「サブブレインのままに!」(前)
ミトラは、自分の集落で守護神をしているメタルゴールドを知っているので、色々とぼくに確認をしてきた。
ぼくにも守護神と同じ事が出来ると「便利だ」からだ。
補助電子頭脳の話だが、そもそもミトラの村の守護神が、
「サブが頼りだ」
と普段から言っていたそうなのだ。
体内のあちこちに補助推進器があったので、起動させてみた。
四本の足の裏、背中、肘、ふくらはぎ、などにあったのだ。
瞬時に噴出孔を開いてからの、エナジー炎噴出による大ジャンプ、ロケットダッシュなどを実行してみた。
空は飛べなかった。
有名な、鉄腕ア◯ムや鉄人◯8号にはなれない。
腕も飛んでいかなかった。
ロケ◯トパンチは無しだ。
しかし、人には成せぬ高度ジャンプ、異常なスピードダッシュが出来る。
利用価値、使用価値は高いと思えた。
吹き出す炎は大きく、噴出音も爆発と言ってよかった。
うるさいのだ。そして派手だ。
「敵への脅し」としても充分に使えるだろう。
「脅し」と言えば、スピーカーもあるので、大声で広範囲に伝達も出来れば、絶叫で「敵」を驚かす事も出来るだろう。
と、ぼくは思った。
そんな所へ、サブブレインが、
『注意! 注意!』と声を発した。
「何を注意するんだ? サブ?!」
『前方。曲者?』
「道は悪いし、寂しい街道だし。ひょっとしたら、うらぶれた野盗でもいるのかしら?」
と、ミトラが他人事のように言った。
(いきなり魔獣とかは、やめて欲しいなあ。こっちは実戦経験が皆無なんだから)
「転生」と言えば「冒険」。
「冒険」と言えば「戦闘」なのかもしれないが。
ミトラの旅は、テキトーに巷を徘徊して、「無事に生まれ故郷に帰る事」だと自分で明言している。
死線を超えるような戦いは願い下げたい。
そんな事を思い、
「それにしても綺麗な空ねえ。今夜は星降る夜になりそうね」
「ああ、棒状渦巻き銀河。ほぼ毎夜、見てるよ。大きいよねえ」
「ボーズマクギンガ? 何それ?」
などとノンキな雑談をしていると、
「よう。小っこい姐ちゃん。面白い物を連れてるじゃねえか」
と声を掛けてくる者があった。
声のした方を見ると、革鎧に長剣で武装した三人組が、木立ちの陰から現れた。
「『注意注意』の正体はコイツらか?!」
『御意』
「もっと具体的に言ってくれよ、サブ」
使えないサブブレインの返事を尻目に、ミトラの前に立つぼく。
いや、ミトラを守ろうとするこの行動は、サブの仕業だったかも知れない。
「面白いとは、ぼくの事か?」
と、ぼく。
これは、ぼくの意思で発したぼくの言葉だ。
「ちょっとオレたちに貸しちゃくれねえか?」
ぼくの言葉を無視して、三人組の一番大柄な男が言った。
阿呆面だが、リーダーっぽい。
「このゴーレムは転生者よ。あたしが異世界から来た魂を、この場違い工芸品に定着させたの」
と、笑顔でぼくのメタルボディを後ろから叩くミトラ。
「だから法律的にはあたしのモノなのよ。あなたたちには、勿体無くて貸せないわね」
「て、転生者だと?!」
「勇者のタマゴってか?」
顔を見合わせる野盗たち。
「そ、そりゃ、是非ともお借りしねえとな」
気を取り直した様子で阿呆ヅラのリーダーが言った。
「勇者ゴーレムを従者に出来りゃ、鬼に金棒だぜ」
『断る!』
拡声器を使ってサブブレインが叫んだ。
ぼくも負けじと叫んだ、
「断る!」と。
「なっ、なぜ二度言った?!」
ビビるリーダー。
「ま、まあ頂くんだがよ」
「パレルレはゴーレムだけど、魂を持ってるの。自立してるの!」
怒り始めるミトラ。
「あたしが命名したから、法律的にはあたしのモノだけど、あたしのモノじゃないの。メタルゴーレムだけど、人間なの!」
ミトラはそう言うと、ぼくの金属尻をポンと叩いた。
「パレルレ、ヤっちゃって良いわよ」
『御意!』
短く応じるサブブレイン。
「えええっ?!」
ぼくは思わず叫んだ。
「製造工場のしがない工員なんだよっ、ぼくは!」
(死にたくない)
その思いだけだった。
次回「サブブレインのままに!」(後)に続く
次回「召しませ!『蛮行の雨』転生したら場違い工芸品にされたって本当ですか?!」
は、夕方5時前後に投稿予定しています。
明日も「召しませ!(中略)ですか?!」
「ミトラが『蛮行の雨』」(前)(後)を投稿予定です。
明後日は、
「元・宮廷僧侶ジュテリアン」(前)(後)を投稿予定です。
ジュテリアンは、新しいチームメンバーかも知れません。
回文妖術師と古書の物語「魔人ビキラ」と、
回文ショートショート童話「のほほん」が、
第一部完結済みです。
よかったら、のぞいてみて下さい。