「あこがれのユームダイム」(後)
オトメナマコは、床下収納庫の崩れた壁から入って来たらしい事が、ギルドの調査で分かった。
床下に棲んでいたのだ。
「彼奴等は、薄暗くてジメジメした所が好きみたいだから」
と、「妖魔大全」の知識を披露するジュテリアン。
「殺し方は書いてなかったなあ。子供向きだったからかなあ」
「貴方たちと居ると退屈しない」
頭に包帯を巻いたノッポさんが言った。
ジュテリアンの治療は受けたが、念のために薬も塗られたのである。
ミトラがやんわりと殴って出来た傷は、思いのほか、深かったのである。
さすが伝説の棍棒と言うべきか。
「パレルレに施術してもらう?」
と、ミトラ。
「い、いえ。それはまた今度」
ノッポさんは慌てて手を振った。
ジュテリアンに巻いてもらった包帯だけで、充分に心が癒されているのかも知れない。
「ぼくも次の機会でいいです」
ダメージがなかったはずの、太っちょさんが言った。
「今度はいつ会えるか分かんないのに」
ミトラは残念そうに言った。
ダラダラと雑談していると、メリオーレスさんが帰って来た。
ちなみに、グローネ副所長は仕事に戻ったそうだ。
メリオーレスさんは、ぼくたち「蛮行の雨」が、ユームダイムに「伝説の攻撃杖」を引っこ抜きに行く事を知り、
「旅の工程計画を立てさせて欲しい」
と言い、何処かに行っていたのだ。
宿屋に関するこちらの注文。
表通りに面していない事。
安い事。
二階に部屋を取る事。
お風呂が広い事。
などは伝えてある。
テーブルに帰って来たメリオーレスさんは、
「途中、宿泊する村や街を副所長と考えたわ。もちろん、ご注文の宿屋の条件も加味してね」
そう言って、手に持っていた折りたたんだ紙を広げた。
それは、地図だった。
「ギルドにあった情報内でだけど、あなたたちに合わせたわ。だいたいね」
と、地図の上を指す。書いてあるのは宿屋の名前だと言う事だった。
「フーコツさんは、ムンヌルを人間側に引き込んだ人なので、クカタバーウ砦が連絡を取りたがっているのよ。宿泊場所を教えておけば、連絡も取りやすいでしょ」
「入れ違いになったら、どうするの?」
と、ミトラ。
「手紙が渡されねば、砦に返すようにしてあるわ」
と返事するメリオーレスさん。
「そうか。ワシはとりあえず、何かあったら連絡するつもりでおったぞ。今回のオトメナ・マコは知らせんがな」
(あっ。フーコツ、ビビってただけだもんね)
と思うぼくだった。
「えーーっ、ノッポさん頑張ってたのに」
と、ミトラ。うなずくジュテリアン。
「いえ、連絡には及びません。妖魔の数を増やしただけでしたから」
ノッポさんは頭の包帯をさすった。
「それから、わたしも一緒にユームダイムに行きますので」
「えっ?! メリオーレス、どうしたの? 仕事は良いの?」
と、ジュテリアン。
「ユームダイムの討伐ギルドに移動になったから、大丈夫なのだよ」
「左遷?!」
ジュテリアン、ミトラ、ノッポさんが声を揃えた。
「ちゃうわ!」
思わずお国訛りが出るメリオーレスさん。
「異動! ただの異動!」
「何をやったの、メリオーレス」
良からぬ事を考えて、電光石火に同情の目をするジュテリアン。
「さあ? ギルドに内緒で、
『伝説の棍棒を見せて』って頼んだ事ぐらいしか心当たりがないんだけど」
「あーー、後で『謎の黒騎士』が絡んで、大変な事になっちゃったもんねえ」
と、左遷の原因を探るジュテリアン。
「アルファンテより、ユームダイムの方が遥かに大きな街だ。普通に出世ではないのか?」
と、フーコツ。
「フーコツさんありがとう。そ、そうよ出世なのよ、今回は! わたしと入れ代わりでユームダイムからアルファンテに戻ってくる人、資料室の室長に出世するんだから!」
(あーー、微妙……)
と言う顔で、メリオーレスさんを見る蛮行の三人娘だった。
「で、食物蔵のオトメナ・マコはどうなったの?」
「だからあたしはユームダイム、大好きだし、大きな街に昔から憧れ、えっ? 食物蔵?! 急に話題をかえないでよ、ジュテリアン」
ちょっぴり険しい目をして、メリオーレスさんはジュテリアンを見た。
「そんなもの、食堂で出すに決まってるでしょ!」
「わーーい!」
と、声と両手を上げて喜んだのはミトラだけだった。
(やっぱり、動いてる実物を見ちゃうとねえ)
と言う目で顔を見合わせるフーコツとジュテリアン。
そこらへんの蜥蜴を捕まえ、焼いて食べるのは平気なのだが、やはり顔が人間なのは辛いのだろう。
「でも、マコちゃんの再生力って凄かったじゃん。どうやって殺したの? やっぱり、アッと言う間に微塵切りに?」
「ああ。急所があったのよ。賄いの人が知ってたわ。両目を同時に……」
と、両目を指で刺す仕草のメリオーレスさんに、
「参った! もういらない!」
と両手で目を塞ぐミトラ。
「女の子の両目を刺すなんて……」
と言うジュテリアンに、
「い、いやアレは女の子ではない」
自分に言い聞かせるように、フーコツが声を絞り出した。
次回「森の中の伝説の館」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第四十一話「森の中の伝説の館」
前編は、来週の火曜日に投稿します。
後編は、来週の水曜日に投稿します。
想定外の『伝説』に出会って、どうする「蛮行の雨」?!
午後からは、
回文オチのショートショート「続・のほほん」を投稿します。




