「森の中の伝説の館」(後)
「時にメリオーレス、そなた、ユームダイムでもまた受け付け嬢をするのか?」
「ええ。それが仕事だから。どうかしましたか? フーコツさん」
「聞いたぞ。昔は勇者団で暴れておったそうではないか。そのしなやかな袖長のガントレットは古代の武闘家がしていたものだ。受け付けには必要ないのではないか?」
「いえ、タチの悪い冒険者を殴り倒すのには必要でしょう?」
「まあ、冒険者に戻りたくなったら、いつでも歓迎だ。メリオーレス」
道中、魔獣五角鬼に襲われた以外は何事もなく、無事にポータスの村に着いた。
まだ昼前だった。
伐採の効いた森がすぐ近くにあり、レンガ造りに混じって木造作りの家屋も多かった。
家の窓はアルファンテの街に比べると小ぶりに感じたが、色ガラスも目立った。
街と違って、武器をぶら下げ甲冑でウロついているような者の姿はない。
ぼくらは完全な異端者だった。
動きやすそうな丸首の野良着や、麻の上下に木靴という姿が多かったのだ。
「静かな所ね」
と、ジュテリアン。
木が多く、鳥の鳴き声がそこここにあったが、鳥の声は気にならないようだ。
「街と違って、のんびり出来るかなと思って、この村にしたのよ」
と、メリオーレスさん。
宿に馬車を預けると、女性たちはさっそくに動き始めた。
メリオーレスさんが名所でも調べていたのかも知れない。
どんどん村を外れ、とうとう森に入ってしまった。
先頭はメリオーレスさん。
迷いのない進み方だった。
森を少し進むと、石畳が現われた。
下草に隠れているが、この先に何かあると言う事だ。
草生す狭い石畳を、迷いなく歩むメリオーレスさんと「蛮行の雨」。
メリオーレスさんは、すぐ後ろを歩くミトラと、時々振り返っては何やら楽しそうに話している。
ここに至って、ぼくはようやく、
(迷いなく動いているので、黙って付いて来たけど……)
(なんか変じゃないか? いきなり森に突入とか)
と思った。
(『御意』)
と、サブブレイン。
(『森の果樹園』?)
とも。
(あーー、なるほど。木の実が目当てなのかなあ)
それはぼくも考えたが。
(『聴覚器強化』)
(そうだな。悪いけど、会話を盗み聞きさせてもらおう)
すると、
「こんな森の中にも『伝説』があったなんてねえ」
「超ラッキーじゃん!」
などという、メリオーレスさんとミトラの会話が聞こえてきた。
(『伝説? 初耳』)
と、つぶやくサブ。
(だよね)
と、ぼく。
ぼくのすぐ前を歩いていたジュテリアンに、
「あのう、何処に向かってんの?」
と、たずねてみた。
「何処って、森の中にある『伝説の館』よ」
ジュテリアンが振り返って言った。
「宿の前で会ったあのお婆さんが、言ってたじゃないの」
と前方を指す。
ぼくは単純に驚いた。
「いや、お婆さんなんて、見てないよ。見えないよ」
と正直に言うぼく。
『御意!』
とチカラ強くサブブレイン。
ひょっとして、見えないお婆さんに導かれてこの森の中に?
真昼の怪談?!
(実体のない奴、苦手なんだけど!!)
ぼくはかつての自分を忘れて、心の内に叫んだ。
次回「伝説の館」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第四十二話「伝説の館」前編は、明日の木曜日に投稿します。
後編は、明後日の金曜日の投稿になります。
本日午後には、回文オチ形式のショートショート
「続・のほほん」を投稿します。
よかったら、読んでみて下さい。




