「化けチツテト」(前)
「なに言ってるの?!」
「化けチツテトを懲らしめているに決まっているでしょうが!」
と怒り出すおばさんたち。
「えっ? 昔話にある『ブクブク茶壺』じゃん、それ?!」
と言い出すミトラ。
「とにかく、茶壺の悲鳴を止めますぞ」
と、フーコツ。
フーコツは厚手袋を借りて、注ぎ口に被せた金属キャップを外した。
手桶と柄杓を借り、水瓶から水を掬って桶に水を溜め、キャップを浸す。
冷えたキャップを口に付けるフーコツ。
そして頬を膨らませて勢いよく吹いた。
「ひーーー!」と鳴く蓋。
「この蓋は、笛になっておるのだ。湯が沸いたら、湯の圧力で鳴る仕掛けじゃな」
それから、茶壺の中の湯を捨て、桶に入れ水を掛けて冷やした。
空になった壺を台所机に置き、壺口に手を入れ、指で「尻尾の仕掛け」をいじって突き出してみせるフーコツ。
「あらっ!」
「バケチツテトの尻尾が出たわ」
と、おばさんたち。
「お湯が沸いたら出る仕掛けである」
と、フーコツ。
「そういう仕掛けのある茶壺にすぎぬ、という事なのだ」
「わたしたち、騙されたの?」
「バケチツテトじゃなかったなんて?!」
「なんてこと、五千バンもした茶壺なのに!」
「五千バン?! 野井戸が買えるっ」
と、ミトラ。
「そこまでではない」
即座に否定するフーコツ。
「どうされたんですか? その茶壺は?」
ジュテリアンがたずねると、エプロンおばさんたちは顔を見合わせ、代わるがわる発言した。
「旅の茶壺売りから買ったのよ」
「チツテトが反省して泣くたびに、良いお茶になるとも言ってたわ」
「首の長い、人の良さそうな行商人だったわ」
「試しに飲ませてもらったお茶は、美味しかったのよ」
「詐欺だ、五千バンなんて!」
ミトラが煽るように叫んだ。
「そうさな、相場の十倍くらいであろうか? ボロ儲けと言えよう」
フーコツが容赦なく言った。
「あ、あのう。良かったら、皆さんで、この青茸、食べて下さい」
電光石火に同情したらしいミトラが、キノコの入った袋を差し出した。
「あら、ありがとう、ドワーフのお嬢ちゃん。ウチのお客様よね」
「はい。今、宿帳に名前を書いて来ました。『蛮行の雨』と言う勇者団です」
「あらあ、勇者団?! ウチみたいな小さな宿に、珍しいお客様だわ」
「さあ、焼きキノコでも食べながら、気を取り直しましょう!」
エプロンおばさんの一人が、他の人を励ました。
「許せん! 行商人の恥だっ!」
行商人でもないのに、プンスカ怒りながら雑木林を急ぎ足で歩いているミトラ。
ぼくたちは、おばさんたちに「夕陽の丘」を教えてもらい、
「今なら落陽に間に合う」というので、急いでいる所だ。
「夕陽の丘」とは、数少ないヒゥウォーンの名所だそうだ。
「丘から見える夕陽が絶景」だと、紹介されたのだった。
「お嬢さんたち、急ぎ足でどちらへ?」
と言ってひょっこり現れたのは、ツヅラを背負った男だった。
花柄模様の派手な衣服を着ていた。
そして、人の良さそうな笑顔。
長い首。
ぼくらに懸命に並走する実直さ。
女性陣全員が、
(あっ、こいつは?!)
という顔をしたが、今、相手をしていては名物の夕陽を見損なう心配があった。
茶壺詐欺の行商人に間違いないのだが、タイミングがわるかった。
だがしかし、行商人は三人娘に興味を持ったのか、口を開き、喘ぎ声を漏らしながら並んで走っている。
これは、チャンスかも?!
次回「化けチツテト」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第四十七話「化けチツテト」後編は、明日の金曜日に投稿します。
午後からは、懲りずに「続・のほほん」を投稿します。
で、明日も、「続・のほほん」と「蛮行の雨」で。




