「あこがれのユームダイム」(前)
「くっ、口を開けなきゃ、おちょぼ口で可愛いのに、マコちゃん」
残念がるミトラ。
一気に間合いを詰め、
「きえぇーーー!」
奇声を発してオトメナマコの頭に剣を振り下ろすノッポさん。
サクっ!
という音を立て、オトメナマコの頭部と下の穀物袋を裂いた。
大量に床に流れ落ちる大豆。
「キョエッ?!」
と悲鳴を残して、頭を縦に割られるオトメナマコ。
ずん! と一気に、足のない身体を起立させた。
三メートルはあろうか?
「やった!」
「お見事! ノッポさん」
ミトラたちが喜んだのも束の間、ふたつに裂かれた顔は、ぶくぶくと泡を吹いて、たちまちふたつの頭に再生した。
「キョケーーーッ!」
双頭のオトメナマコは、声を揃えて鳴いた。
「ばっ、化け物めっ!」
ノッポさんは素早く位置を変え、側面からオトメナマコの胴を、スパッ! と切断した。
跳ね回るオトメナマコの上半身と下半身。
断面がぶくぶくと泡を吹き、やや長さを回復しつつ復元する下半身。同じく頭部も復元する。
恐るべき復元力。プラナリアかっ?!
ちょっとドロっとしてるけど、目鼻立ちは整っている?!
「数が増えたっ!」
声を裏返すジュテリアン。
「戻れノッポ殿!」
叫ぶフーコツ。
「行け! ミトラッ!」
「おう! 殴り倒すっ!」
ミトラはぼくの脇から離れ、ホルスターの棍棒を抜いた。
「しゃあっ!」
掛け声も鋭く、一匹のオトメナマコを殴るミトラ。
「ケッ!」
と呻いて白目を剥き、床に倒れるオトメナマコ。
失神させた?!
壁を這って天井に逃げようとするもう一匹のオトメナマコを、戻って来ずに、逆上した様子のノッポさんが三等分にする。
泡を吹き、再生を始める三体の妖獣オトメナマコ。
「増やしてどうするかっ」
やんわりとノッポさんを殴り倒すミトラ。
失神させた?!
「あと三匹よ、三匹! 頑張って、ミトラ!」
「逃げる、天井に逃げるっ!」
「逃すでないぞ、ミトラっ!」
口々に叫ぶ見学の女性たち。
「しゃしゃあっ!」
オトメナマコに負けぬ奇声を発し、穀物袋を踏み台にして右の壁、左の壁、さらに天井に跳んで次々とオトメナマコを叩き落とした。
床に転がったオトメナマコたちは、脱糞したり体液を吹いたりしながら、動けないでいる。
失神したんじゃないだろうか?
「はあはあ。マコちゃん、酢漬けでも塩漬けでも美味しいわよね」
ミトラが棍棒を構えたまま言った。
「こんだけ? もう居ない?」
「うむ。『確認は一匹』という話だったわね」
と、グローネ副所長。
時は過ぎ、オトメナマコたちは処理班(?)がやって来て、袋に入れて持ち去った。
コマ切れにされて、食堂に出て来るのだろうか?
一応、退治が済んだので、『蛮行の雨』は喫茶室に引き上げた。
テーブルを囲む蛮行の三人娘と、ノッポさん、太っちょさん。
「パレルレを再度転生させに来た女神を退けた話は、このまま内緒に(ミトラ談)」
を確認した。
「どんな形であれ、女神と呼ばれる存在は、この世界では信仰の対象である。普通は」
「『信仰の対象』と戦った話を吹聴するのは大変にマズい」
からであった。
ぼくは、
「あの人は転生担当官で、女神ではない」
と言ったのだが、
「そういう存在は女神の範疇ですよ(太っちょさん談)」
と言い返されてしまった。
(それがこっちの世界の認識なら仕方ないなあ)
と、ぼくは思った。
それはともかく、
「マコちゃんのコリコリとした食感が」
と、ミトラはまだオトメナマコの思い出に浸っていた。
「何処で食べたのよ、そんなもの」
と、ジュテリアン。
「オララ村で、ごくたまに出たよ。薄っぺらい輪切りの身と、チョンパされた首しか見た事がなかったけど。頭は食べないわよ。アレはただの飾り。オカシラ付き、とか言うヤツ」
と、ミトラ。
「でも、動いているのは初めて見た! 迫力ねえ。怖かったわあ」
思い出したのか、彼女の後ろに立っていたぼくに抱きついてきた。
金属ボディと金属ヨロイの抱合であった。
次回「あこがれのユームダイム」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第四十話「あこがれのユームダイム」後編は、
明日の日曜日に投稿します。
午後から、回文オチのショートショート
「続・のほほん」を投稿します。
ではまた明日も、「のほほん」と「蛮行の雨」で。




