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「逃げ去るランランカ」(前)

その降りた所へ、ぼくのロケットダッシュよりも速く迫るミトラ。

  『緊急時に疾走(しっそう)する呪い』だ。


落雷を放ちつつ位置を変えるが、ミトラに放電は効かず、周囲を燃やすばかりのランランカ。


フーコツが今度は水球(マジバル)を連射した。

ランランカの顔を(くる)み、窒息(ちっそく)させようという計略か?


しかし水球は次々と、前方や頭上の虹色(カウ・ヴォン)の盾に当たり、盛大に爆散した。


巻き上がる水蒸気と降りそそぐ水滴。

水を蒸発させているのは、水球で頭部を包まれる事を避けたランランカの処置だろう。


水蒸気に隠れてミトラは生身で虹色の盾に体当たりした。

  突破できずに(はじ)かれるミトラ。

質量が小さいか? (よろい)は重いはずだが。


()るがないランランカ。何故だ? 

質量はどうなってる? 見た目、軽そうなのに。

虹の盾が衝撃を百パーセント吸い取っているのか?


しかし、(エレ)(シルト)のような反射(リフレクション)はない。


反射がない事に気を良くしたのか、ミトラは近距離で落雷を受けながら、伝説の棍棒に斧刃(ふじん)を出し、カウ・ヴォンを打ち始める。


落雷の轟音(ごうおん)と閃光と炎が、草地を(いろど)っている。


「馬鹿め、そんなもので砕けるカウ・ヴォンと思っているのか」

  笑うランランカ。


だが、何回目かの殴打で、カウ・ヴォンの一部が破損した。

「ポンコツな盾よな」

  今度は、フーコツが笑った。


「ばっ、馬鹿な?! 神聖女神様からの頂きものだぞ」

  (あわ)てて後退するランランカ。


そして誰もその斧が、「伝説」である事を教えてやらない。

『人間の、奇跡に近い御業(みわざ)

  と思われた方が都合(つごう)が良いからだ。


ミトラは手印を切り、(ビオレータ)の盾を発生させ、「(スヴァスティカ)」を唱えた。

形を卍に変形し、高速回転してカウ・ヴォンに衝突する紫の巨大手裏剣。


バンガウアの出した(エレ)の盾の時と違って、刃が減らない。

それどころかカウ・ヴォンの破損部分が広がってゆく。


「ひいい!」

  叫び声を上げる転生官ランランカ。

「ビオレータごときが、なぜ消滅しない?!」


闇精霊(ブーヨニンフ)の呪いで強化してあるからね」

  と、暴露(ばら)してしまうミトラ。


そして忽然(こつぜん)と倒れるランランカ。


ジュテリアンが、どさくさに(まぎ)れて接近していたのだ。

二メートルくらいまで近寄れば、彼女は過大回復魔法を射てる。


また良からぬ回復魔法で転生官を昏倒(こんとう)させたのだろう。

虹色(カウ・ヴォン)(ヌール)(シルト)は、ジュテリアンのそれが攻撃(アタック)ではなく回復(ヒール)の魔法だったので通過させてしまったのだ。


イマイチな盾によくある粗漏(バグ)らしい。

この場合は、ランランカさんの鍛練不足だろうけど。

「対攻撃盾には、そういう弱点がある」

     と、ジュテリアンから聞いた事がある。


「ううう、いきなり目眩(めまい)が……」

  ふらつきながら、フーコツに抱き起こされるランランカ。

すでに光の盾は、虹色(ランランカ)も、紫色(ミトラ)も、銀色(フーコツ)も消滅している。


「目の前が真っ暗になりさえしなければ、負けなかった」

  と言うランランカ。

やはり眼前暗黒感(たちくらみ)を喰らったのだ。


「その通りよ。残念だったわね」

  ネタを暴露(ばら)さないジュテリアン。

今後を考えての事だろう。


「あたしたちが勝ったんだから、パレルレの再転生はナシよ」

  と、ミトラ。


「き、今日のところは、これで帰るとしよう。数で負けた。手駒を集めなければ……」

転生官ランランカは蹌踉(よろめ)きながら、雑木林に消えて行った。


えーーっと、また再戦があるの?

     こちらの戦法が随分バレたと思うけど。


「さすがに女神は殺せんのう」

           と、フーコツ。

「ふん。あきらめるまで、何度でも撃退してやるんだから!」

        ミトラは力強く言った。



         次回「逃げ去るランランカ」(後)に続く





次回「逃げ去るランランカ」後編は、明日の日曜日に投稿します。


同時投稿中の、回文オチのショートショート「続・のほほん」は、午後からの投稿になります。


「のほほん」と「蛮行の雨」の互換性はありません。

ネタが(かぶ)るのは偶然です!

     ではまた昼から、「のほほん」で。

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