「ロウロイド隊長の汚名」(後)
「本物の怪我人さんたちは何事?」
と、ぼく。
「街道で、疾走蜥蜴を避けようとして商馬車隊同士が衝突しちゃったんだってさ」
「あ。なんか災難な話」
「でも、大脱走は大成功だったそうよ。魔族は漏れなく脱走したわ。砦側はそこそこ怪我人が出ちゃったみたいだけど」
「ああ。向こうはムンヌル以外、全員、本気の脱獄だもんねえ」
「そうそう。だからあたしも、真面目にバンガウアと戦ったわ。一対一では、勝てない事が分かったのは収獲だった」
「大丈夫だったか? ミトラ」
「うん、大丈夫じゃないよ。まだ腕が痺れてる。キックも凄く効いた」
と笑うミトラ。
「『お主は殺したくないのだが』なんて言われちゃった」
ジュテリアンも失神してしまったので、浴衣を着替えさせ、ねんごろに寝かせた。
「あれっ? 久しぶりの二人きりかな?」
と浴衣姿で椅子に座ったミトラが言った。
他の二人は意識がないから、この状態は『二人きり』かも。
「そうかもな」
と言ってミトラの肩と脇腹に手を置くぼく。
「ぼくのこの身体もようやく慣れてきたよ。丈夫な身体で有り難いよ。ありがとう、ミトラ」
「へへん」
と言って小鼻をピクつかせるミトラ。
「あたしは、揉み揉みは軽めで良いよ。強化剤、飲んでないし」
『御意』
と、サブブレイン。
「強化剤は問題だなあ。一度飲んだら、その後は何ヶ月も時間を空けないといけないんだろう?」
「そそそそう。巷の伝説だけど、『獣人化する』とか『魔族化する』とか言われてるるる。ヤッバイ薬らしいわわわふんあふん」
「でも、いざと言う時は使っちゃうわけだな?」
「じじじじじ実力以上のパワーが出せるのよねねねねひいひいいぃ」
「じゃあ、気をつけないとなあ」
「あははん。軽めにって言ってるのにひうあひい。あうあうっ」
やり過ぎた積もりはないのに、ミトラも失神した。
汗はそれほどでもなかった。
強化剤を使ってなかったからだろう。
翌朝。
「うああっ、気持ちの良い朝ねえーー!」
などと言う事を、三人娘は口々に呻いた。
なによりである。
「強化剤の副作用は、パレルレの執拗な揉みしだきて相殺されたみたいね」
とジュテリアン。
失神してて気がつかなかっただけ、かも知れないけど。
「つまり、パレルレの施術は、獣人化が噂される強化剤並みに危険だと言う話になろう」
えっ?!
「うあ、本当だ。古の大戦、大勇者軍が勝つわけよねえ」
ミトラはなんだか嬉しそうに言った。
「大勇者軍が受けた施術と同じモノを、自分たちはしてもらっているんだ!」
という認識か?!
三人娘は朝ごはんを食べ、朝風呂に入り、お昼用の大きなお弁当を作ってもらって、ぼくたちは砦を出た。
砦は幌馬車を用意してくれた。
再度、アルファンテに向かっての出立である。
ノッポさんと太っちょさんが同乗して、御者を交代で勤めてくれる。
馬車に揺られながら、幌の中は四方山話に花が咲いた。
「クカタバーウ砦も大変ねえ。世間的には、捕まえた魔族を逃がしちゃった訳でしょう?」
と、ジュテリアン。
完全に同情の音声だった。
「国には報告してありますから。魔王軍壊滅作戦である事は」
と、ノッポさん。
そう言えば砦は関所。公営なのだった。
「了承の返事を待たずに、脱獄劇をやっちゃいましたけどね」
「バンガウア確保の報告もトカゲを飛ばしましたけど、たぶん王様に届く前に逃げられたんじゃないかなあ」
と笑うのは太っちょさん。
「存外、自由じゃなあ、お主たち」
フーコツが呆れた。
「でも、ロウロイド隊長は、魔族脱獄の責任を取って、降格か左遷ですよ。表向きの処置ですが」
と、ノッポさん。
「また一緒に働きたいなあ。テント村に来ないかなあ」
と、自分の左遷を白状してしまうノッポ隊員。
「それも壊滅作戦の一端かあ」
と、ミトラ。
「魔族逃がしといて、昇級なんて変ですからね。ロウロイド隊長も、そのくらいの汚名は覚悟の上ですよ」
ノッポ隊員は、至ってノンキな口調で言った。
「普段から、『早く警備隊を辞めたい』って冗談を言う人ですから」
「ロピュコロス軍が内部崩壊したら、汚名が晴れて欲しいなあ」
御者役の太っちょさんが、のんびした声でそう言った。
次回「転生担当官ランランカ」(前)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
次回、「召しませ!『蛮行の雨』(中略) ホンマです!!」
第三十五話「転生担当官ランランカ」
前編は、火曜日に。
後編は水曜日に投稿します。
今日の午後は、
回文オチで、ポン!「続・のほほん」を投稿します。
ポン! な話で、笑って頂けると嬉しいです。
ではまた、のほほん、で。




