「ジュテリアンの蹴撃」(前)
「折れたばかりですから、大丈夫。治るのも早いですよ」
と、ガトーネさんの傍らにひざまづいて、かざした両手から黄金色の回復光を放つジュテリアン。
ガトーネさんの折れ曲がった何本もの指が、リバースして直ってゆく。
痛いらしく、
「あががががが!」と叫ぶガトーネさん。
「男の子だろ、我慢しろ、ガトーネ!」
と言って見物人の笑いを誘ったのは、ジュテリアンと最初に戦った大男のゲッタルさんだった。
「あんた、僧侶らしいけど、勇者団じゃ一番強いんだろ?」
折れた指を治してもらい、半身を起こしてガトーネさんが言った。
「まさか」
と、口を押さえて笑うジュテリアン。
「私は傷の回復が仕事です。チームでは一番弱いですよ」
確かに、総合的な攻撃力ではそうかも知れないが、ことキック力に関しては、ジュテリアンがトップになったのではないかと、ぼくは思った。
「巷の勇者団と言うのは、そんなに凄いのか?
あんたらのアレは、チームレベルってのは、どれぐらいなんだ? 超特級とか、あると聞いたが」
「『蛮行の雨』は、下級よ。下からニ番目。頑張って中級になりたいと思っているわ」
討伐チームのランキング内容というものを、ガトーネさんは具体的には知らないと思うが、下級だの中級だのという平凡に見えるランクを聞いて、ガトーネさんは絶句していた。
そして個人ランクの「超特級」を言わないジュテリアン。
安易に冒険者をめざして死なれては、寝覚めが悪いからだろう。
四人目以降は全員が棄権したので、試し合いは三試合で終わりになった。
聞けば、近在の武術大会の、上位入賞者たちだという事だった。
骨折程度の覚悟もないのであれば、戦わない方が良いし冒険者をめざすべきではないだろう。
バッチリ自分に当てはまるのだが……。
近在の武術大会には、「徒手空拳」の他、対人戦ではない「光の盾」の部や、「攻撃魔法」の部もあるそうだ。
魔獣のたぐいも徘徊しているのだ。
鍛錬に励むに越した事はないと思う。
試合がお開きになってから、
「あんたは強いかも知れんが、その接近型格闘術では、魔法に勝てんだろう?」
と、対戦を棄権した者の一人が、ジュテリアンに絡んで来た。
「実戦では、もちろん魔法を使いますよ」
ジュテリアンはにこやかな作り笑顔を見せた。
戦ったゲッタルさんやキーオーンさんは、
「だろうな」という表情を見せたが、絡んできた中年男は忌忌しそうに、
「僧侶がどんな魔法を使うんだよ」
と言った。
言った途端、膝から地面に崩れ落ちる中年男。
ジュテリアンまで二メートルもなかったから、過大回復魔法を喰らったのだろう。
たとえば、眼前暗黒感とかだ。
「そういう魔法よ」
倒れた男を見下ろして、ジュテリアンが冷ややかに言った。
ゲッタル、キーオーン、ガトーネの三名は、目を剥いて驚いている。
「魔法ありだと、触れる事すら出来ずに倒されていたのか?!」
と気がついたのだ。
「うう……。き、急に目の前が真っ暗に」
倒れた男は、金属鎧の大男、ゲッタルさんに抱き起こされながら呻いた。
「ピンクのお婆さん、まだ見ている?」
ミトラが聞いた。
「うん、見物人に混じって、ずっと見てるよ。ここからは少し遠いけど」
と、ぼく。
「じゃあ、この場でジュテリアンに一発蹴ってもらおう、もう少し本気で。あたしが吹っ飛ぶ姿を見たら、お婆さん、もっと喜ぶんじゃないかなあ」
と言った。
「伝説ブーツの威力は、あんなもんじゃないと思うけど、何を蹴るんだ? 大木とか駄目だぜ、あいつらだって生きているんだから」
と、ぼくは言った。
「大丈夫。あたしよ、あたし。この鎧は、衝撃を吸収するのよ。装備してる生身の人間まで届かないようにね」
鎧の胸を叩くミトラ。
そう言えば、蹴ってほしいとか、言ってたっけ。
「もちろん、完全じゃないけど。さらに、凹んでも自動回復する機能もあるし」
と、いう話をジュテリアンに持ち掛けた。
「良いけど、反撃しないでよ」
と、ジュテリアン。
「うん。蹴ってもらうだけだよ」
と言うミトラに、ぼくは収納庫に入れておいた小手と猫仮面兜を渡した。
フルアーマーでないと、衝撃を吸収しないらしい。
そうして、「人の見ていない場所で」という予定だった「神技の蹴撃」だが、お婆さんに見てもらう事になった。
「神技」の威力が絶大で、噂が広がるとヤバい。
だから、人に見られない方が良い。
という話だったのだが。
次回「ジュテリアンの蹴撃」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、「ジュテリアンの蹴撃」後編は、明日の金曜日に投稿します。
土、日曜日も投稿予定だし、大した量じゃないのに、めっさシンドイww。
ほぼ毎日、四百字詰め原稿用紙10枚以上投稿している人、凄いと思います(見た事あります)。とても真似できません。
本日午後から、回文オチ形式のショートショート
「続・のほほん」を投稿します。
コッチ↑は、原稿用紙1〜3枚くらいです。
ではまた明日も、「続・のほほん」と「蛮行の雨」で。




