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「森の中の伝説の館」(前)

「今も別の個体が床下に居るかも知れないんだけど」

  気を取り直した様子で話すメリオーレスさん。


「うんうん。そういう場所を好むマコちゃんだもんね」

   と、腕を組むミトラ。


「誰も床下に(もぐ)りたがらないので、とりあえず崩れた床下収納庫の壁を直して、なかった事にする計画です。オトメナ・マコの酢の物は、海の珍味と(いつわ)って今晩から食堂に出ますけれども」


「お(かしら)付きですか?」

   腕組みを解き手を上げて質問するミトラ。

「オカシラはもう地面に埋めました」


「捨てちゃったんだ」

と、ジュテリアンは言うが、壁に飾れるものでもなし、妥当な処理ではあるまいか?


「マコちゃんの芽が出たら、どうすんの?」

   重ねて質問するミトラ。

「やめて! そんなありそうな妄想は止めて頂戴(ちょうだい)!」

   メリオーレスさんは頭を激しく振った。



こうして翌朝、「蛮行の雨」は、メリオーレスさんを加えて、アルファンテを()った。

西の都ユームダイムをめざす(ほろ)馬車の御者(ぎょしゃ)は、メリオーレスさんである。


途中までノッポさんと太っちょさんの馬車と一緒だったが、彼らは「蛮行の雨」をアルファンテの討伐ギルドに送り届ける仕事を無事に終えたので、クカタバーウ方面に帰って行った。


「また会えるといいね」

   と、ミトラが別れを惜しんだ。


一角茶馬(コーンボルマー)一頭立ての小さな幌馬車で、ぽっくりぽっくり、最初の宿泊予定であるポータスという村に向かった。


「マコちゃんも災難だったわねえ、ひょっこり蔵ん中に出て来たばっかりに」

  と、ミトラ。


「残りのマコたち、床の下で静かな余生が送れると良いわねえ」

  ジュテリアンがそう言うと、

「まだ居るの前提で言うのはやめて!」

  と御者席からメリオーレスさんの声が飛んで来た。


「マコちゃん、美味しかったよねえ」

  と、ミトラ。

「食べてません!」

  と、メリオーレスさん。

「じゃあ、伝説の話でもしようか? 当たり(さわ)りのないとこで」

  と、ジュテリアンが言った。


攻撃杖(アタックロッド)仕掛(ギミック)けが棍棒と同じであったなら、ユームダイムの引っこ抜きも楽なのだがのう」

   (ヒゲ)もないのに(あご)()でるフーコツ。

ひょっとすると、性別を(いつわ)って顎髭を生やしていた時の癖かも知れない?


「さすがにそこまでは甘くないでしょうねえ」

   と笑うジュテリアン。


「でも、ユームダイムって、ユーム大僧侶降臨の地って言われてる所でしょう? なんで攻撃杖なの? 回復杖ならわかるけど」

  と、メリオーレスさん。

(いにしえ)の神々の悪戯(イタズラ)でしょ」

  ジュテリアンは()()なく言った。


「ユーム大僧侶降臨の地か。感慨深いものがあるのではないか? 同じ僧侶として。そびえ立つ目標として」

  フーコツに水を向けられ、

「恐れ多いので、そうゆうの()めて下さい」

今までも散々言われてきたのだろう、ジュテリアンは少しうんざりした様子で言った。


ユーム大僧侶の話は、ぼくもこれまで雑談にまぎれながら少しずつ情報を得てきたが、確かに比べられると困るような偉人だった。

勇者団の勇者が、大勇者サブローの偉業と比べられると恐縮するのと一緒だ。と思う。


(あご)()でながら、

「無法丸と言ったか? ジュテリアンの短剣(ショートソード)は。回復杖(ヒールロッド)で人斬り包丁。ユニークな回復武器よのう」

  と、フーコツは話を変えた。

「と言うてもエルフ。何千年生きるつもりか知らぬが、世界の終わりまでは生存出来まい? ジュテリアン」


「明日の朝、世界が終わる。とかでない限り、二千年や三千年の寿命では、終末は見られないでしょうね」

   苦笑するジュテリアン。


「そこで仙人だ。ジュテリアン、共に仙人をめざしてみんか? 人を越え、達人を越え、超人を越えるのだ。一緒に世界の終わりを(わろ)うてみんか?」


「うーーん。二鬼(にき)を追うもの一鬼(いっき)をも得ず、って言うじゃない? フーコツ」

「二鬼を追うものは、三鬼をも得るのだ、ジュテリアンよ」

(うわ。フーコツ、サイコパス?!)


「世界の終わりって、見てもあんまり楽しくないように思うけど」

「ぬ。ミトラは快楽主義者か? 楽しい事ばかり追い求めていては、打たれ強くなれんぞ」

「いや、あたしはこのチームで一番打たれ強いと思う」


「それは『呪いの(よろい)』があっての事であろう? もっとこう、生き物としての根本的な話をしておる」

「まあまあ。お人それぞれでゆきましょうよ、フーコツさん」

   御者のメリオーレスさんが割って入った。


「まあ、お主らエルフは呑気(ノンキ)で長生きじゃからのう」

  フーコツは鼻白らんだ様子で言った。

「パレルレはどうじゃ? 大魔王大戦からすでに二千有余年。あとどれくらい持ちそうじゃ、その身体は?」


「そ、そんなの分かりませんよ」

       ぼくは正直にゲロした。


皆んなと一緒に居られるなら、百年でも千年でも生きたい。

と言うのも正直な気持ちだが、そんな事は恥ずかしくてゲロ出来なかったのだ。



          次回「森の中の伝説の館」(後)に続く



お読みくださった方、ありがとうございます。

明日の水曜日は、「森の中の伝説の館」後編を投稿します。


回文オチのショートショート「続・のほほん」は、本日の午後に投稿予定です。

明日も、涼しげなセミの鳴き声を聞きながら、

           「のほほん」と「蛮行の雨」で。

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