「呪われた鎧」(後)
赤色と言うと、千五百度ぐらいまでだっけ?
黄色は、三千五百度くらいまでだったと思う。
白色は、六千五百度ぐらいだったか?
青色となると一万度を超えるから、そういう高熱を操る相手には勝てない、と言う事だ。
「水の上を走る呪い」
ミトラは泳げないので、掛けたそうだ。
ただし、
「歩こうとすると沈む」と言う。
「ひたすら走るのみ」なのだ。
そういえば、
「泳ぐのを休むと溺れてしまう魚」
って、何種類もいたはず。アレの親戚か?
「パレルレもその身体じゃ泳げないだろうから、あたしがおんぶしてあげるよ」
とミトラは言った。
質量に関係なく、沈まずに走れるらしい。
さすがはニンフ呪術である。
「三十分、息を止められる呪い」
生き物は皆、呼吸をしている。
だから派手な破壊魔法よりも、相手の「呼吸を止める術」の方が有効なのだ。
「呼吸を止めれば、詠唱も食い止められる。これは大きい」
と、ミトラは言った。
だから、相手の呼吸や詠唱を止めようと、敵の顔に水球などを飛ばす魔法使いは多いのだそうだ。
「自分たちは、目に見えない空気と言うものに包まれて生きている」
「このエーテルは呼吸に直結している」
「炎を出すのにも、燃やし続けるのにもエーテルが必要」
と、ミトラは認識していた。
エーテルを遮断すれば炎は消える。
人も死ぬ。窒息死だ。
この世界でも、すでに「空気」は認知されていたのだ。
物を燃やすのは「燃素」だとミトラは言った。
「酸素の発見」まで、もう少しだと思う。
ミトラは、一時間くらい息を止められる呪いを掛けたかったのだそうだが、呪力が足りなくて、三十分に落ち着いたと言う。
全部で八十八の呪いが掛けられる鎧なのだが、まだ半分くらいしか埋まっていないそうだ。
一度呪うと、一生呪われ続けるので、
「そこは慎重にしている」んだとか。
そして、動き出した補助電子頭脳とは、多少、意思の疎通が出来るようになった。
「すると、ぼくの内臓や電子眼は、絶縁体で守られているんだね?」
『御意』
と、エコーの掛かった声で答えるサブ。
こう言う会話は、ミトラにも聞いておいて欲しくて、外部スピーカーを通して話した。
「魔法には、雷撃系もあるだろうから、それなら大丈夫だね」
『絶縁破壊』
「えっ? ひょっとして高電圧で攻撃されると、絶縁体も電気を通しちゃうのかい?」
『御意』
「除電器とかないのかい? 前の世界の、ぼくが勤めていた製造工場には、あったぜ」
『存在』
『逆極性イオン』
『帯電』
『中和』
「ああ、良かった。高電圧は中和してくれるんだな。でなきゃ、魔族と戦えないもんな」
と言うような、かなりこちらに負担が大きい会話だが、出来ない事もなかったのである。
ミトラに内緒話をするのもアレなので、普段はスピーカーを使って、出来るだけ外に漏れる音声会話をする事にした。
(必要に応じて、内緒話もアリだ)
『御意』
「何が御意なの?」ミトラが反射的に言った。
『只今音声試験中』エコーを震わせて誤魔化すサブ。
(まさかこのゴーレム、ポンコツなので捨てられたんじゃないだろな!?)
と思ったのは、誰にも内緒だ。
次回「サブブレインのままに」(前)に続く
四百字詰原稿用紙、八〜十枚くらいを一度に投稿するのは、シンドイ。「魔人ビキラ」で懲りた。
で、一話を二回に分けて投稿しています。
ご容赦ください。
次回「サブブレインのままに」は、金曜日に投稿予定。
ついに野盗に襲われて、冒険活劇らしくなります。
果たして、工場勤めだった一般人が、戦えるのか?
あっ、そのためのサブブレインの目覚めだったのかっ?!
その真実は、次回を読んで確認されたい。