス村の広場で、武術大会の上位入賞者とやらを一蹴したであろうが」
「まさに一蹴だったわよねえ」
斑模様のタマゴを割ったら、茹で卵だったので、そのまま食べ始めるミトラ。
「あーー、でもあれは、相手の人たちが弱かったから……」
ザリガニの爪を噛み砕いて照れるジュテリアン。
その夜は、本日の功労者のジュテリアンを念入りに揉みしだき、あふんあふん言わせて更けていったのだった。
ジュテリアンは揉まれる間、切なそうに眉を寄せ、口を手で押さえて声が漏れるのを堪えていた。
ぼくはそのジュテリアンの手を外したい欲望に駆られたが、三人の女性が固唾を呑んで見守っているので、それは我慢した。
四人の女性を無事に失神させ、深い眠りに着かせた。
窓辺に寄ってカーテンを開けば、空には例によって棒渦巻き星雲「天の渦」が大きく美しく輝いていた。
翌朝、元気に伸びをして目覚める女性陣。
その元気な姿を見ると、ぼくも揉みしだいた甲斐があったと安心する。
ポータス村と違い、試し合いを求める武者たちはおらず、朝食を頂いて、ぼくたちは早々にヒゥウォーンの街を発った。
忙しいだろうに、茶壺事件のエプロンおばさんたちが見送ってくれたのは、嬉しい思い出となるだろう。
名前も聞いていなかったけど。
「次は何処に泊まるの?」
と、ミトラ。
「予定表、ちゃんと見てよ。ミトラちゃん」
と言いながらも、
「街道沿いの街、バルバト。街道をはさんで向かい合っているラファームとは、姉妹街だそうよ」
と、答えるメリオーレスさん。
「向かい合ってるのに、違う街なの? 客の取り合いとかないよね? 街に着いた途端に『ウチに泊まって』ってモミくちゃにされた事あるから」
「大丈夫、バルバトの宿に予約入れてあるから」
「メリオーレスさんの『大丈夫』は、アテにならないからなあ」
冗談ぽく言ったミトラの言葉は、当たってしまうのだった。
次回「バルバトとラファーム」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第四十九話「バルバトとラファーム」前編は、来週の木曜日に投稿します。
後編は、金曜日に投稿予定です。
本日、午後からは、「続・のほほん」を投稿します。
「続・のほほん」の中に、たまに投稿していた「ビキラ外伝」を、
新しい連載「新・ビキラ外伝」として投稿する予定です。
回文オチ形式のショートショートは一緒です。
投稿が始まったら、よろしくお願いします。




