「風のシュクラカンス」(前)
「魔族にそう言われてもなあ」
と、コラーニュさんは苦笑いをした。
「安心せよ。何度も言ったが、この三人娘とゴーレム殿を相手に、もう一度戦う気力はない」
「『蛮行の雨に誰か欠員があったら戦ってみよう』と言っているように聞こえるぞ、バンガウア殿」
フーコツが話に割り込んで笑った。
魔族、バンガウアとムンヌルを会わせたのは、伝説の棍棒の「引っこ抜き体験部屋」だった。
掘り返されていた地面はもちろん、埋め戻されている。
窓が無く、逃げにくい造りになっていたから、選ばれたのかも知れない。
「ムンヌル、無事で何よりだ」
「バンガウア、話は聞いたぞ。無茶をする」
扉を開き、顔を確認するなり、声を掛け合う魔族のふたり。
「こんなとこ、人間と同じだよねえ」
と、小声でミトラ。
「しっ。聞こえるわよ」
と、囁くジュテリアン。
魔族二人は、並んで椅子に座った。
向かいには、砦のリーダー、鼻髭のロウロイドさんが、やはり椅子に座っている。
今は革製ではなく、金青の金属鎧を着ていた。
こちらの態度は股を広げ腕を組み、横柄だった。
膝を閉じ、小さな身体をさらに小さくして座っているムンヌル。
その横では、上半身を鎖で巻かれたまま、体格のせいだろう、股を広げて座っているバンガウア。
「あれで、どうやってトイレさせてるの?」
と、いらぬ心配をしているのは、ミトラだ。
砦の隊長と魔族二人の間には、伝説の棍棒が抜けてしまった神岩があった。
彼らを囲むのは、「蛮行の雨」三人と一台。
大剣使いゴルポンドさんと、僧侶コラーニュさん。
ノッポさん、太っちょさん。
そして、屈強そうな金属鎧の六人。
「ここに、噂の『伝説の棍棒が?」
と、魔族バンガウア。
「そうだ。謎の黒騎士が引っこ抜き、持って行った。まあ、所有権は抜いた者にあるし、こちらにあれこれ聞く権利はない」
「その伝説の所有者を倒せば、所有権は倒した者に移るのであろうな?」
「んあ? な、何を考えておるか?!」
「移るのであろうな?!」
「ま、まあ、そういう理屈になるだろう」
ロウロイド隊長とバンガウアの、そんなヒリヒリするやり取りもあった。
ムンヌルが、フーコツの魔の手に落ち、人間側に寝返った事は隠したまま、魔族二人に尋問するロウロイド隊長。
内容はまるで、魔族と親交を深めようとするかのような世間話だった。
魔族バンガウアの、
「帰って来ない親友の事が心配だった」
とか、
「親友の行方が気になるので調べた」
とか、
「行方が分かったので、会いに来た」
という行動は単純で理解出来たので、ムキになって問い質す事もなかったのだろう。
肝心なのは、二重スパイ青肌のムンヌルを自然に脱獄させ、ロピュコロス軍の元へ帰す事なのだ。
その事は、バンガウアを先に伝説部屋に入れてから、太っちょ隊員に聞かされた。
太っちょ隊員が、砦の大門で、
「今夜、大変な事がある」と言った話は、ムンヌルたち魔族の脱走だったのだ。
尋問の間に一度だけ、バンガウアの方から質問があった。
バンガウアは、
「お主」
と、フーコツを顎で指して、
「シュクラカンスを倒したと言うのは本当か?!」
と言ったのだ。
「ああ。三年程前の話になるが、仲間と一緒に竜族狩りに行った折に出会った魔族だ」
と、頬を掻くフーコツ。
「戦う前に、向こうから名乗った。本人かどうかまでは、分かりかねたが、仲間が『魔王軍の大幹部の名だ』と言っていた」
「容姿は覚えているか?」
「勿論だ。手強かったからな。緑色の肌をしていた。銀色のロングコートに銀色の褌。
大剣と風魔法を操っていたな。背丈は二ペート半(二メートル半)くらいの、ひょろりとした男だった」
「確かにその容姿はシュクラカンスだ。竜狩りに出掛けて、もう、三年になる。そうか、ドラゴーラではなく、お主に狩られていたのか」
「いや、相打ちだった。ワシは真っ二つに斬って捨てられた。その後、蘇生したのだ」
「その蘇生ってとこ、もっと詳しく!」
ミトラが鋭く割り込んだ。
次回、「風のシュクラカンス」(後)に続く
お読みくださった方、ありがとうございます。
第三十一話「風のシュクラカンス」後編は、明日の金曜日に投稿します。
回文ショートショート童話「続・のほほん」は、本日午後からの投稿になります。
懲りずに投稿しております。
懲りずにお付き合い頂ければさいわいです。




