「妖魔オトメナ・マコ」(後)
「あーー、『妖魔大全』って本で見た事あるわ、オトメナ・マコ」
釣られて笑うジュテリアン。
ちょっとアクセントが違うが、似たような化け物がこの異世界にも居たのである!
オトメナ・マコ。
美少女の顔にナマコの身体……、マコちゃん。
あんまし考えたくないオトメナマコは、ぼくの世界では体長一メートルくらい。
ずん胴の直径は三十センチほど。
うへえ……だ。
食物蔵は、レンガ造りで窓はなく、二階くらいの高さがあった。
そいつが幾つも行儀良く並んでいる。
その蔵のひとつの入り口に、革鎧の隊員が二人立っていた。
「ご苦労様。どんな様子?」
グローネ副所長が声を掛ける。
「はっ。先ほど見た所では、大豆袋の上で眠っておりました」
と、片方の隊員が答えた。
「貴様たちはそのまま外で待て。その道のプロに退治してもらう」
と、ぼくたち「蛮行の雨」を手で示す副所長。
「えっ?!」
という顔で緊張を見せるジュテリアン。
ぼくも人の顔をしていたら、「そういう表情」になったと思った。
ミトラは、ヘルメットと小手を装備してフルアーマーになった。
フーコツもゴーグルを装着して、彼女なりのフルアーマーとなった。
(食物蔵の中で暴れるのは無茶だ)
と思いつつ、先頭を仰せつかって、低い階段を上がり、ぶ厚い扉を押し開けて蔵の中に入るぼく。
中は土壁だった。
空気は冷たい。
そこここに発光石が埋められ、ほの明るく蔵の中を照らしている。
放熱しない、ただ光を放射するだけの、変な石だ。
木造りの天井と、二階への階段が見える。
ぼくは、前照灯、制御灯、前部霧灯などを点灯させた。
「あっ、居た!」
ぼくの脇腹から顔を出したミトラが腕を伸ばし、指を突き付けた。
幾つか重ねられ並べられた四角い袋の上に、蛇のようにトグロを巻いた物体が、ぼくのライトに浮かび上がった。
トグロの頂点の、おかっぱ頭の少女は、うつむき加減で目を瞑っている。
「扉を閉めろ」
と、グローネ副所長。
「『蛮行の雨』、あいつを退治してくれ。あんな物が棲んでいる事が分かっては、食堂に人が来なくなる」
しんがりのノッポさんがうなずいて入り口を閉じた。
「蛮行の雨」の三人と一台。
副所長。受け付け嬢。
ノッポさん、太っちょさんが入室している。
一階の室内は、どこも袋が積み重ねられていた。
高いのやら低いのやら、さまざまあった。
「グロい」
フーコツさんがそう言って、ぼくの右腕(上)を掴んできた。
「魔法は使えんな。火も、雷も、水も。食物を駄目にしてしまう」
「物理攻撃で」
グローネ副所長は、ぼくの左腕(上)を掴んで言った。
「物理攻撃が得意な人が」
と言いつつ、ぼくの左腕(下)を抱くメリオーレスさん。
ジュテリアンは、黙ってぼくの右腕(下)を掴む。
なるほど。
怪奇系と言うか、グロは苦手なんだ、女性たち。
それにしてもデカい。
ぼくの世界のオトメナマコよりも遥かにデカい。
胴も太い。
トグロの感じからして、体長は二メートル以上はあるだろう。
「俺が」
一番後ろに居たノッポさんが進み出た。
「ぶった斬りましょう」
スラリと長剣を抜いた。
さすがは勇者団をめざしていた男。
「お願い、ノッポさん」
短剣を背後に持つジュテリアンが言った。
「ねねねねね眠っているようね」
ぼくの胴を両手で掴んで震えるミトラ。
「頭だ。生き物の弱点はすべからく頭だ」
ぼくの腕を抱いたまま指示を出すフーコツ。
「了解です」
剣を大きく振り上げ、そのままの姿勢でオトメナマコに躙り寄るノッポさん。
ノッポさんの気配に気がついたのだろう、オトメナマコは目を開き、鎌首を持ち上げた。
「うあっ、マコちゃん気がついた!」
ミトラが小さな叫び声を上げた。
ぼくの放つライトに反射して、赤く大きな目を光らせる妖魔マコ。
「キイ?!」
と鳴いて口を開けば、何十という触手がわらわらと出てきた。
美少女が台無しだった。
次回「あこがれのユームダイム」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第四十話「あこがれのユームダイム」前編は、明日の土曜日に投稿します。
後編は、明後日の日曜日に投稿予定です。
回文オチのショートショート「続・のほほん」は、本日午後に投稿予定です。
同じく回文オチのショートショート、
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」は、
第一部が終了しております。
よかったら、読んでみてください。
ではまた午後の「続・のほほん」で。




