「カウ・ヴォンの盾」(後)
「ふ、ふん! 女神の落雷をそこらの安っぽい落雷と一緒にしない事ねっ!」
自ら転生担当官と名乗った白衣の女は、「女神」と言い変えてきた。
女神なのか、ただの小役人なのか?
ただの小役人で女神なのか?
対決場所は、一角馬をつないだ木や、食べ過ぎで倒れているノッポさんと太っちょさんの居る岩テーブルからは離した。
テーブルの上には、まだ沢山の食べ物が残っていたからである。
岩と木の点在する草地で、転生担当官を挟み、少し距離を空けて立つミトラとフーコツ。
ミトラはもちろんフルアーマーだし、フーコツも目にゴーグルをしたフルアーマーだ。
距離を置いて見守る形のジュテリアン。
その様子を、ぼくはさらに遠くから眺めている。
ランランカ転生官に攻撃を避けられると、同士討ちをする気がするが、二人が決めた事なので、口を挟まないぼく。
「ふん。挟み討ちってわけ? 吾輩は、二発や三発、同時に落雷させられるのよ」
左右に首を振りながら、ランランカが言った。
「やってみろ、転生の女神」
と言うなり、フーコツは大火球を射った。
「なああ!」
と叫びながら、雷を射つランランカ。
轟く爆発音。
池にいた水鳥が一斉に飛び立ち、水を飲みに来ていた小動物が逃げ出した。
雷の閃光は、秒速三十万キロではなかった。
放電先を探すように幾つもに枝分かれしながら走る稲妻は、はっきりと視認出来る速度だったのだ。
音速、いや、弾丸よりも遥かに遅い!
これは、雷にそっくりな、何か別のエナジー放射だ。
移動速度が遅すぎる。
(あれなら、サブブレインに任せれば、ぼくでも避けられる)
と思ったほどだ。
フーコツの大火球と衝突して爆散する落雷。
爆発で急激に膨張した空気の圧力が、周りの下草や土塊、木々の葉を吹き飛ばす。
さらに二発目の落雷が弧を描いてフーコツを襲った。
咄嗟に躱わすフーコツ。
すでに身体の三方に大型の銀色盾を張っている。
頭上に落ちた雷撃は高熱と衝撃波と、そして側撃雷となってフーコツを襲うが、光の盾がフーコツへの直撃を防ぐ。
とは言え、衝撃のショックで蹌踉めくフーコツ。
盾では、破壊エナジーを完全には防ぎ切れないのか?
中の質量が小さいのかも知れない。女性だし。
「うおっ!」
と叫んで、ランランカは今度はミトラに落雷を射った。
ミトラがスーパーダッシュで迫って行ったからだ。
ミトラは盾を張っていなかった。
落雷の直撃を受けたが、凄まじい衝撃音と共に人型の炎と放電がミトラの後方に飛んだ。
鎧に掛けられた呪いの何かが、破壊エナジーを後ろに逃がしたのだ。
それを証拠に、ミトラの突進は止まらなかった。
呪いはあくまで防御。
ミトラの十八番は物理攻撃だ。
ミトラの突進を見て、
「ひゃっ!」と叫んで空中高く飛んで逃げるランランカ。
「飛びおった?!」
「さすが女神!」
感心するフーコツとミトラ。
そう言えば、「蛮行の雨」に空を飛べる者はいない。
逃げられて空振りした身体を起こし、刃を出して斧化した棍棒を宙に投げるミトラ。
(『殺意満タン!』)
サブブレインが叫んだ。
(当たる! これは当たる!)
と思ったら、虹色の盾が現われて、伝説の斧を弾いた。
その盾の色を見て、
「おう、カウ・ヴォン」
と、フーコツ。
「さすがに腐っても女神じゃ」
「ふん。ぶっ壊し甲斐のある盾ね」
落ちて来た斧を受け止めて、ミトラが言った。
(なんだ? また最強の盾とか言う奴か?)
(『御意』)
と、サブブレイン。
虹色の盾を備えたまま、地上にふわりと降り立つ転生官ランランカ。
空中に長く留まれないのか?
まあ、上空からの攻撃は有利かも知れないが、空中では姿を隠す所がない。
格好の標的だもんなあ。
次回「逃げ去るランランカ」に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、第三十七話「逃げ去るランランカ」前編は、明日の土曜日に投稿します。
後編は、明後日の日曜日に投稿予定です。
同時投稿中の、回文オチのショートショート「続・のほほん」は、本日午後から投稿します。
同じ回文オチのショートショート「魔人ビキラ」は、第一部を終了しています。
よかったら、読んでみてください。




