表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/369

「妖魔オトメナ・マコ」(後)

「あーー、『妖魔大全』って本で見た事あるわ、オトメナ・マコ」

  釣られて笑うジュテリアン。


ちょっとアクセントが違うが、似たような化け物がこの異世界にも居たのである!


オトメナ・マコ。

  美少女の顔にナマコの身体……、マコちゃん。

あんまし考えたくないオトメナマコは、ぼくの世界では体長一メートルくらい。

  ずん胴の直径は三十センチほど。

     うへえ……だ。


食物蔵は、レンガ造りで窓はなく、二階くらいの高さがあった。

そいつが幾つも行儀良く並んでいる。

その蔵のひとつの入り口に、革鎧(レザーアーマー)の隊員が二人立っていた。


「ご苦労様。どんな様子(ようす)?」

     グローネ副所長が声を掛ける。

「はっ。先ほど見た所では、大豆(ソーハ)袋の上で眠っておりました」

     と、片方の隊員が答えた。


「貴様たちはそのまま外で待て。その道のプロに退治してもらう」

  と、ぼくたち「蛮行の雨」を手で示す副所長。


「えっ?!」

  という顔で緊張を見せるジュテリアン。

ぼくも人の顔をしていたら、「そういう表情」になったと思った。


ミトラは、ヘルメットと小手(ガントレット)を装備してフルアーマーになった。

フーコツもゴーグルを装着して、彼女なりのフルアーマーとなった。


(食物蔵の中で暴れるのは無茶だ)

と思いつつ、先頭を(おお)せつかって、低い階段を上がり、ぶ厚い扉を押し開けて蔵の中に入るぼく。


中は土壁だった。

     空気は冷たい。

そこここに発光石が埋められ、ほの明るく蔵の中を照らしている。

放熱しない、ただ光を放射するだけの、変な石だ。

木造りの天井と、二階への階段が見える。


ぼくは、前照灯(ヘッドライト)制御灯(ブレーキライト)前部霧灯(フォグライト)などを点灯させた。


「あっ、居た!」

ぼくの脇腹から顔を出したミトラが腕を伸ばし、指を突き付けた。

幾つか重ねられ並べられた四角い袋の上に、蛇のようにトグロを巻いた物体が、ぼくのライトに浮かび上がった。


トグロの頂点の、おかっぱ頭の少女は、うつむき加減で目を(つぶ)っている。


「扉を閉めろ」

    と、グローネ副所長。

「『蛮行の雨』、あいつを退治してくれ。あんな物が棲んでいる事が分かっては、食堂に人が来なくなる」


しんがりのノッポさんがうなずいて入り口を閉じた。

  「蛮行の雨」の三人と一台。

副所長。受け付け嬢。

ノッポさん、太っちょさんが入室している。


一階の室内は、どこも袋が積み重ねられていた。

高いのやら低いのやら、さまざまあった。


「グロい」

フーコツさんがそう言って、ぼくの右腕(上)を(つか)んできた。

「魔法は使えんな。(フー)も、(トニトルス)も、(マジ)も。食物を駄目にしてしまう」


「物理攻撃で」

  グローネ副所長は、ぼくの左腕(上)を掴んで言った。

「物理攻撃が得意な人が」

  と言いつつ、ぼくの左腕(下)を抱くメリオーレスさん。

ジュテリアンは、黙ってぼくの右腕(下)を掴む。


なるほど。

  怪奇系と言うか、グロは苦手なんだ、女性たち。


それにしてもデカい。

ぼくの世界のオトメナマコよりも(はる)かにデカい。

  胴も太い。

トグロの感じからして、体長は二メートル以上はあるだろう。


(おれ)が」

  一番後ろに居たノッポさんが進み出た。

「ぶった斬りましょう」

  スラリと長剣(ロングソード)を抜いた。

    さすがは勇者団をめざしていた(オス)


「お願い、ノッポさん」

  短剣(ショートソード)を背後に持つジュテリアンが言った。


「ねねねねね眠っているようね」

  ぼくの胴を両手で掴んで震えるミトラ。

「頭だ。生き物の弱点はすべからく頭だ」

  ぼくの腕を抱いたまま指示を出すフーコツ。


「了解です」

剣を大きく振り上げ、そのままの姿勢でオトメナマコに(にじ)り寄るノッポさん。


ノッポさんの気配に気がついたのだろう、オトメナマコは目を開き、鎌首を持ち上げた。


「うあっ、マコちゃん気がついた!」

     ミトラが小さな叫び声を上げた。


ぼくの放つライトに反射して、赤く大きな目を光らせる妖魔マコ。


「キイ?!」

と鳴いて口を開けば、何十という触手がわらわらと出てきた。


美少女が台無しだった。



       次回「あこがれのユームダイム」(前)に続く




お読みくださった方、ありがとうございます。

次回、第四十話「あこがれのユームダイム」前編は、明日の土曜日に投稿します。

後編は、明後日の日曜日に投稿予定です。


回文オチのショートショート「続・のほほん」は、本日午後に投稿予定です。


同じく回文オチのショートショート、

回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」は、 

          第一部が終了しております。

よかったら、読んでみてください。


     ではまた午後の「続・のほほん」で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ