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「エプロンおばさんのお礼」(前)

「けっ。トンズラ前のひと仕事と、欲張ったのが悪かったか」

  行商人は正体を現わして立ち上がった。

「しかし、汝等(わいら)に捕まるロクロク様ではないわ」


言うが早いか、ニョロニョロと伸びる男の首。

  うん、ろくろ首だもんな。


「ほーーれほれほれ、喰っちまうぞお、女ども!」

  赤い舌をへらへらと泳がせ、(おど)すロクロク首。

だが、

「うひょーーー!」

  と両手を上げて驚いたのはミトラだけだった。


「場末のお化け屋敷か」

ジュテリアンはそう言うと進み出て、行商人の足を伝説のロングブーツで勢いよく払った。


「うおわっ!」

足を払われ宙に浮き、二回、三回と回転するいと長き首の男。

巻き()えは食うまいと、一挙に後退するミトラとフーコツ、そしてメリオーレスさん。


頭から地面に落ち、ロクロク首は、

「んご!」

  と(うめ)いて目から火花を散らした。


「おのおのおのれよくも!」

言いながらフラフラと立ち上がるロクロク首行商人の頭を、ジュテリアンと交代に進み出たフーコツは、

むんず! とばかりに(つか)んで、一重結(ハーフヒッチ)びにした。


「この首ならば、妖魔と言うのは一目瞭然だ。上出来であろう?!」

  と、結び目を持って得意げに()するフーコツ。

「あがあがあが。くそ、(ほど)け戻せ」

  首に結び目を作られて(もが)くロクロク首。


「街の警備隊屯所に突き出す。逆らうと、こうだ!」

メリオーレスさんがスカートを(まく)り上げ、暗器と言って良い幾十もの突起(ギザギザ)が付いたロングブーツで、ロクロク行商人の顔面を蹴った。


「へげえ!」

  ねじ曲がる首。

           裂ける皮膚(ひふ)

    吹き出す赤き血潮。


「はい、ジュテリアン。回復してやって」

「昔とちっとも変わってないわねえ、メリオーレス」

と、笑って回復光を当てるメイド戦士風僧侶ジュテリアン。


ジュテリアンとメリオーレスさんは、チームは違えど、協力し合って魔獣などを討伐した仲間なのだった。

「あたしたちのお株を奪う蛮行……」

  ミトラが眼を輝かせて感心していた。


ヒゥウォーンの屯所にロクロク行商人を突き出すと、かの(ロクロク)は、おたずね者だと言う事が分かった。

  インチキ行商人として、賞金が掛かっていたのだ。


「首を(ほど)いてくれ」

  と屯所で訴えるロクロク首に、

「首の根元と頭の下をチョン切ってくっ付ける方が早かろうよ」

  と教えるフーコツ。

「首が短くなれば、人間らしくなるであろう」


「助けてくれ、警備隊員さん!」

  泣きつくロクロク首に、

「うんうん。今までの犯罪を残らず吐いたら、チョン切らないように頼んでやろう」

  と屯所の皆さんは答えるのだった。


行商人の売る商品は、立派な仕掛け茶壺だったが、売り方がインチキだったのだ。


「討伐証明書」と、わずかばかりの賞金をもらって、

「こーーゆーーのを重ねてると、中級にクラスアップ出来るよね」

  と、受け付けのおじさんに語り掛けるミトラ。


「そうだけど、この妖魔、小物だから三ポイントしかないよ」

  と、受け付けのおじさん。

「今のレベルは下級なんだね?」

「うん、そう」

「頑張り続けたら、きっと中級になれるさ」

「うん、頑張る。ありがとう、警備隊のおっちゃん」


という掛け出し丸出しの会話をしているミトラを、(やさ)しく見守る蛮行の女たち(メリオーレスさんを含む)だった。


「お金は見つかりました?」

  と、ジュテリアンが問うと、

「ツヅラの底に隠してあったよ」

「被害者が茶壺を持って来てくれたら、随時返してゆく予定だ」

「明日の朝には、街中の掲示板に張り出せる」

「近在の市町村にも連絡するとも」

  と言う返事であった。


「ブクブク茶壺、一件落着?」

  と、ミトラ。

「こういう楽な捕り物はありがたいのう」

  と、フーコツ。

「バンガウアとの一戦なぞ、また死ぬかと思うたわい」

  (じじ)臭くボヤいた。



       次回「エプロンおばさんのお礼」(後)に続く


「蛮行の雨」の討伐ランク(現在、まだ下級)を書き間違っている事に気づき、過去の部分を書き直しました。




お読みくださった方、ありがとうございます。

次回、「エプロンおばさんのお礼」後編は、明日の日曜日に投稿します。


午後からは、「続・のほほん」を投稿します。

「ビキラ外伝」を最近、投稿していませんが、在庫をもう少し溜めて、

「新・ビキラ外伝」として新しく投稿枠(連載枠)を作ろうと思っています。

  ではまた明日、「続・のほほん」と「蛮行の雨」で。

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