「老骨のグラオ」(前)
「このアルファンテのギルドでも、クカタバーウ砦の真実を知る者は、わたしとメリオーレスの他は、所長とその側近のごくわずかです」
と言ってから、一度、頭を下げるグローネ副所長。
「砦の皆さんには、『魔族に脱獄された』という汚名が長く語られましょう。作戦とは言え、残念な事です」
「なに。これもみな魔王ロピュコロス軍壊滅のため。我慢のしどころです」
と、ノッポさん。
「ロピュコロス軍壊滅の暁には、『魔族脱獄は黒騎士の計略』と吹聴の算段であったな。早くその時が来ると良いのう」
と、フーコツ。
「『蛮行の雨』こそ、手柄を居もしない黒騎士に持ってゆかれて、昇級も叶わず、散々ではありませんか」
と、大いに同情した様子のグローネ副所長。
「まあ、ワシが勝手にムンヌルに『親友の呪い』を掛け、内部撹乱のための嘘情報を提案したからのう。仕方がない」
と、フーコツ。
そうそう、フーコツの提案に乗って、一介の砦の隊長にすぎないロウロイドさんが暴走したのだ。
「上」の判断も待たずに。
そしてその手遅れな連絡を、すべて事後承諾で良しとした「上」は、賢王か愚王か。
作戦が失敗すると、ロウロイド隊長に大きな罰が下されるかも知れない。
「それも、ロウロイドの暴走があっての事。ムンヌルとやらが仲間になったので、今のところ結果オーライで来ておりますよ」
と、グローネさん。
「うんうん。ロウロイドも、やる時はやるのよ。結果オーライは彼の得意技だしね」
嬉しそうに言い、楽しそうにしているメリオーレスさん。
「魔族を逃した責任を取って辞職したしね」
そのメリオーレスさんの言葉を聞いて、
「えええーーー? 隊長が辞職っ?!」
と声を裏返すノッポさん、太っちょさん。
もちろん我々「蛮行の雨」も驚いて叫んだ。
「いやいやいや。作戦通りの脱獄で、なんで隊長が辞職なんですかっ」
髪の毛を掻きむしるノッポさん。
「せいぜい形ばかりの降格かと」
涎を流さんばかりに驚く太っちょさん。
「だって彼、ずっと仕事を辞めたがっていたでしょう?」
と、メリオーレスさん。
「えっ? 隊長のアレ、本気だったんですか?」
ガチで驚くノッポさん。
ついにヨダレを垂らす太っちょさん。
「弁舌だけで砦の隊長にのし上がってしまった元・勇者団の戦士。もはやそこには、何の楽しみもなかったでしょうよ!」
メリオーレスさんは、辞職はさも当然だと言わんばかりに叫んだ。
「魔法剣の使い手ですから、何処でも食べて行けますよ、隊長は」
ヨダレを拭いながら太っちょさんが言った。
「魔法剣? そうなんだ。砦の戦いじゃ、そんなのちっとも分からなかったけど」
と、首を捻るミトラ。
「『蛮行の雨』が、火吹き大蜥蜴とか、爆炎のギューフとか、めぼしいのを片付けちゃって、見せ場がなかっただけだと思います」
ノッポさんが擁護した。
そう言えば、砦に突入して来る時、剣が青く光ってたっけ。あれが魔法剣か?!
そして、
「殺すな殺すな」
と叫んで回ってたっけ、ロウロイドさん。
あれは、隊長としての、避けられない仕事だったんだなあ。
「ところで、謎の黒騎士は、どのようにして『伝説の棍棒』を引っこ抜いた話になったのでしょう?」
ノッポさんと太っちょさんに問い質すグローネ副所長。
「えーーっと、魔族が『伝説の棍棒』を盗もうと、掘り返しておりまして」
と、ノッポさん。
「魔族どもを倒した後、黒騎士が伝説部屋に現われまして」
と、太っちょさん。
「持っていた仕込み棍棒、つまり斧で、がっつんがっつん、神岩を砕き」
代わる代わる説明を始める凸凹コンビ。
「すると、なんたる事か金属部分が現われ」
「その金属部分はなんと『取り扱い説明書』だったのです」
「『これは斧である。棍棒使いはあきらめよ』と、あったけど棍棒のままでいくんでしょ?」
と、ミトラ。
「ロピュコロスが棍棒マニアだから」
「そうです。でも、『呪文で封じてある。欲しくば呪いを解くべし』という部分は、そのまま使います」
と、太っちょさん。
「そして、黒騎士は呪いを解除し、『伝説の棍棒』を引っこ抜くと、ええっと、こちらの方向、北へと去って行った。のよね?」
と、メリオーレスさん。
「この、アルファンテは素通りした話で良いわよね?」
「脇道に逸れたかも知れませんしね」
と、太っちょさん。
「はい。面倒だと思ったら、黒騎士には関わらないのが一番かと」
と、ノッポさんは言った。
次回「老骨のグラオ」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、「老骨のグラオ」後編は、
明日の水曜日に投稿します。
面白いと良いですね。個人的には、面白いです。
午後からは、回文オチのショートショート「続・のほほん」を投稿します。
キリの良い200回目ですが(たしか)、特段、なにもありません。
普通? な内容になるはずです。
ではまた「続・のほほん」と「蛮行の雨」で。




